↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が彼女に告る理由  作者: 本間 甲介
最後の理由~クリスマス前~
PR
34/39

本当の、まっさらな、ガチの、マジな、最大の、一番の理由

「さむっ……!」

 ファミレスを出た優希は、冬の風に体を震わせた。

「今日は一段と冷えるわね……でも」

 駅からはいつもより多くの人が出てきていた。その大半は男女のカップルだった。

「みんな、物好きよね」

 そんな彼・彼女たちを見ながら、優希はそう思う。

「……まあ、仕方ないか」

 優希にとってはもう「豪華な料理が食べられる」という認識しかない日だが、世間一般の、それこそカップルたちには特別な日なのだろう。

「あいつ、ちゃんとやったかしら」

 はあっと両手に息を吹きかけながら、優希は幼なじみと親友のことを思い浮かべる。

「本当、アホな男よね」

 駅待合室に到着する。優希は電車が車での間、暖房の近くの席に座り、携帯を開く。

 そこには透子と同じく、一将→夏彦と送られきた「俺が彼女に告る理由」の文章画面があった。

「告るならさっさと告れってーの」

 優希はぼそりとつぶやく。一応、最後まで読んだが、優希は読んでいる間、終始イライラした。

「まるで言い訳ね」

 自信の無さからくる、ムダに長い文章に優希はそう思った。

「……本当、馬鹿よね」

 優希は削除ボタンに手を伸ばし、一将の「言い訳」を失くしてやろうとした。


「優希」


 画面に影ができる。荒い息遣い、疲れきった声……一将が、目の前にいた。

「……おめでとう、変態おっぱいガン見野郎」

 祝福の言葉と皮肉を混ざり合わせ、優希は一将に拍手を送った。

「は? な……なにが……だ?」

 今にも膝から崩れ落ちそうなほどだった。とりあえず優希は一将の手を取り、冷たくなった手を温めた。

「…………」

 一将の目に生気が戻る。というより、何かに気づいたかのように、じいっと掴まれた手を見た。

「ほら、隣に座りなさいよ」

「あ、ああ……」

 そう言われ、一将は優希の隣に座る。

「はい」

 カバンの中に入れていた水筒を、優希は渡す。一将はフタを取り、豪快に飲み始める。

「……落ち着いた?」

「ああ。おかげさまでな……」

 一将は空になった水筒を優希に返す。優希はそれを受け取り、訊いた。

「そんなに嬉しかったの?」

「ん? ……ああ、まあ、ようやく『分かった』って意味じゃ、嬉しいな」

 その割には、一将は淡々と、変な言い方で答えた。

「それはよかったわね。でも、なんでそこまで必死になるのよ? 電話やメールで伝えてくれたらいいのに」

「伝わるわけねえだろ」

 呼吸が整った一将は、ハリのある声を出した。

「……」

 何か、おかしい。優希は一将の顔を見ていく内に、そう感じ始めた。優希はおそるおそると確認を取った。

「ねえ、透子っちと……上手くいったの?」

「振った」

 たった一言、一将はそう答えた。


「……は、はあああああああ!?」


 衝撃的すぎる発言に、優希は怒りの声を上げた。

「あんたいったい、何考えてんのよ! 馬鹿? クズ? アホ? 外道? 童貞? ゲロ? カス?」

 マシンガンのように、優希はあらゆる暴言を一将に浴びせる。何事かと、他の駅利用者がざわつき始めた。

「あっち着いたら、ちゃんと話す」

 人差し指を唇に当て、一将は優希に約束する。

「……覚悟しときなさい」

 優希はじろりと一将をにらみつけ、いったん怒りを収めてくれた。

 

