幕間ー彼女の夢ー
てくてくと知らない道を歩く、誰かの手を引いて。
熱く湿り気を帯びた手のひらの感触、水気をたっぷり含んだ子供の手だと気づくのにしばらくかかったのは私の手もまた小さく柔らかく、温度の高い子供の手だったからだ。
「*****ちゃんどこに行くの?」
引いた手の主が声をかけてくる。
高いか低いかひび割れているのかすんでいるのか、今まさに聞いているはずなのにどんな声をしているのか分からない。ただ酷く懐かしい声。
きっとこれは夢なのだと漠然と思う。
夢ならば自分の思いどうりに動ければいいのに自分の体はただ前だけを向いて知らない道を進む。
ここはどこだろう、森の中、知らないようで見覚えがある。舗装されていないむき出しの地面、車が通れるかどうかの広さしかない道を誰かと進む。私はどこへ向かっているのだろう。おばあちゃんの家に続く道に似ているけれど、きっとそうじゃない、もっと別の、怖い所へ続く道だと思う。そう思うのに自分の体は進むのをやめない。
「*****ちゃん!」
一向に返事を返さない事に不安になったのか、ぐずったような声が私をせめる。
振り返ればいい、振り返って大丈夫だよといってあげればいい。そうしたい。私がいるから大丈夫だと言って安心させてあげたい。
それなのに自分の体は振り返りもせずくらい森の中を進むだけだ。
熱い手のひらを強く握り締める、この手を離してはいけない。
「*****ちゃん、手が痛い」
声の主はもう泣いていた。そうだ、この子はよく泣くのだ。よく泣きよく笑う。
そう思い出した瞬間私は自分の体が自由になった事に気がついた。
「私がずっと一緒にいるから大丈夫だよ」
私は振り向いて手の主に向かって笑いかける。
「うそつき」
振り向いた先には誰もいなかった。
ただ暗い闇の中から伸びた白い腕だけが私の手と繋がっている。
私の手はもう熱い湿った子供の手ではなかった。
私のつないだ手も柔らかく小さな子供の手ではなかった。
薄暗い闇の中からすらりとした手が私の手を離した。いや、離したのは彼女じゃない、私だ。私がこの手を離した。
約束したのに。
「うそつき」
もう一度声が聞こえる、高いか低いかひび割れているのかすんでいるのか、今まさに聞いているはずなのにどんな声をしているのか分からない。ただ酷く懐かしい。
酷く懐かしい声。
涙が出るぐらいに。
忘れてはいけない。覚えていないといけない。この声を、この手を。
約束したのだから。
そう強く願ったのに、夢から覚めた時にはすべて忘れていた。




