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伽藍堂の勇者  作者: 不落八十八
三章「勇者達の休息」
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「勇者達の休息」-1

「……それは本当なのか」


 ティアール城奪還の報せを聞いて仰天したギルドマスターであるグラン・ボルトは、秘書である妹のアルナ・ボルトに問い直す。

 南下したギルド本部は南の最果ての地に存在する魔法都市フェルナンの最前線部にある。前線から少し離れたギルド仮設テントでその報告を聞いたグランは耳を疑った。

 確かに人類は三年でここまで追い込まれた経緯があるが、ティアール城は東の大国でも堅牢を誇る城塞に分類されていた筈であり、屈強な魔族が籠城すれば奪還は厳しい。しかし、報告によれば、魔族に力を与える瘴気を供給する魔導炉の破壊が成功する前に、下級魔族を全滅させたという。

 厳つい顔で報告書を読むグランにアルナは無言で肯定した。兄のグランは大熊のような筋骨隆々の大男であり、妹のアルナは知的でスレンダーな眼鏡秘書美人だ。二人を交互に見ても兄妹とは思えぬ性格不一致で、初対面の際に驚愕するお客人も多い。


「おいおい……。勇者ってのは化物揃いか? 南下して正解だったな。間違えたらフェルナンが落ちてたかもしれん。あの馬鹿がやけに東を推したがこればっかりはなぁ……」

「ああ、ヴィラ家の彼ですか。確かに東への討伐を頑張っているそうですが、何故あれ程までに東に執着を?」


 厳ついグランに尋ねるアルナが浮かべるルークス・ヴィラと言えば、数少ないS級冒険者であり、武に力を入れる武装公爵家の次男の青年だ。公爵家を継がない身であるからか、武に長けた事を利用し冒険者生活を送る変わり者と噂され、アルナよりも彼の実態を知るグランは鼻で笑う。


「あの鉱山で有名なアレイクト家の娘さんに会いたいからだろうな」

「アレイクト家の娘に? 彼、夜会に出ない事で有名ですが接点があったんですね。武具関係でしょうか」

「いんや、七歳の幼女に欲情……もとい惚れたらしい」

「……は?」

「だから、ルークス・ヴィラは幼女愛好家の変態で、偶々見かけたアレイクト家の嬢に欲情したんだと。確か七年前だったか。あの馬鹿本気でアレイクト家に婚姻届をヴィラ家経由で贈って、ドン引きしたアレイクト夫妻に出禁喰らったんだよな」

「……真性じゃないですか」

「それの憂さ晴らしにS級になったんだぞあの馬鹿は。襲うかもしれないから東への任務は絶対に渡さなかったんだ」


 そうグランはくつくつと笑うが、反面アルナは背筋を冷やしていた。とんでもない事をしてしまった、という表情に言わずもがなグランが察する。


「……まさか」

「え、ええ。……その、今思い出しましたが、私、言っちゃいました」

「な、何をだ?」


 グランが困惑する顔は二年前にアルナがブラコンを爆発させて過ちを犯した翌日振りであり、当時の事を少し思い出して頬を赤らめたアルナだが、グランはそれどころではなく言葉を目線で急かす。ルークスはギルド随一の実力がありながら色々と扱い辛い人物であり、ギルドマスターとして尻拭いをさせられるのは勘弁したいのだ。


「……アルナ?」

「…………ぁ、はい、ええと風の巫女様が風の勇者様とお付き合いしている。こんな世でも華やかな話題もあるものですね、と」

「……風の巫女様つーと、アレだろ? ウィンクル・アレイク……トぉッ!? 火薬庫(じらい)じゃねぇか!」

「そうなんです」

「……東門?」

「……はい。全力疾走でした」


 つまり止めようにもルークスは既にフェルナンを出ており、手遅れな状態で出遅れの情報がグランに届いた訳だ。ルークスの執着心を抑えるために言った「いつか口利きしといてやるよ」という口約束が効果を無くし、むしろ大変な事態を招くかもしれない火種に成りかねない。


「……風の勇者様死去。犯人はルークス・ヴィラ。加害者は風の勇者様を殺害後、婚約者を拉致し……ってなったらヤバイな」

「で、でも風の勇者様は中級含めた魔族数千を屠りアルカンシェルを救ったそうですよ? むしろ、ルークス・ヴィラ処刑。婚約者を狙い風の勇者暗殺を画策するが返り討ちに、ってなるかもしれませんよ?」

「……どっちにしろ最悪じゃねぇか?」

「まぁ、何とかなるでしょう。風の巫女様は争いを好むようでは無いようですから」

「……だと良いがな」


 グランは心底疲れたように嘆息し、アルナに珈琲を頼んだ。アルナはグランに頼まれたからかニコニコと了承し、ルークスの生死なぞ興味を失せた様子で銀コップを取りに行った。

 天を仰ぐグランはあーでもないこーでもないと皮算用めいた思案を始め、アルカディアとの経路の開発と未だ終わらぬ土の勇者召喚のための魔力費用等の計算をする。どうせならギルドからの伝達係としてルークスに行って欲しかった、とグランは過ぎたる事態にうんざりした。


「あの馬鹿が厄介事を持ってきたら縁切るかねぇ。確か勇者様の階級って王族並みの権力扱いだった筈だし……、最悪内乱か? 今の時期には勘弁して貰いたいし、さっさと下手に出る前に対等な契約拵えるとするかねぇ」


 扱い辛い幼女愛好家のルークスと危険なハニートラップを仕掛けるアルナが居ないためか、グランの心境は少し軽い。が、胃薬の用意をするべきだな、とグランは予想しながら、嘆息混じりでアルカディア女王宛に今後の次第を問う内容の手紙を書き始めた。


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