 それから二人は同じ電車の、別の車両に乗り込み同じ駅に向かった。

 互いに乗車券を駅員に回収してもらい、二人はまた自然と同じ歩幅で歩き出す。

「で、どういうこと?」

 近所の公園に到着する。優希はひんやりと冷たいベンチにふんぞり返るように座り、立ったままの一将を見る。もう、寒いという感覚は二人にはなかった。

「どうして振ったの?」

「……好きじゃないから、だ」

 飛び上がり、一将をぶん殴ってやりたかった。優希はその衝動をなんとか押さえ込み、一将の言葉の続きを待った。

「夏彦に指摘されて、ようやく気づいたんだけどよ」

 一将は文章の中に「好き」といった類の文字を書かなかったことを説明した。

「そんなの、たまたまでしょ。『告る理由』っていうのは、五つもあるんでしょ? つまり『好き』ってことじゃない」

「俺もそう思った。でも、やっぱ違うみたいなんだよ」

「違わない、言い訳でもない」

 優希は必死に一将を説得しようとする。それ以上は予想したくなかった。

「文章の中でさ、お前のことを決して名前で書かなかっただろ」

「やめて」

「お前のことを『幼なじみ』って書けば、安心できるって思ったんだ……」

「……やめて」

 優希にはもう、怒りはなかった。優希は一将を止めようと立ち上がる。

「でも、できなかった……逆だった」

 優希は拳を握りしめ、一将に殴りかかろうとする。


「お前が……『好き』だ」


 だが、遅かった。一将はパンパンに膨れ上がった「想い」を、一気に放った。

「……おかしい、でしょ」

 弱々しい声を出し、優希はうつむく。

「そんな素振り、見せなかったじゃん……伏線も、何もないじゃない……」

 これが漫画や映画なら金を返せレベルなひどいどんでん返し。だがこれは現実だった。

「俺も驚いている。本当、馬鹿だったと思う……でも、最低だけど、愚かだったけど……俺はそれで気づくことができたんだ」

 映画を観に行った時、夏休みの図書館、夏祭り、文化祭……一将は優希のちょっとした「優しさ」に触れていく内に、無意識の内にその気持ちが大きくなっていた。

「そんなの……別に深い意味はないわよ。あたしは『幼なじみ』を助けたいって思っただけで……そんな……」

「ありがとう、そういうところも好きだ」

 さりげない、二度目の告白。落ち着いた表情の一将と対比して、優希はカーっと顔を赤らめた。

「…………」

 優希はしばらく何も言わなかった。いきなりやって来て、いきなり告白されて、すぐに答えられるはずがない。優希の頭はごちゃごちゃになった。

「あたしは……」

 声がまともに出ない。忘れていた寒さが今になって肌身に感じる。

「…………」

 様々な葛藤が生まれては消え、生まれては消えを繰り返す。優希はその先を答えられなかった。

「……返事はすぐにじゃなくていい」

 ずっと黙っていた一将はそう言った。

「いきなりこんな予想外なこと言われたら、俺だって困惑する。ただ、俺の気持ちを知っていてほしかったんだ」

「あ、うん……それは充分に伝わったわ」

 すぐに返事をしないでいいと言われ、優希はほっとしてようやく口から声が出せた。 

「あ、じゃあ返事はまた……近いうちに」

 とりあえずこの場にずっと居続けたらまずい。優希は逃げるように立ち去ろうとした。

「あ、待ってくれ」

 それを一将は呼び止める。優希はビクッとしながら、振り向いた。

「な、なに?」

「最後に一つ訊かせてくれ」

 一将は前髪を上げ、おでこにできた傷を見せる。入学式のあの日、事故を起こした時にできた傷跡だ。


「『あれ』はお前だったのか?」


「…………そうよ」

 観念したように優希は言って、今度こそ立ち去った。


「……なるほどな」

 一将は先ほど掴まれた二人の女子の手の感触を思い出す。どちらも同じくらい、温かい、優しい手……だが、やはり違うところがあった。




 これが、皆見一将にとって、本当の、まっさらな、ガチの、マジな、最大の、一番の理由となった。

もう少し、続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。