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伽藍堂の勇者  作者: 不落八十八
二章「ティアール城奪還作戦」
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「ティアール城奪還作戦」-13

 死とは全ての生きるモノに対し、唯一平等に配られた死の神の贈り物だ。しかし、それを拒否した魔術師により生み出された魔法生物はやがて魔族と呼ばれる魔の住人となり、長い時と概念を経て魔族の一部として認められた。

 その中で人間に縁のある魔族は多く、欲望に堕ちた淫魔族を差し置いて多数を占めたのは、アンデッド族と呼ばれる死を冒涜する者たちだ。その中でも希少種と呼ばれる首無し騎士(デュラハン)は生来の素質を持って派生するため、最上級魔族たる魔王の下に当たる上級魔族に分類される。力ある武人が首を落とされ死ぬ際に、怨恨や懺悔等から首無し騎士(デュラハン)になるとされていて、処刑する際の断頭台(ギロチン)が撤廃された理由という形で人々の記憶に残っている。


「閃光のライジングは首無し騎士(デュラハン)……。それは本当ですか? 断頭台(ギロチン)は何処の国でも使われない処刑方法です。元は人間である首無し騎士(デュラハン)が存在するとは考えられません」

「……いや。別に断頭台(ギロチン)以外にも地方の斬首刑や決闘に諍い、強盗や盗賊のお遊びやら沢山ある。首の無い騎士と馬が確認されている以上、首無し騎士(デュラハン)と断定し対策を考えるべきだ」

「首無し騎士(デュラハン)の弱点は?」

「奴等は心臓では無く頭をコアにする魔族だ。大切に抱える頭を潰すか死体の無い場所で体を焼き払うか、だ。頭がコアになるから頭さえ残って居れば他の死体の体を得る可能性もある」

「頭さえ残っていれば操る死体の体を瘴気で再生できるため、燃やして浄化するか頭を潰すかしなければ幾度も復活する厄介な魔族でしたね」


 ノブナガたちがティアール城奪還に成功した翌日に飛ばした鳩により、アサギたちへ作戦の成功が伝えられた。アルカディアに帰還する負傷者の護衛を兼ねてアーサーが帰還。ノブナガはティアール城を次の拠点にすべく拠点化を開始し、オークの死体は一部を除いて食肉として加工、ゴブリンの死体は使い所が無いため肥やしとして処理された。無惨な最期を迎え路地裏に打ち捨てられた死体は集められ、アーサーの清めの炎により聖なる火葬をされてから共同墓地へと埋葬された。

 此の度の戦いでは負傷者十人に死傷者四人という少ない犠牲が出ただけという事もあり、ノブナガとアーサーの実力はアルカディアに広まり、最初の頃のような不信感が嘘だったかのように消えた。

 最大戦力たるアサギが次の戦に参加した時を考えれば、冒険者や騎士の士気は上がり、住民たちも安堵の息を吐き、戦勝ムードが広がり始めた。

 その現状に待ったをかけたのは、閃光のライジングと剣を交えたアーサーの齎した情報だった。此度の邂逅により人類軍側の行動が明るみに出た筈であり、被害は軽度でありながらも疲れが残るティアール城を再び進撃される可能性は無いとは言い切れない。

 急遽ノブナガを交えた軍議を開き、魔王軍殲滅貢献者の筆頭たるアサギは進軍派の意向を示したが、対して戦局を見るノブナガは全体像を把握するまでは迎撃派となり、アーサーもまた鍛錬不足や人類軍の教育不足という点から迎撃派に参入。人類軍の意向はティアール王国の拠点化を第一とし、魔王軍側からの進軍に対してのみ迎撃をする形で軍議はエーテルの承認により終了した。

 

「……で、何故俺が教官側に立たなきゃならねぇんだよ。アーサーさんで十分だろ」


 軍議は全体の決算や食糧率等の運営関係の議題を終え、迎撃に関連する人類軍の訓練や閃光のライジングの出現の議題へと移り変わり、百日前には実際に切り結んだ経験のあるアサギに首無し騎士(デュラハン)の生態を説明して貰っていた時の事だ。

