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伽藍堂の勇者  作者: 不落八十八
二章「ティアール城奪還作戦」
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「ティアール城奪還作戦」-10

「おい、聞いたかあの噂」

「あん? どれだよ。勇者様方には有り過ぎんぜ」

「アサギ様だ」

「ああ、あの風巫女の恋人っていう?」

「あー……、そういやそんなのもあったな」


 レッドハットは通り名で活動をしている冒険者にして吟遊詩人だ。アルカンシェルには観光のために来ていたのだが、魔王軍の活発化により出るに出られなくなった冒険者の一人である。吟遊詩人でありながら冒険者をしているのは、こうした際に噂や興味深い話に聞き耳を立てても咎められないのも理由の一つだが、元盗賊という前科を隠すのにはぴったりの職業であるからだ。


「なんでも盗賊やら山賊嫌いで特に女犯した奴とか、村を襲った奴には容赦無いらしいぜ」

「……あの荒くれガッザが最近姿が見えないのって……」

「……まぁ、つまりはそういう事らしい。現場見られて四肢をぶった切られた後焼却炉に放り投げられたそうだ。取り巻きの連中も芋づる式に、って話だぜ」


 ーー義賊なら大丈夫……だよね?

 レッドハットという通り名は、彼女の被る帽子が印象的だから、と人々が付けた名であり、それはレッドハットが掛けた認識阻害の魔法による印象操作の結果である。帽子にのみ意識が行くように仕向けた魔法は、義賊クリムゾンとしての姿形を誤解させるために生み出した魔法であり、レッドハットの要たる魔法の一つだ。霧の中で赤い帽子だけが見えたのなら、誰もが赤い帽子だけを印象に捉える。これはそのような魔法で商売敵を作らぬように使っているだけで、今は悪用していない。


「おいおい……、マジかよ。って、残ってる荒くれ者居なくね? 全員死んだのか?」

「さぁな……、噂じゃ秘密裏にアサギ様が粛清しただの、尻尾巻いて逃げ出して外でおっ死んだの色々混ざってるさ」

「まぁ、住みやすくなったのは良い事だよな。……あー、そういや。義賊クリムゾンはアサギ様的にはセーフなんかね? 最近聞かねぇけど」


 自分の裏の名を呼ばれレッドハットは内心冷や汗をかきながらも、ポーカーフェイスを維持した。義賊クリムゾンの正体は不明であり、今までバレた試しは無い。しかしながら、あのアサギ様ならば、と考えてしまうのも仕方が無い。


「そりゃそうだろ。義賊クリムゾンは民の味方だろ? 今やったら火事場泥棒じゃねぇか」

「ああ、それもそうだな」

「それと、お前さんが気になるだろうと思ってだな」

「おいおい……聞いてきたのか?」


 勇者アサギは今やアサギ様と呼ばれる人物であり、冒険者の噂を纏めると、戦場では一騎当千の武神、国では悪逆非道を赦さぬ冷血漢、風巫女の前では優しい少年という三つの顔を持つ人物とされている。教官たるアーサーの強さはS級冒険者並みと言われているが、そのアーサーを手を抜いて倒せる程の力を秘めるアサギは如何程のものか。アサギの力の底を見た事の無い冒険者たちは対抗馬にノブナガを押す。ノブナガもまたアーサーよりも強いと言われていて、彼が用意した防御術式を刻んだ木の防壁砦は鉄すらも越える硬度を持つ事で一躍話題となった。

 

「おう。ほら、アサギ様は教官殿と闘(や)るだろ? ぐったりと教官殿が休憩している最中は、アサギ様はフリーで暇そうだから外柵に居る奴らと雑談すんだよ。最近は風巫女の話題が多かったがガッザの件やら尋ねてる時に俺が聞いたのさ。義賊クリムゾンはどうなんです、ってな」

「へぇ? どうだったんだ?」

「それがよ。アサギ様は別に悪名で粛清してる訳じゃなくてだな。他人の幸せを奪う輩が単純に嫌いなんだとよ。なんでも前に滞在した長閑な村が盗賊崩れの傭兵に蹂躙された事があったらしくてよ。アサギ様は水汲みで離れてて助けられなかったそうだ」

「あれ? それってアレだろ。アサギ様が国に裏切られた後の話ってやつだな。確かあの聖剣を魔剣化するくらいに激怒して城を王ごと潰したんだっけか」


 ーー聖剣が魔剣化して国が滅びた?

 レッドハットは新たな詩のネタになるだろうと皮算用し、頭の中にメモを取る。レッドハットと名乗る頃に聖剣の碑文を見て詩を作ったのは良いが、最近マンネリ化し始めたのだ。吟遊詩人は別にレッドハットだけという訳では無いし、儲けるレッドハットの詩を文字って稼ぎにする三流吟遊詩人も存在する。当面暮らす生活資金は貯まったが、暮らす場所が無くなると困るため、遠征に参加しつつ儲けて、魔族の剥ぎ取りで再び儲けようと画策したのだ。

 ついでにと考えていた噂拾いが功を示しそうだ、とレッドハットはほくそ笑む。


「あー……、でもよ。アサギ様に当時の事は聞かない方が良いぜ。相当気に止む件らしくてな。尋ねた馬鹿が一瞬でアサギ様の殺気で気絶したぞ。あの場に居たが、まるで氷の杭を心臓に打ち込まれた気分だったぜ」

「何それ怖ぇ」

「で、結局そいつはアサギ様を視界に入れるだけで背筋がこう……ピンッとなって絶対的な忠誠を誓うようになったらしい」

「え、それってアルマーニの事じゃねーか。理由を聞いてもアサギ様推しだったのはそういう事か……」

「あー、アサギ様推しで思い出したが。そういや、アサギ様の親衛隊がいつの間にか出来てて、こそこそ集まってるらしくてよ。恋人の噂で風巫女の親衛隊と衝突間近って話だが大丈夫かねぇ?」

「……何と無くだが、少なくともアサギ様と風巫女“だけ”は大丈夫だろ」

「……違いねぇ」


 ーー風巫女って誰なんだろ。

 レッドハットは情報収集よりも日々の資金を優先して詩を唄っていたため、アルカディアの噂話やらは聞いても、詳しい話までは知っていなかった。冒険者として後衛に紛れていたために、前線に居たアサギたちを見ていないのだ。加えて、アルカンシェルが魔王軍に襲われた際も市民の避難を注意する側に奔走していたため機会を逃した。

 ーーアサギって勇者は今回居ないみたいだし、ボチボチやるかな。

 噂拾いに精を出すレッドハットは野営用のテントの近くにこっそりと移動し、聞き耳を立てて行く。先程の冒険者二人以外にはあまり成果は無く、肩を落としたレッドハットは自分に振り分けられたテントへ戻る。中には女性冒険者たちが数人眠りこけていて、女体に埋れた自分の場所へ潜り込む。

 明日の決戦に向け、英気を養うために。

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