「三人の勇者達」-12
胸当てや修練着を返したアサギは水二杯しか入っていない腹を摩りながら自室へ戻ると、見知らぬ女性に畏まるウィンクルの姿が目に入った。
勇者という地位はそれなりに高く融通されているため、許可無く入れる程の地位に居る人物とアサギは判断し、警戒心を解き聖剣の柄から手を離す。
女性はそんなアサギに気付いて視線を向け、やんなき御仁にしか見えぬ佇まいで微笑みを浮かべた。妙齢に熟された色気のある微笑みだったが、ストライク範囲外のアサギには特段気にする事も無く穏やかな印象だけが残った。
「先程の剣技、遠目ながら拝見させて頂きました。わたくしは魔法都市アルカディアの王女、エーテル・アルカディアです」
「不躾失礼。“神々の試練を超えし不屈の勇者”アサギ・イオリです。貴方がウィンクルを通じて俺を召喚したんですね」
エーテルはアサギの肩書きを聞いて「まぁ」と驚いたが、直ぐに穏やかな笑みへ表情を戻した。勇者召喚で勇者を召喚できるとはエーテルも考えていなかったのだろう。
対面する椅子へ座ったアサギはエーテルを見て、何処か見覚えのある面影に疑問を抱いたが、一先ず魔力で腹を鳴るのを一時的に抑えた。
「ええ、まさか勇者様をお呼びできるとはわたくしも思いやしませんでした」
「……まぁ、な。魔王を……いや、最上級魔族を倒した勇者だ。ウィンクルを褒めてやってくれ」
アルカナにおける魔族の分類を知る勇者と再び驚愕したエーテルは「あらまぁ……」と、生きた伝説の勇者を前にして緊張してしまった。
黒髪黒目の風貌に、魔王の階級まで知る勇者とくれば聡いエーテルは直ぐに気付いた。先代の勇者、ガーランドの勇者と呼ばれている人物は目の前の少年の事である、と。
「まさかガーランドの勇者様とは……。一番の驚きですわ」
「……ガーランドの勇者?」
「あら、黄昏の碑文にはそう書かれてありましたが……。ガーランド、ガランドー、ガラードーと沢山の種類がある中で、人名説としてガーランドが残ったのですが間違いでしょうか?」
「少なくともガーランドという名前でも無いし、そんな国の出身でも無いな。二番目の伽藍堂ならまだ分かるが……」
「ガランドウ?」
エーテルの問いにアサギは目を伏せて言った。
「伽藍堂は何も無いって意味だ。国に、仲間に裏切られて居場所を失った俺には何も無い。異世界の住人だからな、尚更居場所なんて無かったさ。そもそも、魔王を倒す事で地球に……ああ、異世界に戻すと約束されてたんだがそれも嘘だったんだろうな」
「それは……、酷い話ですね」
「まぁ、今更彼方に帰ってもな。三年も経ってるから悪くて死亡扱い。今回の召喚で何年先に召喚されたのかも分からないし、戻るメリットが無い」
「……ノブナガ様には契約の対価にお酒を渡しております。アーサー様は保留。アサギ様は何を望まれますか?」
「待て、契約内容を俺は知らん」
「そうでしたか。それは失礼致しました。契約の内容は魔王の討伐のみでございます。また、対価の一部に元の世界への帰還も織り込んであります。召喚の研究により元の世界へ帰れる事は成功しています。……ですが、アサギ様にはメリットにはなりませんね。ですので、対価をお二つとさせて頂きますが、それでよろしいでしょうか?」
最上級魔族の魔王を倒した成果が願い二つとは少な過ぎる内容ではあるが、エーテルはアルカディアの王女であるため無理難題で無ければほぼ可能だろう。そう詳細詳しく考えれば中々でかく感じるものだ。
しかし、今のアサギには叶えたい願いなんて存在しない。絶対に裏切らないだなんて、当たり前な事を対価にしてどうするんだという話だ。
「……保留だ。しかし、契約はしておく」
勇者で無いアサギはただの十九の少年でしか無い。此方で仕事を探そうにも魔族に滅ぼされたら元も子もない。
