馬鹿野郎の決意
「失礼します」
ぺこりと頭を下げ、透子は夏彦の隣……一将と向かい合うように腰を下ろした。
「な、なんでここに……?」
ようやく声が出る。一将は透子へ第一声、そう訊いた。
「聞いてもらっていたんだよ。……もう一人、小坂さんとね」
夏彦は少し動揺しながらも、悪びれることなく答えた。
「は?」
夏彦の言葉に、混乱がさらに増す。一将がさらに疑問を投げかけようとすると、透子はテーブルを叩いてそれを止める。
「今、そんなことはささいなことです」
透子は食い入るように一将を見つめる。その目は怒っているような、悲しんでいるような、後悔しているような……様々な感情が宿っていた。
「……………………皆見、くん」
長い、長い沈黙。そして透子は「告白」した。
「わたしは……皆見くんのことが好きです。大好きです」
耳まで真っ赤にさせた、一将と夏彦にしか聞こえないくらいの、小さな声。透子はそれでも自分の気持ちを伝えた。
「…………」
生まれて初めての女子からの告白に、一将の中に、嬉しさと恥ずかしさ、そしてためらいといった感情が徐々に膨れ上がる。頭に血が上り、一将は何も考えられなくなった。
「あ、ありがとう……! あの、俺は――」
「でも、皆見くんがわたしを『好き』じゃないのは、知っています」
続けて発せられた言葉に、一将の血は一気に引き始めた。透子は目に涙を浮かべ、それを拭うこともせず、この世で最も自分の心が痛むことを言った。
「皆見くんは優希ちゃんと付き合うべきです」
脳を思い切り叩かれ、揺らされ、掻き出されたようだった。
「そ、そんな……なんで……」
「簡単なことです。皆見くんが優希ちゃんのことを、好きだからです」
透子はすっきりしたような、爽やかな顔になっていた。透子は自分のスマホを取り出し、一将に見せる。その画面には、さっき消した「俺が彼女に告る理由」があった。
「な、なんでこれ……!?」
「仲間くんに送信してもらったんです。それで、全部読みました」
夏彦は何も言わず、目を閉じてうつむいていた。
「これを読んで、そして私の記憶も踏まえた上で、言わせてもらいます。皆見くんは、優希ちゃんと付き合うべきです」
二度言われることで、透子は一将のこれからを強制した。
「付き合うって……俺はその――」
「正直に、なってください」
両手が柔らかさと温かさに包まれる。透子は一将の両手を握りしめた。
「今まで『皆見くんと付き合えたらどんなにいいだろう』って想像してきました。そのために、今まで頑張って……今日、もっといい場所で告白するつもりでした」
両手に力が込められる。震えていた。
「でも、それだと……わたしだけが幸せになるだけなんです。わたしは……皆見くんに、優希ちゃんに笑っていてほしいんです」
ボロボロと涙が手に落ちる。それでも、透子は笑っていた。
「……」
そっと、一将は透子の手を離す。一将は立ち上がった。
「透子さん」
頭の中にあったわだかまりがスーッと消えた。一将は透子に向かい、頭を下げた。
「ごめん」
たった一言。それで一将は透子との「今まで」を終わらせた。
「いいえ。いいんです……頑張ってください」
「ここは僕がおごるよ。……ファイト」
「――ありがとう」
深々と二人に頭を下げ、一将は気持ちを完全に切り替える。
「ちょっと今から告ってくる」
一将は弾けるように、店を飛び出し、走り出した――。




