25 庶民の発想
一方、美羅達はとりあえず、久の屋敷(美羅は拒否権なし)で話をすることになったため、美羅達は瑠璃の車で移動することになったのだが、
「あ! これがダックスリムジン!」
美羅は高級車を見てそう言った。
「「「ダックスリムジン??」」」
久と(香蘭時)瑠璃と晶子は首を傾げた。
「あ、ごめん。家でよく家族とテレビ見てると、リムジンが、ダックスフンドみたいに長いから、そう言ってるんだ。こんなに間近で見たの初めてだね」
リムジンンがかわいそうである。
晶子があきれ顔で、
「美羅の家族、変わってるわね……」
久と瑠璃も、うなずいた。
そんなことをしながら、四人はダックスリムジンに乗った。
内装は全体的に黒で統一されていて、高級感が漂っていた。
ダックスリムジンの中では、美羅の右隣には瑠璃、左隣は久が座っていて、晶子が三人の正面に座っている状態であった。
美羅は、両サイドから両腕をホールドされていた。
晶子はふと、
「あ、そういえば久君、加藤(執事)はここにいないけど、どうしたの?」
美羅は一瞬、体がビクッとした。
久は、少し暗い顔で、
「ああ……、加藤は今日、病院に行かせたから、家にはいない。あいつ最近様子がおかしいし、本当にどうしたんだろうな……」
どうやら、変態執事は変態のままだということだ。
「え、まさかその病院って……」
晶子が恐る恐る聞くと、
「ああ、皮膚科に行っている。まずは肌質を改善したいらしい」
そこは普通、精神科に行くべきではないのだろうか?
屋敷に着く時間帯に、加藤はいないそうなので、美羅は少しホッとした。
「ねえ、美羅さん」
「は、はい?」
瑠璃は優しい表情で美羅をみつめる。
「やっぱり、私の好みですわ……」
「えーと……」
美羅が困惑していると、久が、
「瑠璃さん、美羅は渡せません」
「あら、それなら婚約は解消できませんね。もし無理に解消なさるのなら、久さんにひどいことされて……ってお父様に言いつけますわ!」
「それは……」
久はそれ以上反論すると、さらに不利な状況に立たされると思い、言葉を発することができなかった。
久は珍しくうろたえた様子だったので、美羅は内心(この表情の写真が撮れたら、高く売れるだろうなぁ)と思っていた。
久はため息をついて、
「とにかく、屋敷に行ってから話をしましょう」
「あら、この話し合いを先延ばしにして、何か策がおあり
なの?」
久は首を横に振って、
「さすがに瑠璃さんには、俺もお手上げですよ。ただ、瑠璃さんに是非お見せしたいものがあるので、ぜひ」
「あら、それは楽しみですわ」
「ええ、きっとお気に召すと思いますよ」
穏やかな会話をしているが、久が一瞬だけ、瑠璃に気付かれないように小さく笑みを浮かべたのを、美羅は見逃さなかった。
(うわあ……、また何か巻き込まれそうな予感が……)
美羅は表情をこわばらせた。
(さあ、この後どんな展開になるかな~。楽しみね!)
晶子は三人の様子を、軽く足をばたつかせながら見ていた。
***
久の屋敷に着いたが、見た限りでは、加藤はいなかった。
ダックスリムジンから美羅達は降りると、屋敷の応接間に招待され、久は紅茶を取ってくると言って、応接間から出ていってしまった。
応接間の中央に、木でできた、繊細な彫刻がされた四角いテーブルと、椅子が置かれていて、天井を見上げると、高価そうなシャンデリアが美羅達を照らしていた。
思えば、久の屋敷に来て、まともに応接室に招かれたのはこれが初めてではないのだろうか?
(どっちみち、加藤が来る前に早くここから出ないと……)
隙をみて、逃げようと美羅は思った。
少し経ってから晶子は、
「ちょっと、トイレを探してくる。すぐ戻ってくるから」
と言って、行ってしまったので、美羅と瑠璃の二人だけになってしまった。
ふと、美羅は瑠璃と目が合い、瑠璃が、
「やっぱり、美羅さんを見ていると、思い出しますわ……」
瑠璃は軽いため息をこぼす。
とても暖かい笑みを浮かべているのだが、悲しんでいるようにも見えた。
「それは、誰にですか?」
美羅が瑠璃に尋ねると、少し沈黙が続いたあと、
「美羅さん。私の、昔の思い出を聞いていただけませんか……」