エーテルとの契約を後ろ盾とするのは当然である。国を滅ぼす事ができるアサギだが、裏を返せば国と手を取り合えなかった事に他ならない。前回の裏切りをよく考えた上での後ろ盾の確保は恥にはならぬだろう。
アサギの返答に安堵したエーテルはカチコチなウィンクルに微笑んで、ウインクをアサギに見えぬようにした。
「良かったわ。それではお昼を終えたら王室にいらしてください。場所はウィンクル風巫女が知っていますので」
「分かった。要件は以上で?」
「ええ。滞在中の衣食住はわたくしが保証しますのでごゆるりとお過ごしください」
そうエーテルは華麗な振る舞いで立ち上がり、洗練された佇まいを維持して退室した。王族との会話は久しぶりだ、とアサギは溜息を吐き、ウィンクルもまた意味深なウインクの意味にドギマギしていた。
「……すまないウィンクル。少し遅れたが朝食にしよう。腹が減ったよ」
「ふふっ、そうですね。アサギさんの戦いはエーテル様の遠見の魔法で見てました。凄い格好良かったです!」
「そうか? まぁ、お互い全力じゃなかったからなぁ。魔法有りだと分からないな」
「アサギさんはどのような魔法をお使いになるんですか?」
バケットから白いパンと葡萄酒に蜜瓶を取り出してテーブルに並べながらウィンクルは興味深々で尋ねる。だが、対照的にアサギはぽりぽりと頬をかいて困った顔をした。
「……それがさ。火種作ったり、コップ一杯の水を出せるくらいなんだよなぁ」
「へ? そうなんですか?」
「女神や称号の加護とかはあるけど殆ど技術だからな。魔力を体に込めるとか放出するくらいしか出来なくて、初歩魔法がやっとってとこだ。致命的に魔法の才能が無いと言われてしまった」
そうアサギは指先にライターくらいの火を灯した。その火は風に吹かれたら消えてしまいそうな程に弱いもので、ふっとアサギの吹いた風で消えてしまった。
冒険譚の勇者様はバンバン魔法を使っていた、とアサギに伝えると腹を抱えて笑った。
「くはははっ、無い無い。大方それは魔法使いのケリアの手柄だろうよ。ライルと俺は剣しか無かったし、サタンタもオドオドしてる僧侶だったしな」
「あ、確かにお話の中では勇者様は一人でした」
「まぁ、そっちの方が見栄えが良いんだろうよ。実際には過激派テログループ並みに大暴れしてたし、人助けも結果的にって事が多かったしな」
ーー外道な盗賊は問答無用で殺し尽くしたが。
ウィンクルの前では物騒な内容は省くべきだろうと、アサギは気遣って口には出さずに胸内に留めて置く。ウィンクルの年齢は知っているが、矢張り見た目と中身がお子様なので荒っぽい口調は控えている。
「えへへ」とはにかむ姿がアサギの中のウィンクルのイメージなので、その天使のような微笑みを護るためならば口調すらも変える所存である。そもそも、そんな幼少女の前で荒っぽい口調は常識的に考えて無理だったのが一番の要因だろう。
「そうだったんですか。……あ、そうだ。アサギさん、もう一度火を灯してくれますか?」
「ん? まぁ良いけど」
シュボッとライターのように指先に火を灯したアサギの指へ、ウィンクルは指を絡ませる。すると火の大きさが変わり、火の皿ができた。
アサギは意図が分からず首を傾げていたが、ウィンクルが手に持った白いパンを見て悟った。
「このパンはあったかいとふわふわになるんですよ」
火の皿にかざして白いパンを二つ温めたウィンクルは、そう白い皿に移し替えて指を離した。ウィンクルの風魔法により、アサギの火の魔法を合わせて操ったのだ。指を離した事により火の皿は灯火に戻る。
こんな使い方もあったのか、と火起こし程度にしか使わなかった指先の火をアサギは見つめた。
「アサギさんは魔力は多いですが、使うラインが少ないんですね。多分一本あるかどうかだと思います」
