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伽藍堂の勇者  作者: 不落八十八
二章「ティアール城奪還作戦」
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「ティアール城奪還作戦」-9

 朝霧庵は元来地球に住んでいた異世界人であり、アルカナに住む人たちとは違う体質を持っていた。

 アルカナ人のように、精霊と契約し空気中の魔力を精霊に仲介してもらい、魔力を得ている訳ではなく、精霊の仲介無しに魔力そのものを蓄える事ができるアルカナでは異常な才能を持つ。

 魔力は血に宿り、体中を回っている。これを並列できる回数でライン分けされ、一本(ワンライン)、二本(ダブルライン)、三本(トライアングル)、四本(スクエア)に大別される。評価的には、初歩、平凡、優秀、最高峰である。

 魔法は精霊との契約により使う事ができるものだ。そして、一番ややこしいのは、魔力は精霊を媒介にしなければ体内に留めておけないという事だ。通常の呼吸のように必要最低限の魔力しか体内には残らないため、貯蔵魔力量は契約後に増減する。貯蔵した魔力から幾ら魔力を排出出来るか、というのがラインの本数に直結し、精霊との相性で本数は決定されるのだ。

 本来の魔力の持ち主である神に許可された四属性の精霊王たちにお伺いをしなければ、魔法は発現不可能。神が卸した魔力を、四属性の精霊たちが契約者と売買するような感じである。

 そして、魔力が勝手に吸収され膨大に膨れ上がり続ける体質である異世界人のアサギは、異世界のファンタジー知識から魔法をイメージし、精霊の契約無しに魔法が使えた。その力はアルカナの秩序を破壊するものだと考えた四精霊の王たちは、アサギのラインを即座に一本のみに封印した。その結果、膨れ上がる魔力を適度に排出せねば魔力暴走により死に至る体質に打って変わった。

 アサギは魔力暴走により心身共に壊れる事を繰り返しては、勇者の加護により無理矢理蘇生され絶望を噛み締め、剣技に魔力を込めて放つ等の魔力コントロールを得た。


「ーーって感じだな」


 ウィンクルに甲斐甲斐しく介護されながら淡々と述べたアサギはけろっとしていて、今回の件を怒るに怒れない内容に一同絶句していた。

 心身壊れる度に魔力貯蔵量が爆発的に増え、漸く自身で魔力をコントロールできるようになった時には魔王との決戦を急ぐ日々であり、幾多の連戦に魔力が消費されて行くため今の今までその体質をすっかり忘れていたらしい。

 そして、召喚された日にすっからかんになる程に魔力を消費したため、先程に至って魔力貯蔵量が上限を超え暴走したのだ。普通ならば上限に達する事は無く、日々得る魔力量の膨大な差により五十日程度でアサギは想像を絶する上限量にぶち当たる事となったのだ。


「今回は左腕に宿る先代魔王が表に出て精神崩壊を防ぎ、魔力を近隣にばら撒いて事無きを得た、と」

「ああ、そうなるのかな? 魔力貯蔵量が半分越えると情緒不安定になるんだ。アーサーさんとウィンディさんには済まない事をした。申し訳ない」


 何とも申し訳なさそうにベッドの上で頭を下げたアサギに、一応被害者であるアーサーとウィンディは居た堪れない。ある意味被害者なアサギに謝られると非常に良心が痛むのだ。

 頭を上げたアサギは何ともすっきりした表情で、ウィンクルが居ない場所での鬱屈とした表情が似合わない元気そうな少年の顔だった。

 正気に戻ってきた二人は段々とこの件の最大の被害者がアサギ自身である事を理解し始め、そんな雰囲気を見せないアサギに目を疑った。先程あっさりと、幾度も心身を壊死して無理矢理蘇生されながら生き永らえていると語ったアサギの飄々とした姿が信じられなかった。


「まぁ、明日の出陣には俺は参加しないから良いんだけどウィンディさんは大丈夫か? 俺の魔力を吸ったみたいだから魔力貯蔵量が爆発的に増えたみたいだが」

「あ、ああ。気怠いだけで出陣には何ら問題は無いな。むしろ、有り余るくらいだ」

「そうか。そりゃ良かった」


 ウィンディに微笑んだアサギの表情を見て、普段見慣れているウィンクル以外は「誰だこいつ」という表情で唖然としていた。他人に笑みを見せれない程に追い込まれていたのだと数人悟り、何とも言えない表情で天を仰いだ。

 魔王軍との闘いが凄惨なものだったのは、アサギの箍が情緒不安定故に引き起こされていた前兆であり、ウィンクルへの恋により違う変貌を見せたアサギは良化の一途を辿っているのが幸いである。

 ーーもしや、アサギが国を滅ぼしたのは暴走が原因か?