 閃光のライジングにリベンジをしたいと燃えるアーサーにアサギが全体指導の教官側に立って欲しいと願い込んだのだ。

 案の定アサギは面倒な事柄故に難色を見せ、実際に嫌な顔をして顰めていた。アサギ的にはどうせ進軍しないなら、ウィンクルといちゃついて好感度を上げて、告白(プロポーズ)に向けて準備がしたいのだ。その気持ちはティアール城奪還作戦後のアーサーには痛い程分かるが、騎士として、いや、本当の勇者と成りたいと力を求めるアーサーは鍛錬の方が大事だった。アサギが教官として素晴らしい才能を持っているのは覗いていたから知っているし、面倒を嫌うアサギにはウィンクルという切り札(ジョーカー)を使えば何とかなるとは知っていた。

 だからこそ、アーサーはウィンクルを使う事なくアサギを説得しているのだ。他力本願は性に合わないアーサーは己が求める側故に、誠意を持って自分で説得するべきだ、と真っ直ぐにして愚直な考えを取り払う気が更々無い。

 それが実はアサギに対して一番の説得力があるとは知らずに、だ。


「アサギ殿は私の知らない戦術や鍛え方を知っている筈だ。剣を振るうだけしか能の無い私では彼等を導く事は困難であると、此度の敗北で私は悟ったのだ」

「………………」


 真っ直ぐな視線を向けるアーサーに対し、分が悪く感じてきたアサギは内心困惑していた。自分がこのような裏の無い真っ直ぐな感情を向けられる事に慣れていないのは知っていたが、意外にもかなり際どい所まで追い詰められるとは思っていなかったのだ。この場にウィンクルが居れば一発でKOだったに違いないと苦心を浮かべ、ふと気付く。

 ーーこれ断ったら俺、立場ヤバいな。

 ウィンクルといちゃつくだけで他の仕事らしい仕事をしない状況は社会的に相当拙い状況では無いか、とアサギは内心冷や汗をかき始めた。仲間に裏切られて終了した勇者生活の終わりを脳裏に浮かべ、ならば今回はどうなる、いや、どうしたいかを考えてみれば、兵士長でも教官でも指揮官やら戦向けのポストに着くべきでは無いかと考え直す。


「……すまない。無理を言ったな。この話は」

「受ける」

「なか……、え?」


 アサギは再び掌を返し、アーサーの言葉を遮り了承の意を示した。そんな魂胆に気が付かないアーサーは喜び、エーテルとノブナガは苦笑を隠した。


「ほ、本当か!」

「ああ、剣が本業のようなもんだからな。鈍るといけないしさ」


 ーーそういう立場にも成れるのをアピールした方が良いだろうしな。渡りに船だぜ。

 心的余裕が増えてきたアサギはしれっとそれらしい理由を付けて教官役を引き受けた。自分を裏切った国の貴族たちの気分が少し分かったアサギだが、外道(それ)と正攻法(これ)は別だと内心で断言した。

 ーー何れ実力主義の国に変えるのも悪く無いな。

 恐ろしい事を考え始めたアサギは仮面のような笑顔で内心を隠したが、瞳の笑ってない笑みにエーテルとノブナガは戦々恐々している。訓練内容を考えるアーサーは論外であり、この場にはアサギを止められる人物が居なかったからだ。


「あ、アサギ様。お手柔らかに……ね?」

「必ずや強靭な戦士に仕上げます」


 その自信溢れる言葉でアサギの思惑の見当が付いたエーテルは、アデルの肩身が狭くならない事を祈りつつ頷くしかできなかった。「〜ましょう」のような希望的観測めいた口調では無く、アサギがしたのは断言である。

 ーー魔王軍と戦(や)り合う前に潰さないと良いが……。

 ノブナガは遣る気満々なアサギの横顔を見て、そう内容呟いた。司令官的な立場から見ればアサギの教官参加は大変喜ばしい事だ。実際、学びを教授されたハイルの働きは良いものだったし、アサギの教官としての才能はあるからだ。

 ただ、地獄の鬼軍曹のような風格が垣間見えるのが、アサギに対するノブナガの一番の悩み何処であった。

 翌日、鬼教官アサギが愛らしいウィンクルと現れ、騎士団と兵士団及び冒険者一同を感激と恐怖で二度震撼させたのは言うまでも無い事だろう。


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