「そっか……。まぁ、必要になったらウィンクルの指をまた借りるさ」
「そ、そうですね」
指を借りるという事はまた先程のように指を絡ませなければならない。自分がやった大胆な行動を自覚したウィンクルはやや頬を朱に染めて、白いパンの乗った皿に豚の腸詰めとプチトマトを添えてアサギへ差し出す。
二人の間に蜜瓶を置き小さなスプーンと普通サイズのフォークを添えて、少し遅めな朝食兼昼食を開始した。
アルカディアの食前の黙祈祷は「いただきます」と同じ意味を持ち、掌を合わせて胸前にするのが作法だ。アサギも久しぶりにそれを真似てから、ふわふわな白パンにありついた。
「先に使って良いぞ」
「ありがとうございます」
瓶蓋を捻って外し、小さなスプーンで琥珀色のトロみのある蜜を掬って千切った白いパンに塗ったウィンクルは幸せそうに口に入れた。気泡が多くふわっとした食感に蜜の甘さがマッチして、ウィンクルの頬を緩ませる美味しさが口に拡がった。
夢中に食べるウィンクルに癒されながら、アサギも真似て食べてみる。スポンジケーキのように柔らかいパンにも独特な甘みがあり、アサギはそちらの方が好みだった。蜜瓶を押しやり「良いんですか!?」と瞳を輝かせるウィンクルに微笑を浮かべてアサギは頷いた。
蜜はかなり甘く、お子様なウィンクルが好む訳だ、とアサギは微笑ましい気持ちになる。
小柄なウィンクルは白パン一つで十分らしく、バケットから出された白いパンを二つ腸詰めを挟んで食し、アサギは満足した。食後に度数の低い葡萄酒で喉を潤して二人は再び手を合わせて黙祈祷して食事を終えた。
「さて、昼まで少し時間があるな……」
アーサーとの模擬戦が案外長引いてしまったため、朝と昼の中間の半端な時間に食事が終わった。そもそも特段趣味の無いアサギは暇を潰す案が出ない。
食器を片付けながらウィンクルは、蜜のついてしまった指先を小さな唇にくっつけながら考える素振りを見せた。
「それなら付近をお散歩でもしますか?」
「そうだな……。これから拠点になるだろうし見ておくべきか」
「アルカディアは水と緑の国で有名なんです。他の国と比べると質素に見えますが、素朴なだけで外観を乱さないようにしているだけなんですよ」
「へぇ……、そうなのか。昨日は広場だけだったからな。楽しみだ」
「はい! 一生懸命ご案内しますね!」
生まれ故郷に良い印象を持たれるのが嬉しいようで、いつもよりも明るい笑顔を見せたウィンクルにアサギは頬をかくしか無かった。ベッドの上で睦言を囁きながら頭を撫でてやりたいという欲望を押さえ付けたアサギは、いつも通りの飄々とした顔で立ち上がる。
ウィンクルは個室にお出掛け用の服に着替えに向かい、アサギもまたラフな格好ではあるが出掛けるには申し分無い黒シャツとズボンに着替えた。
脱いだ服を大雑把に畳み、ベッドの枕元に置いたアサギは腰にベルトを巻いて、左腰側に聖剣デウスエクスを堅く固定して準備を終えた。
一見ラフな青年に見えるが、この世界には居ない黒髪黒目を見れば、誰もが召喚された勇者だと気付くだろう。それに、平民と間違えられ喧嘩を売られても魔法使い殺しな喧嘩殺法で潰せるし、剣を抜けば相対できるのはノブナガだけだろう。
新人をいびる先輩騎士でも今朝の剣戟を見れば剣を向けようとは思わない筈だ。
魔王を倒したアサギに一撃入れられる者は上級魔族並みの者くらいで、後は怒り顔や照れた顔のウィンクルの可愛らしいぽこぽこパンチくらいに違いない。
ラフな格好で魔王討伐に行っても問題無い強さまでアサギは成り上がっているので、鎧が無くて困る事は無い。聖剣デウスエクスは持ち主か持ち主の許した者以外は抜けないため、アサギかウィンクル以外には扱えず、例え盗んでもアサギの一声で手元に召喚できるので、勇者アサギ以上の魔力の持ち主で無ければ抵抗は不可能だろう。