 禍々しい雰囲気に呑まれたアサギが敵となるかもしれない事を気付いたアーサーとノブナガは、早急にアサギの膨れ上がる魔力について如何にかするべきだと考えた。けれど、当人はしれっと解決策を吐く。


「まぁ、今回ので“少し”魔力も霧散したし、後数日は大丈夫だ。魔力の発散は別に戦闘だけじゃないし、時折神殿の精霊柱にでも流してくるさ」

「む? アサギは魔力をコントロールできるのか?」

「そうだが? 物に込めるとか辺りに放射したり、後は体の調整や強化もできるな」

「武器や防具にもか?」

「誰でもできるだろそれぐらい」

「……アサギ、お前は自身の力を知っておくべきだ。我(わし)らの世界では無機物への魔力干渉は神によって選ばれた者にしかできぬ所業だ」

「間違って無いぞ? 運命の女神と戦の女神に選ばれた者だしな俺は」


 アサギの発言により部屋が冷えた。

 驚愕の事実をあっさりと言ったアサギに視線が集まる。


「…………は? つまり、アサギは運命神と戦女神の神託者という事か?」

「まぁ、そうなるな。俺の聖剣デウスエクスは戦の女神から手渡された神礼装(ゴッズ)だし、他の女神や神からも加護も貰ってるな。そうそう、ノブナガさんに渡したあの純白の騎士鎧は運命の女神から手渡された神礼装(ゴッズ)だ。アレを盾に打ち直すのは難しいかも知れないけど経過は順調で?」

「天魔王の我(わし)に神具を手渡したのかお前は……。道理で難航する素材だと思ったわ」


 事態のとんでもなさが分からないアサギを含めた数人は首を傾げていたが、要するにアサギは神々により世界を救う事を決められた真なる勇者であり、世界を改変しかねない超級の防具をノブナガに手渡していたのだ。神罰が下るなんてもんでは無い事実の衝撃に、ノブナガとアーサーはアサギの規格外さにこめかみを押さえた。


「……もしかしてアサギ殿は神々と対話ができるのか?」

「然るべき場所なら可能だ。たまに夢渡りで神々から試練を乗り越えさせられたがありゃノーカンだよな。神様なんだからぽんと加護をくれりゃ良いのに、試練と偽って暇潰しにされたし。……拒否権無しで闘わなきゃならなかったからなぁ」


 “神々の試練を越えし不屈の勇者”。

 アサギという少年を表すのに相応しい肩書きを名乗っていた事をノブナガとアーサーは思い出す。本人は気付いていないが正にそれは神話に至る所業の数々であり、なんちゃって勇者のアーサーよりも遥かに違う次元に居る人物だったのだと納得してしまう。


「……勇者だなんて呪いでしかねぇよ」


 ボソリと恨みがましい憎悪が混じる呟きを捉えたのは、近くに居たウィンクルと人外たるノブナガとアーサーだけだった。

 そう、アサギは無理矢理この地に召喚され、勇者という呪いを神々から押し付けられた少年でしかない。一度終えた終わりの結末故に、今更神への信仰心は無い。あるとすれば聖剣デウスエクスをこっそりと手渡してくれた戦の女神くらいだろう。聖剣デウスエクスはアサギが勇者であり続ける限り、折れる事も錆びて朽ちる事も無い神礼装(ゴッズ)の中の神礼装(ゴッズ)である。

 ーー聖剣デウスエクスのおかげで生きているようなもんだな。

 アサギは戦の女神だけは信仰しようと機嫌を少し良くし、心配気なウィンクルに苦笑するように笑みを見せた。


「……わたしにまた弱音吐いても良いですよ」


 そう耳元にこそっと囁いたウィンクルは、柔らかな笑みをアサギにだけに見せた。その愛らしい笑みに見惚れたアサギは緩みそうな口元を右手で覆うように押さえる。耳がほんのり赤みを帯びていて、ウィンクルはそんなアサギが可愛いと思い、クスリと笑ってしまった。


「……これで恋人じゃないなんて信じられないわね」

「……同感。苦い珈琲が飲みたい」


 甘々な二人きりの世界に入り始めたアサギとウィンクルを見ながらフレイルとマリアスは嘆息した。同様にノブナガたちも何とも言えない顔で苦々しい顔をしていた。この雰囲気は忍びないとアサギの自室から退室した六人は、廊下の爽やかな風に当てられ再び嘆息した。


「まぁ、何にせよアサギはアサギで変わらん。我(わし)らは国獲りに集中すれば良い」


 鉄扇を開きノブナガは呵々と笑う。その背は幾多の戦場を突破した司令官としての貫禄が垣間見え、勝利を断言するように自信に溢れていた。

 数刻後、総勢二千名の視線をノブナガは奪う。一騎当千にして幾多の勝利を掴む総司令官の役を果たすために。


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