26 腹黒い奴ら
「あれは、小学生ぐらいの出来事かしら。当時、私は香蘭寺家の令嬢、というプレッシャーに押しつぶされそうになっていて不安だらけの毎日でしたわ」
瑠璃はテーブルに肘を置いて、手を組んだ。
「そうだったのですか……。それは大変ですね」
名家に生まれると、いろいろと大変そうだと、美羅は思った。
「そんな時、私は旅行先で彼と出会ったの」
「彼? ですか?」
瑠璃は笑みを浮かべる。
「彼は私を令嬢としてではなく普通に接してくれたの。それがとても記憶に残っていて」
「その彼と私が似ていた、という事ですか?」
「何故でしょうね? どことなく美羅さんの雰囲気が彼と似ていらっしゃったから」
少しの沈黙の後、瑠璃は、
「ねえ、美羅さん。まずは私と、お友達から始めませんか?」
(まずは? )
瑠璃の優しい笑みでそう言われると頷きたくなるのだが、美羅はその単語に引っ掛かりを感じた。
そして、その優しい笑みは久の笑顔と結びついてしまうのは気のせいだろうか……。
美羅は考えを巡らせていると、瑠璃が悲しそうに、
「……そうですか。美羅さんは私とは親しくなりたくな……」
「いえ、そんな事はありませんよ!」
「まあ! それはうれしいですわ! 」
(しまった!)
時すでに遅し。
つい反射的に美羅は答えてしまった。
しかし、それよりも美羅は一つ確認したい事があった。
「瑠璃さん、唐突だと思いますが、私に占いをさせていただけないでしょうか? 多分その方を見つける事ができると思います」
「えっ? そんなことができますの? 当時、探偵に探させたのですが、特定することができませんでしたのに……」
「はい、できると思います」
美羅は瑠璃の目をまっすぐ見つめた。
「……わかりましたわ。その人を見つけることができたのなら、久さんとの婚約も解消しましょう」
「え、そんな! 」
それは美羅にとって都合が悪いのだが……。
ちょうどそのタイミングで久と、途中から合流したであろう晶子が、紅茶セットをトレイに載せて、ドアから出て来た。
「お待たせしてすみません、瑠璃さん。執事の加藤が不在のため、紅茶のセットを探すのに手間取ってしまいました」
「いいえ、お気になされずに、久さん。私、美羅さんと取引おりましたの」
「え!? それは一体……」
久が驚いた表情で、その内容を尋ねる。
内容を聞くと久は小声で、
「なるほど、それなら必要が無かったな」
とつぶやき、瑠璃に、
「瑠璃さん、少しお待ちいただけますか? 」
「分かりましたわ」
久はさわやかな笑みで部屋から出て行き、人を連れてすぐに戻って来た。
「瑠璃さんに紹介したい方がいらっしゃいます。こちらです、どうぞ」
瑠璃は俊治を見た時に手で口を覆い、何か考えていてようだが、我に返り、手で口を覆うのを止めた。
「失礼いたします! はあ~このお屋敷、とても素晴らしいですわ~! 」
「おい、母さん! この屋敷は危険だから気をつけろよ!」
「どこが危険なのよ! 失礼な子ね! 久君ごめんなさいね~! しつけがなってなくて~!」
美羅にとって、とても見覚えのある人物が二人現れた。
「お母さん! お兄ちゃん! どうしてここに? 」
***
晶子は、運んできた紅茶セットをテーブルの上に置き、紅茶を入れる。
「久さん。私に見せたいとおっしゃっていたのは……」
「ええ、こちらの方々です」
ただ、俊治は久に呼ばれたわけではなく、
「俺は、母さんが一人で行くっていうから仕方なくついて来ただけだ」
最初は陽子だけがこの屋敷に訪れる予定だったが、(いろいろな事が起こったこの屋敷に一人で行く母を)心配した俊治が、一緒についてきたようだ。
ふと、美羅は疑問に思った。
なぜ陽子がここに来たのだろう、と。
美羅の知らない間に、陽子は久と何の話をしていたのか。
そして、陽子の能力は確か、人の記憶を操作する能力だったはず。
陽子は久と美羅をくっつけたいという願望があるはずだ。
そこで問題となるのが、婚約者の香蘭時 瑠璃の存在である。
何をするつもりなのだろうか……。
美羅は久と陽子に視線を向けると、久はその視線に気がつき、美羅にさわやかな(何か企んでいる)笑みを向けてきた。
美羅は嫌な予感しかしなかった。
「初めまして! 美羅の母の陽子と申します! あなたが瑠璃さんですね! まあなんて可愛らしい!」
「初めまして陽子さん。こちらこそ、よろしくお願いします」
「では、さっそくうちの子の占いで、瑠璃さんの探し人を見つけましょう! 」
母の声はとても明るかった。




