16.誰も付いていかないのに人望の差を感じる
ついにホラゲターン。クリーチャー描写ありますご注意。
ぞろぞろと細長い列を作りながら大東と羽黒の後に並ぶと2階には扉があった。というよりも扉しか無かった。
「防火扉…だよな?」
神倉が無骨な扉に触れながら言う。そこそこ大きな廊下をぴったりと塞いでいるのは確かに防火扉だった。
「この扉の向こうにセイレさんがいると思うか?」
大東の言葉に皆一様に首をひねる。
「でも一階には居なかったんじゃないのか」
神倉の言葉に大東はしぶしぶと頷く。
「僕達が入って来れないようにドアをしめてるとか?あの人気むずかしそうだったから…」
「あの感じだとありえるかもしれないなー、どうする?防火扉って鍵ついてたっけ?」
「どうだろう試しに開けてみるか」
「よっし!やってみよー!」
男子全員でドアを押し開くと分厚いドアはゆっくりと開いていった。ドア影から2階の廊下がゆっくりと姿を現す。
どこか緊張した面持ちで全員が開いたドアの向こうを注視する。
はたしてドアの向こうには-何もなかった。一階と同じ絨毯敷きの廊下が並ぶだけだ。もちろん首を噛み千切られた死体も落ちてはいない。
一階より若干薄暗いのは所々照明が切れているためだろう。左右に分かれた廊下を見回し大神未輪が一つ息を吐いた。
「誰も居ないみたいだね」
「みたいだね、でも防火扉が閉まってるということはこの近くに居るんじゃないかな」
「まーじゃー探しますかー」
扉から手を離して羽黒が歩き出す。
「じゃあ僕はこっちを探そう」
大東が羽黒とは反対の方向へ歩き出す、それにつられてぞろぞろと他の皆も大東の後ろを歩き出した。
羽黒の後に誰も付いていかかないのに人望の差を感じる。と、廊下、突き当たりと防火扉の真ん中あたりで大東が足を止めた。
「どうした?」
すぐ後ろを歩いていた神倉が声をかけた直後-
ぼじゃぁ
強いて言うならば、水を大量に含んだ雑巾をカーペットの上に落としたような音がした。私の所で微かに聞こえたのだから大東や神倉はもっとはっきり聞こえているだろう。
「どうしたんだ?」
すぐ後ろで聞こえた声に振り返ると羽黒が私の肩越しに大東達を覗いていた。異変に気付き階段まで引き返して来たらしい。
「セイレさん…?」
大東恐る恐る声をかける。角の向こうには私達の見知った人物が居るはずだ、そんな希望を滲ませながら。
その間にも言いようの無い足音はゆっくりと近づいて来ている。照明が薄暗くとも遮蔽物の無い広い廊下、T字の角から出れば容易に姿を確認できるこの場所で全員が一点を、固唾を飲んで見つめている。
その眼前で、ずるりと廊下の角から足が這い出した。粘性高い液体に包まれた、男性用スラックス、そしてその中身。その足に引きずられるように腰、腹、肩と順番に露わになっていく。
ピキリと-それは幻聴であったはずだが-空気が凍る音がした、もしくは私の精神が軋んだ音だったのかもしれない。
男に顔は無かった正確には顔のある部分には異様な物体が張り付いていた。-紙粘土を子供がこねくり回して出来たウニのようなもの-とでも言えば近いだろうか。白くぶよぶよとした皮膚に何本もの緩やかな棘のようなものが顔中から飛び出している。一見するとグロテクスなマスクでも被っているのかと思えたが棘の隙間から奇妙な亀裂が見えた。その亀裂がゆっくりとひらくと中からでろりと現れたのは嫌に長い舌だった。胸の奥から熱いものがせり上がってくる。こみ上げてくる吐き気と戦いながら、私は肺の空気を吐き出し詰めていた息を無理やり吸い込んだ。そいつは此方に向けて一歩踏み出す。
「皆早くこっちへ!!」
異頭男が走り出す!
「きゃあああ!」
誰かが悲鳴を上げる。私の隣を駆け抜けた何かがあった。大東達も走り出すがもう遅い、異頭男は最後尾の大東達まで肉薄している、大東まであと一歩。異頭男ががばりと口を開けた。人の顎では有り得ないほどに開いたその裂け目には、まばらに生えた人の歯が見える。その口が-大東の腕を捕らえた。
「うああぁぁぁ!」
鈍い破裂音と共に異頭男が吹っ飛んでいく、羽黒が鞄で男の横面を殴りつけたのだ。
「大丈夫か?」
「あ、ああ助かった」
衝撃で倒れ込んだ大東が大神未輪の助けを借りて立ち上がる。
「ごっごめ…」
「皆早く、委員長の所へ」
大神未輪が何か言いかけるのを制して羽黒が異頭男に警戒するように相対する。吹っ飛ばされて頭を壁に打ちつけた異頭男はもうすでに立ち上がりかけている。大東達が私のいる防火扉までたどり着く。
「羽黒君!!」
鞄を異頭男に再び投げつけて羽黒が扉の隙間から羽黒が滑り込んでくる。その瞬間に全員で防火扉を閉じた。




