その理由の始まり
その日はとても特別で、大事なものがいっぱいできた一日だった。
暖かい日差しを体全身に受け、僕はこれから三年間お世話になる学び舎へと向かっていた。
「少し、遅くなっちゃったな」
昨日興奮してなかなか寝つけなかったこともあり、僕は家を出るのが少し遅くなってしまった。
「仲間夏彦です。趣味はスポーツ観戦・映画鑑賞・ゲームです……」
何事も最初が肝心だ。僕は自己紹介のシミュレートをしながら、少し足早に歩き出す。
そうして歩く内に、学校が見えてきた。時間を確認すると、まだ余裕があった。
ここからはペースを落とそう。僕は焦らずゆっくりと交差点を渡った。
「うおおおおおっ!」
その途中、僕の背後から絶叫が聞こえてきた。瞬時に僕は振り返る。するとそこには、自転車に絡まり倒れた男子と、尻もちついた女子がいた。
「――大丈夫ですか!」
すでに半分以上渡り、赤に変わろうとしていた。僕はダッシュで交差点を戻った。
「あ……あ……!」
彼女は動揺して、ガクガクと体を震わせた。
「だ、大丈夫ですか!」
しかし怪我は無さそうだったので、僕は彼の方を心配した。
「あ、ああへいきへいき……!」
彼はなんとか応えるものの、その声はか細く、今すぐにでも気を失いそうだった。
「し、しっかりしてください!」
彼女はようやく口を開き、ペシペシと彼の頬を叩き始めた。
「だ、ダメだよそんなことしちゃ!」
錯乱状態に陥っている彼女を見るうちに、僕も何をすればいいのか分からなくなった。
「死ぬな! しっかり!」
その叫びに、僕の意識は正常に戻った。
「一将、一将!」
ショートカットの女子は、必死に彼を呼びかける。
「…………」
「ねえそこの!」
「は、はい!」
急に声をかけられる。彼女は自転車を指差した。
「外して! 急いで!」
「え、でも……」
「このままにしとくわけにもいかないでしょ。大丈夫、救急車はもう呼んだから」
「――分かったよ」
すでに彼の意識は無さそうだ。僕は覚悟を決め、自転車のホイールに絡まった彼の足を、外すことにした。
「ありがとう!」
見た目に反し、すぐに取り外すことができた。僕はほっと息をついた。
それからすぐにサイレンを鳴らした救急車がやって来た。
「あたしとこの娘も一緒に行きます!」
彼女はおどおどしている女の子の手を掴み、懇願した。救急隊員はその願いを受け入れ、二人を救急車に乗せた。
「あたしは小坂優希。あなたは?」
発車直前、彼女は自分の名前を口にし、僕に訊く。
「あ、仲間夏彦……」
「夏彦くん、ありがとね! また学校で会いましょう!」
すべてを無かったことにするような、まぶしい笑顔だった。車は発車し、僕一人が残される。
「……同じクラスになれますように」
僕は彼、皆見一将の怪我のことを忘れ、それだけを願った。
そして、その願いは叶うことになった。




