19 松田の運勢
美羅が玄関から出る前に、陽子が、
「美羅、お母さん頑張るから! 久君とは仲良くするのよ! 絶対よ! 本当に!」
「はあ……」
陽子の目は見開き、一等星のようにギラギラと輝いていた。
(人の目って、こんなに輝くんだ……)
そして、美羅は玄関から出た。
美羅はため息を着きながら、学校へと向かう。
通学の途中、美羅はうつむいて、考え事をしていた。
最近の悩みの種は、ずばり久である。
昨日の夜、抱きしめられたときはかなり驚いた。
(かまってもらいたいなら、変態執事にかまってもらえば
いいのに……)
彼の熱い愛情なら、久の心をきっと満たしてくれるだろう。
普段なら透視をすれば、久の考えていることは簡単に分かることなのだが、久に透視をすると気付かれるため、何を考えているのか、美羅には分からなかった。
「疲れるから、考えるのやめよう……」
そして美羅は学校の玄関までやってきた。
(やっぱり、家に帰ろうかな……。)
美羅の下駄箱の所に、昨日のデパート(事件)で会ったクラスメイトの女子の姿が。
彼女は両腕を組んで、下駄箱によっかかって、軽く右足を床にトントンと蹴りながら、誰かを待っているようだった。
この女子は登場頻度が高いので、名前を付けるとしよう。
彼女は 伊藤 沙也加。
彼女は久ファンの中でも発言権を持つ、超危険人物である。
美羅が近づくと、沙也加が下駄箱によっかかるのを止めて、話しかけてきた。
「おはよう美羅」
「お、おはよう」
「あのさ、昨日のことなんだけど」
意地の悪い笑みを浮かべる。
(もしかして、久君の後をつけていて、抱きしめられた現場を見られた!?)
美羅の全身から冷や汗が出てきた。
「私ね、久君と趣味の話をしたんだ! あ~楽しかった!」
ただ単に、美羅がいなくなった後、久と話をしたことを自慢しに来ただけのようだ。
とりあえず、大丈夫そうだったので、ほっとした。
「映画見るのが好きなんだよね」
「え? 何で知ってるの? どういう事なの、ねえ?」
「えっと……」
やばいやばい。
久を透視したときに視えたことを、無意識に言ってしまった。
沙也加は、攻撃的な目を美羅に向けて来た。
「あんた、気に入らないのよね。だいたい……」
「おはよう」
ここで元凶である久が、タイミングよくやって来た。
「どうしたんだ? そんなピリピリして」
「あはは、な何でもないんだ! じゃ、じゃあね!」
沙也加はそそくさと、どこかへ行ってしまった。
「さて、どうしようか……」
久は腕を組んで、一人で何か考え始めた。
とりあえず助かったが、このまま二人でいるのはますいので、美羅は久と距離を置こうとした。
「ありがとう、久君。それじゃあ私はこれで」
しかし、久は人当たりの良さそうな笑みで、
「昨日のこと、誰かに言ってもいいのか?」
美羅に小声で話しかけて来た。
「うう……」
久に従うしかない。
ふと周りを見ると、女子達がじーっと、こちらを見ていた。
(ひいぃ!)
こうして美羅は、多数の女子の視線を感じながら、久と教室へ向かう羽目にあった。
***
教室に着くと、女子の視線が久と美羅に集中する。
その中心には、朝に会った、沙也加の友人である、高梨 愛奈がいた。
「ねえ、久君! ちょっと聞いて!」
そう言って、美羅から久を遠ざけようとする。
「俺、裏研に興味があって、美羅と話をしてたんだ」
その瞬間、美羅に嫉妬の視線が集中する。
(お願い! もうやめてぇ……)
美羅は精神的に限界であった。
しかし、久はまだ何かするつもりのようだ。
「そうだ。美羅の占いって、すごく当たるんだよな。俺も占ってもらったけど、全部当たってたし」
「へえー そうなんだ」
美羅のクラスでは、文化祭で占いに来た人はいないので、美羅を疑っているようだ。
こうして、美羅は占いをすることになった。
「そ、それでは始めます」
かなり居心地が悪いが、やるしかないだろう。
美羅は目を閉じ、透視を始めた。
「……高梨さんは、小さい頃からアニメが好きで、将来は漫画家になりたい、かな?」
「ええ! 誰にも言ったことないのに、どうしてわかったの?」
「他にも歌を作るのが好きで、よく曲を作ってたりとか……。高梨さんは基本的に、芸術的センスがあると思いますよ」
「それも他の人に言ったこと無いよ! すごーい! ありがとう!」
それを見ていた周りの女子も、「私も占って!」という声が次々と上がった。
いつの間にか、美羅のクラスのポジションが変化していた。
美羅は久の方に視線を向けると、上手くいった、という表情を浮かべていた。
(もしかして、こうなることを予想していたのかな?)
恐るべし、久。
そして、晶子がやってきた。
***
あの後、美羅は女子達の占いをすることになり、休み時間がすべて占いで消えた。
晶子は久から状況を聞いたようで、笑みを浮かべていた。
晶子が笑っていると、背筋が寒くなるのは気のせいだろうか。
そして美羅が待ち望んだ放課後になった。
今日は晶子と久は、用事があるらしく、美羅は一人で部室へ向かった。
***
「疲れた……」
愚痴をこぼしながら、ドアを開けると、
「あ、みらぴーだ!」
彼女は、裏研部員の木本 璃々(きもと りり)である。
身長は153センチ、髪はセミロング、前髪は眉の辺りで切りそろえている。
性格は天然、マイペースである。
彼女はタロットカード占いを得意としていて、その的中率は高い。
「そうだ! みらぴー、最近こんなのを始めたんだー」
自身満々に、机にカードの入った箱を出す。
「りり特製、オリジナルタロットカードだよ!」
美羅は数枚のカードを手に取った。
カードはかなり薄い木でできており、表側はかなり細かい彫刻がされている。
しかし裏返してみると、絵が下手すぎて、同じようなカードにしか見えない。
「ど、独創的だね……」
美羅がカードを机に戻すと、
「どれどれ? これか?」
松田が箱に入っているカードを全て取り出し、
「ははっ! 絵は誰かに描いてもらった方が、良かったんじゃないか?」
松田は部室の、開けた窓を背に、よっかかってタロットカードを見比べていた。
「うるさいなあ。それ、りりの念がこもってるから、壊すと天罰が下るんだよ」
「はあ~? お前、神様にでもなったつもりか? さすが、不思議ちゃんだな~」
「むう! 本当なんだから!」
松田がふざけていると、背後の窓から、テニスボールが飛んで来た。
「ぐへえ!」
テニスボールは松田の背中に直撃し、体制を崩して転倒。
バキッ。
部室内に嫌な音が響く。
「痛ってえ……」
松田が体を起こすと、
「うわああ!! 嘘だろ!?」
全てのタロットカードが折れていた。




