第三章 サンとの対決①
「おい、お前。 三中の慎吾だよな?」
いきなり大きい体のアイツがやって来て、こんな雑な挨拶が僕とサンとの出会いだった。
中学の頃、僕は三中の野球部でエースでサンは四中のエースをしていた。中学対抗の試合では何度か対戦したことはあったけど、まともにサンと話をしたのは高校入学式の後が初めてだった。そしてサンは、鼻息を荒くしながら僕に言った。
「お前、当然野球部に入るんだろうなぁ?」
「えっと、誰だっけ?」
「四中の野球部のエースだった圭三だよ。 よく中学対抗戦の時にお前と闘ったろ!」
「あぁ、久しぶり。 たぶん野球部に入ると思うけど」
「そうか! じゃあこの高校でどっちがエースになるかオレと対決しようじゃねぇか!」
実はこのテのタイプは嫌いなんだよ。相手の気持ちも聞かないで、勝手に話を進めてすぐ熱くなる人。しかもエースとかキャプテンとかなんてあまり興味ないし。
でも高校に入って他にやることもなかったから、とりあえず野球部に入ろうとしていたのは事実だ。だけど「エースなんて興味ない」なんて言ったらきっと怒るだろうから、しばらくサンの熱意に付き合うことにした。
ちなみにあの学園祭の演劇をやる前は、お互いに『慎吾・圭三』と呼び合っていた。
「わかったか、慎吾。 必ず野球部に入れよ」
「わかったよ。 圭三、しつこい」
神奈川県の高校野球は、他県に比べて強豪校が多いことで有名だ。だから当然うちの高校も、甲子園優勝に向けて部員の育成を強化していた。
その育成強化として、1年生が野球部に入部するとすぐに『新入生紅白試合』があった。今年の紅白試合では、僕が白組のピッチャーでサンは紅組のピッチャーに決まった。この試合はこれから野球部のエースを決める為の重要な試合だから、当然サンは鼻息を荒くしていた。
「俺様が神奈川県代表青柳高校のエースだぜぇ。 慎吾、お前とエース対決だ!」
その紅白試合の前日、部活の練習と掃除が終わった僕はサンと帰り道が一緒になった。
「おい慎吾。 いよいよ明日だな」
「うん、いい試合にしよう」
そんなたわいもない会話をしながら2人で歩いていると、僕らの運命を変える事件が起きてしまった。公園の日陰でタバコを吸っている他校の高校生3人と出くわしてしまったのだ。嫌な予感がした僕とサンは、その高校生を見て見ぬ振りをしながらその場を立ち去ろうとした。だけどそのタバコを吸っている3人の高校生に睨まれ、そして絡まれてしまった。
「おい、お前ら何見てんだよ」
「い、いや? 僕たちは、何も・・・」
すごく怖かった。明日は大事な試合だし、こんなくだらないことに巻き込まれたくない。
しかしサンは隣で震えている僕に向かって小声で、
「おい、慎吾。 ここは俺がなんとかするから、お前は走って逃げろ」
「圭三、何言ってるんだよ。 お前1人置いていくなんてそんな訳いかないだろ?」
「いいから早く行け。 俺も後で逃げるから」
僕はサンの言葉を間に受けてその場から逃げてしまった。あの高校生に追いつかれないように早く走っていると、僕の目からは次第に涙が溢れていた。
「圭三、ゴメン、圭三、ゴメン・・・」
後で覚えてないくらい走って家に帰り、しばらく自分の部屋から出れなかった。
「どうしよう、逃げた俺は最低だ」
サンを置いて逃げた自分が本当に情けない。ベットの上で震えながらスマホを握りしめ、サンからの連絡をずっと待っていた。
あれからどれくらい時間が過ぎたのか分からないけれど、生きた心地がしないほど最悪な時間だった。それからしばらくしてスマホが鳴ったのは、公園で3人に絡まれているサンからの連絡だった。
「圭三、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。 俺もあの後すぐ逃げたから安心しろ。 明日の試合はお互いがんばろうぜ」
サンのその力強い声を聞いて、天を仰ぐように天井を見上げた。
「よかったぁ! 圭三、逃げてしまって本当にごめん。 明日の試合は頑張ろう」
「おう!」
安心してスマホを切ると、疲れ果てた僕はそのままベッドで寝てしまった。