それらの点からアサギはウィンクルだけを護れば問題無いので、行動範囲は宣誓の加護範囲内という大規模なもので死角は無い。アサギが唯一心を許しているウィンクルは、パーティメンバー扱いで勇者の称号以下略の恩恵により、状態異常抵抗、呪い抵抗、属性抵抗が跳ね上がっている状態だ。
つまり、二週目状態のアサギと一緒に旅に出て普通に生活できる程の加護を得ているのだ。
中級の上以上の魔族ぐらいしか恐れる者が居ない事を知らぬウィンクルは、鼻歌混じりに楽しそうに服を選んでいた。
「アサギさんは黒色が好きだから……、引き立てる白にしようかな」
翠、薄い青、白、黒のワンピースから白いワンピースを手に取ったウィンクルは、スルリストンと部屋着を脱いでワンピースを被る。途中胸が裾に引っ掛かるアクシデントがあったが、難なく逃れてウィンクルは脱いだ部屋着を畳んでベッドに置き、サファイアグリーンのローブを着る。
ぶかぶかなローブが可愛らしさを引き立て、白いワンピースが純粋無垢な雰囲気を醸し出す。
鏡を見てチェックし、問題無い事を安心してウィンクルは個室の扉からアサギの部屋へ戻る。
「お待たせしましたアサギさん」
「あんまし待って無いから大丈夫だ。……ウィンクルは白とか清楚な色が似合うな。良いと思うぞ」
「ありがとうございます。それじゃ、行きましょうか」
照れた顔を隠すように部屋を出る姿を「可愛いなぁ」とアサギは、ウィンクルの微笑ましさに笑みを浮かべる。ローブ取って麦わら帽子に砂浜が合うだろうな、と考えるアサギはウィンクルの小さな背を追いかけた。
部屋を施錠した二人は昨晩のように手は繋がずに、遠くも無いし近過ぎもしない距離で隣り合い、宿舎を後にした。
昨晩は目に止まらなかった青々とした自然溢れる道にアサギは目を奪われ、爽やかな風に揺れ暖かな陽射しを浴びて輝く木々を眺める。
舗装された道はコンクリートでは無いが、馬や牛に引かせたローラーで押し固めた道のため、しっかりとした跳ね返りのある地面で足取りを遅くする事は無い。
ウィンクルの歩幅に合わせてゆっくりと散歩する二人は、穏やかな気分で道を歩いていた。
魔法都市アルカディアは魔法の大前提とされる四属性の精霊に感謝を忘れない風習により、火の精霊に齎される暖かな気温、水の精霊に齎される清い潤いの湧き水、風の精霊に齎される澄み切った空気、土の精霊に齎される質の良い土壌の恩恵を受けている平和な国だ。
風前の灯な人類の瀬戸際であれど、人々の顔に絶望が無いのは良い国の証であり、国と人々を護る騎士や兵士の頑張りが活力を齎す良い循環となっている。
そして、勇者が三人召喚された事で、押し潰されそうな気持ちが楽になった事で笑顔も取り戻しつつある傾向だ。こうして飄々悠々とした表情で散歩するアサギを見れば、「勇者様が私達に安心せよと背で語っておられる」と拝むのも必然になり、ドンチャン騒ぎのノブナガとアーサーよりも人気が上がるのは当然のように思えた。
もっとも酒飲みの男たちには彼らはアサギよりも人気があったりもする。
三年の旅で引き締まり逞しくなったアサギは偉丈夫の武人であり、力関係に左右されるこの世界ではモテる分類に入る。子供から大人までアサギは人気があり、若い男や女好きな男や凛々しい姿に惹かれる女子にアーサーは人気があり、酒飲みや貫禄のある猛者たちにノブナガは人気があるためバランスが取れていた。
三人の従者である巫女三人も、巨乳派、無乳派、ロリコン派に別れて顕著な人気を持つ美少女だったりするので、この六人によりアルカディアの中心部は賑わっている。
散歩道から外れ、四つの塔が特徴的な魔法学院が左手に見える道に二人は出た。赤、青、緑、黄の塔が聳える魔法学院は小さい城のような上品さがあり、大理石により作られた学び舎は逞しい子供たちを育てるには環境が良さそうに見えた。
