「ティアール城奪還作戦」-11
「グギャギィギャキャ!」
「グャギャアギャア!」
「ギギギャギィィ!」
ティアール城奪還の決戦は食料庫の不審火により決行され、同族にいきなり叩き起こされた下級魔族たるゴブリンたちは、猿のように皺々な顔を歪ませ戸惑いの声を上げていた。
支給された棍棒を取らずに外へ出たゴブリンたちはぞろぞろと歩む仲間に混じり、ティアール城内を歩いて行く。それは低脳な知能故に団体行動しかできないゴブリンの習性である。
そして、知能が低いために本能が強く、生殖活動は鼠級に高いので有名である。基本的に子を産む雌が強く、空腹時に雄が性的にも食事的にも食べられるのはよくある事で、精子が卵子に結び付いた感覚があってから空腹欲求で目の前の雄をグロテスク極まりない食事方法により喰らうのだ。それを見てしまった一部新人冒険者たちにトラウマを作ったりしている。
また、ゴブリンはオークと違い他種族の子を産んだり作る事は無いので、一部の人間は有効活用するために乱獲した時期もあったが、基本的にゴブリンは生命力が低いため失敗に終わり、実験と称し凍結かつ暗黙的に実験結果は消え失せているらしい。ティアール国のとある愛好家貴族の地下室には未だに生きているゴブリンが居たらしく、現在のように増えまくっている原因となった。
「グギャッ!?」
だが、的が増えただけで決戦には支障無く、むしろ優位に立つ事となる。単純に騒ぎに驚いたゴブリンたちが廊下に出まくって、圧迫し合う程に詰まったのだ。轟音と共に近くの壁が爆散し、数多くのゴブリンを巻き込んで爆発が起こる。血が喉を埋め、苦しみ呻きながら空いた穴を見やれば黒い球体が飛び込む。瞬間、容赦の無い爆炎が爆風と共に傷付いたゴブリンたちの肌と生命を焼いて殲滅した。続いて魔法弾による第二砲撃が始まり、廊下に居たゴブリンは火の魔法弾の着弾により燃え盛り、大鋸屑を燃やしたかのように焼き広まり全滅した。
「魔法班止め! 照準右に二、左に半、上に一! 食料庫前の奴らを吹っ飛ばせ! 大砲班砲撃開始! 」
陽動部隊による不審火により鼻の敏いゴブリンを誘導し、誘導部隊の追いたてにより一箇所へ集め、本陣部隊後衛に潜む大砲班と魔法班による砲撃で殲滅するフェイズ1が成功。諜報部隊は作戦の経過を報告しながら、遊撃部隊に制圧する場所を示す。一連の遣り取りは初めてながら、ノブナガ的に辛うじて及第点を与える出来であった。
「推して参る!」
「くたばれやぁあ!!」
騎士と冒険者の混合本陣部隊が突撃するフェイズ2が開始し、鬨の声が作戦決行の合図となる。城の側面に当たる部分は砲撃により壊滅し、中枢や城下町に現れた生き残りを彼らは枯葉を踏むように殺して行く。聖剣を持たぬ冒険者とはいえ、ゴブリン一匹をソロで倒して昇格するC級冒険者だ。多数と多数の戦いになれば知能の高い冒険者側に軍杯が上がる。それも、ノブナガの防御術式が掛けられた防具ならば尚更だ。
「行けッ! 複数人で押せぇッ!」
「各個撃破を忘れるなッ!!」
「隊列を崩すなよ騎士さんよぉッ!」
「足を引っ張るなよ冒険者ぁッ!」
「「上等だテメェッ!」」
怒号と共に連携する騎士と冒険者たちは剣は交わさず背を任せ、眼前のゴブリンへ向かって行く。投げナイフを投げた冒険者が作り出した隙を、騎士が背後から接敵し首を切り落とす。餓鬼のような乏しい裸体を晒すゴブリンたちに防御の概念は無く、ただ只管に敵を殺すだけに特化している。
ーーまるで獣だ。
騎士は振り下ろされた棍棒を切り飛ばし、懐に入り込み盾で顎を殴り付ける。脳を揺らされてその場でたたらを踏むゴブリンを切り払い、冒険者が浅く仕留めきれなかったゴブリンの腕を切り捨てる。絶叫しながら冒険者の槍に心臓を突かれたゴブリンは血反吐を吐いて息絶える。
死に行く際に何かを掴みたかったのか虚空へ手を伸ばしながら、ゴブリンの瞳から生気が失くなり地面へ倒れて行く。そんな亡骸を一瞥し、騎士は次の敵を探す。
「うわぁッ!?」
ゴブリンの死体を轢いて裏路地から現れたオーク。殺意のある突進が不意を突かれた騎士を吹っ飛ばす。ぐちゃりとゴブリンの死体を踏み潰し、オークは闇夜を振り払い現れ始める。
騎士が盾を構え、足軽な冒険者はその後ろに立ち援護の陣を組み上げる。それはオークの常識的な倒し方だ。下級オークは大振りで直線的な動きをするが、分厚い肉が心臓や臓器を守るためどうしても持久戦になり易い。
「風よ、我が手に力を!」
「火よ、我が手に力を!」