「あれは?」
「学院です。赤は火、青は水、緑は風、黄は土。四属性の魔法科の研究塔で、兵士科はあちらのグラウンドに備えられた横長の宿舎に寝泊まりします。主に魔法科は座学、兵士科は武術を習いますのであんまり関わりは無いですね。魔法科の研究塔は十六歳以上の方々の学び舎ですのでわたしもあんまり分かりません」
「と、なるとあの塔の横にあるのがウィンクルたちが通う学び舎なんだな。……そういえば、巫女はどうやって選ばれるんだ?」
研究塔に居る魔法使いの方が専門的だろう、とアサギは疑問に思ったがウィンクルは少々困ったように答えた。
「……研究塔の先輩たちは運動不足で巫女の修練に耐えられないので、若くて火、水、風の最高評価を持つわたしたちが巫女を……」
「……すまん。つ、土の勇者は居ないんだが巫女も……居なかった、な」
ウィンクルたちと同じく三本の巫女候補は居たが、年齢や性別で不可能とされた経緯を知っているウィンクルは身内のフォローを慌てて考える。
「つ、土の精霊様が宿る柱は神殿の支柱になっていますので、それ故に巫女が居ないそうです!」
「……支柱の周りに新しい柱を立てれば良かったんじゃ……」
アサギの返しにウィンクルは轟沈した。
支柱は一本しか無い訳でも無いので、準備すれば問題無かったに違いない。
「……あ。うぅ……、実は年齢と性別の問題で土の巫女が居なくて土の勇者様も居ないんですぅ……」
みっともない身内話を語るウィンクルの瞳はやや影が落ちていて、心底複雑な気持ちなのだろう。
上手いフォローが見つからないアサギはあやすようにウィンクルの頭を撫でて、二人は学院を見ないように通り過ぎた。
すっかり意気消沈してしまったウィンクルをどうしたもんかと、アサギは進路方向を商店道に変えた。甘いもので元気になって貰うか、と小さく柔らかい手を握り、引率の兄となるアサギは苦笑する。
アイスを落としてがっくりする妹のように気落ちするウィンクルを連れながらだと、段々と近付く喧騒へ向かうのが怖い。見た目からして不審者にしか見えやしないだろう。
「なぁ、ウィンクル」
「……はい。なんでしょうか?」
未だに気落ちしているのを俯いたウィンクルの声で確認したアサギは、ワンピースの中が横から見えないように工夫して小さな体をお姫様抱っこした。
「ひゃうっ」と可愛らしい驚きの声を上げたウィンクルは、仔猫のようなきょとんとした顔でアサギを見た。右肩から伝わるアサギの心臓の鼓動や、密接な距離で香る安心する匂いに鼓動を高鳴らせ、眼前のアサギと目が合い恥ずかしさを覚えたウィンクルは顔を真っ赤に染め上げる。
「俺はそんな事で気にやしないさ。どっちかつーと、ウィンクルのしょぼくれた顔の方が気にするぞ?」
「あ、あぅぁ……」
「だからさ、笑っててくれよ。申し訳ないなんて思わなくて良いからさ。俺はウィンクルの笑顔を護るために居るんだからさ」
親愛的に言ったアサギの言葉は、状況が状況でパニクるウィンクルには白馬の騎士の睦言にしか聞こえない。「あぅぅ……」と蕩けるような声で、惚けるウィンクルを見てアサギは、やり過ぎたか、と辺りを見回して木陰を探す。
涼しい木陰に優しく降ろしたアサギは、ふにゃふにゃと目を回すウィンクルを見て自分の額をパシッと叩く。
「あー……、流石にスキンシップが過ぎたかな」
実の妹にしていた事をそのままやったのだが、ウィンクルには効果が抜群で、少女趣味な弱点を突かれたおかげで威力が更に倍増したらしい。
しかし、それを知らぬアサギは、ウィンクルが男慣れしていないから恥ずかしさの限度を越えた、と惜しい正解に辿り着く。
女の子の扱いは難しいとアサギは唸り、結局昼頃までウィンクルはアサギに介抱されていた。