先陣を切ったのはウィンディの風魔法とハイルの火魔法だった。風の刃が火球を巻き込んで炎の刃と成し、オークたちの顔を焼きながら切り裂く。焼肉でもしたような豚の焼ける匂いが食欲をそそるが、醜い顔のオークを食べる気にはならない。
「ハイル、タイミング合わせろ!」
「了解!」
ハイルの観察眼は何も敵にだけに使うものではない。ウィンディと視線を交わし、彼女の向かう道を把握し、その道の小石を取り除くような連携をハイルは実行する。ゴブリンを数十切り捨てた後だが、アーサーやアサギとの訓練で培った体力がハイルを後押しした。
ウィンディの薙ぎ払いにより裂けた箇所を、逆から切り裂き、臓腑を吐き出しながら呻くオークの一撃を避け、背中に回り背骨を圧し折る。
本来ならば数分を要するオークが数十秒で始末され、歓喜の声と二人を称える声が響く。私に続けと言わんばかりの頼れる背中に他の騎士や冒険者たちも追従する。
「盾をしっかり構えろ! 突破されんじゃねぇぞ!」
「応ッ!」
「殺れ! 殺れぇッ!! 人間舐めんな!」
騎士が足止めするオークに狙いを付けた冒険者たちは次々と殺到し、目、首、脇下、心臓等の急所を狙い、ゴリ押し気味に潰して進む。その先を駆けるハイルは中枢の魔導炉を破壊しに向かったアーサーを心配し、時折ウィンディに気付かれて頭を叩かれていた。
「二歩遅いッ! 喰らいつけ馬鹿者が!!」
「ごめんなさい!」
傍目から見れば強気な女房を持つ気弱な夫にしか見えないハイル。
アサギから教わった体術で手首をへし折り、棍棒の先を切り裂いてからそれをオークの胴へぶち込んで離脱。杭を打つように盾を叩きつけウィンディが更にぶち込み、オークがよろけて後ろのオークを巻き込んで倒れた。すかさず首を切り裂き血の噴水を噴き出させ、存分に浴びて目を潰された隣のオークを殴り殺す。
「残り二匹だ! 先を行くぞハイル!」
「は……、え!?」
戦場を踏破する益荒男の如く勇ましさでウィンディは獰猛な笑みを浮かべた。
ーーあ、止めるの無理な顔だこれ!?
一騎当千の兵の顔をしたウィンディが風の魔法で加速し、ゴブリンの集団に衝突するようにエンカウントした。
「ああ、もう!! 火よ、我が手に力を!」
火の魔法を投げ、ウィンディだけを見ていたゴブリンの不意を突き、ハイルもまた乱戦に参入する。旋風のようにウィンディの槍捌きが炸裂し、周囲のゴブリンの首を切り裂く。もはや暴風と化したウィンディに近付くのは逆に危ないとハイルは、少し離れながらアサギ式一撃必殺を念頭に入れゴブリンの急所を的確に狙って行く。なるべく不意を突かれぬように死体から離れながらゴブリンを殲滅し、ハイルとウィンディは最後の一匹を正面と背後から始末した。
「気配が途切れたな。よし、ハイル。次の戦場を探すぞ」
ウィンディの良い笑顔と血濡れのサムズアップにハイルは苦笑せざるを得ない。アサギとの模擬戦の効果か、ウィンディには返り血のみで一切の傷は見当たらない。かといってハイルもアサギから生き残る回避の仕方等のレクチャーに救われている。
ーー当の本人ならもっと凄いんだろうな……。
ハイルは足早に歩むウィンディを追いながら辺りを警戒し、ティアール城からの轟音にアーサーの事を想った。
「……まぁ、アーサーさんなら如何にかするか」
自分よりも強い恋人を心配しつつ、ウィンディの背を追う事にハイルは集中した。悪い敵は居ねぇがぁと某風習の鬼の如く走り回るウィンディにハイルはいつの間にか振り切られ、ならば仕方が無いと諦めてティアール城を目指した。ウィンディの向かった先には本陣部隊が突っ込む方向だったため、危険は無いだろうと判断。むしろオークたちの方が危険だろう。
そんな事を考えているハイルは西通りと呼ばれる活気ある場所を通過していた。今ではオークやゴブリンの血生臭い異臭に噎せ返る悲惨な光景が広がっており、オークたちが現れた路地裏には拷問されたかのように無残な姿の女性たちの腐り切った亡骸が放置されていて見れたものではなかった。
月光が差していた路地裏の光景を見てしまったハイルは、背を向けてその場で胃液を吐いた。戦闘前に食事は厳禁であるのは、腹部を殴られた際に嘔吐して死ぬ可能性があるからだ。アサギに知識を叩き込まれたハイルは当然としてそれを知っていたが、知らなかった者たちの中では死人が出ていた。主に窒息死や吐き気により集中が切れて殴り殺されたらしい。
ハイルは第二制圧部隊と合流した遊撃部隊に紛れて、恋人の居るティアール城へ向かった。




