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17 ピンチ


「美羅、早くこっちに来い」


松田は美羅にそう問いかける。

しかし、美羅は松田の方に行こうとするが、久の腕にホールドされて、動けない。


久は眉をひそめながら、


「お前誰だ?」


そういえば久は松田がイケメンに変身できることを知らないのだ。

松田は直接答えず、


「お前は、俺の存在を知っているはずだ。いずれ分かる時が来る……」


松田は久に意味深な言葉を残し、気を取り直して、美羅の方を見た。


「美羅、お願いだから来てくれ」


「ふっ……」


なぜだろう、思わず噴き出しそうになるのは。

松田の元の顔を浮かべてしまうからだろうか?


笑いをこらえる美羅とは対照的に、周りの女子達は、


「キャー!」


やはり黄色い喚声をあげていた。


すると久は美羅の目を見て、低い声で、


「美羅、あいつと知り合いなのか? どうなんだ?」


「うん。裏研部員の一人だし」


「何だと! あんな奴がいたのか!」


「いや、だって松……」


美羅が言い終わる前に、久は松田の方に視線を向け、


「誰だか知らないが、美羅は渡さない」


そしてまた、女子達から喚声が上がる。


さらにその様子を見ていた、東が面白がって、


「美羅、そんな奴ら放っておいて、俺のとこに来なよ」


艶のある声で、美羅の方向に手を出した。


また案の定、喚声が上がった。


もしかしてここは乙女ゲームの世界なのか。

だとするなら、美羅はかなりまずい状況に立たされている。


本当に巻き込まないで欲しい。

本当に……。


思った通り、美羅は女子達の嫉妬の視線を浴びる。


(はあ……)


この状況をどうしたらいいのだろうか……。

もう、美羅はどうすることもできない。


晶子は、一体何を考えているのだろうか。

もしかしたら、わざとこうなることを狙ったのかも知れない。

いや、松田(イケメン版)を出した時点で、絶対にこうなることを狙っていたに違いない。


(もう、なんでもいいから早くどうにかして……)


美羅は諦めた。

そして、しばらくして


「はーい、オッケー!」


突然、大きな声をあげて美羅達の所に、予想通りあの人物が現れた。


「晶子!」


手にはカメラを持っていた。


「美羅、驚いた?」


そう言って、晶子は野次馬たちに向かって、


「お騒がせしてごめんなさーい、これ、実はドッキリで、{イケメン三人に迫られたらどうする!?}という企画なんですよ」


松田はうんうんと頷き、久は美羅に尋ねた。


「そうなのか美羅?」


「そうそう」


美羅は適当にそう言って、久の腕の力が緩んだ隙に、抜け出した。


空気を読んだ東は、


「実は俺もドッキリだったこと知っていたよ。美羅、驚いたでしょ?」


人の良さそうな笑みでそう言った。


「あはは、驚いちゃった」


美羅はその笑顔を見て、反射的に距離を取ったが。


それがやがて野次馬たちは減っていき、辺りは平穏を取り戻した。

そして、そのまま帰ることになった。


……かに見えたのだが、一部の自信ありげな女子達と、同じ高校の女子が、こちらによって来た。


***


「ねえ、久君の趣味って何?」


「本を読むことだな」


「へえ? そうなんだ! 今はどんなものを読むの?」


「そうだな……」


可愛い他校の女子達が久にべったりくっついていた。


松田も、女子達に囲まれているが、晶子と一緒にいた。

東も同じく、女子達に囲まれていた。


美羅は一人、その様子を後ろからぼんやりと眺めていた。

すると、あのクラスメイトが美羅に話しかけて来た。


「美羅、良かったねえ、あんな体験出来て? もう無いと思うけど」


クラスメイトはそれだけ言って、見下したような笑みを浮かべながら、久の所へ行った。


彼女は周りの人が聞いていることに気づかないのだろうか?

自ら性格の悪さを披露してしまっているが、まあ放っておこう。

そして、それを聞いた女子は、こちらを見て薄笑いを浮かべていた。


ああ、もう嫌だ。


どうしてこういう女子は、汚い感情を人にぶつけてくるのだろうか。

理解できない。


……自分も一応、女だが。


美羅はこれ以上この空間にいたくなかったので、


「私、用事があるから、先に帰るね」


そう言ってこの場からそそくさと逃げ出した。


***


「はあ……」


蛍光灯が照らす、光と闇が入り混じる道路を、美羅は歩いていた。


ふと空を見上げたが、雲のせいか、なにも見えなかった。


何故、こんな思いを抱かなければいけないのだろうか。

理由は分かっている。


劣等感だ。


自分に自信が無いからこうなるのだ。


美羅は透視が出来るだけで、頭は良いわけではないし、コミュニケーション能力は高くない。容姿は……どうなのか分からないが、あまり取り柄は無いと思う。


それに比べて、晶子や久、松田は考え方が前向きで、正直羨ましい。


(駄目だなあ、私)


考えれば考えるほど、後ろ向きな考えになってしまうのは、悪い癖だと、つくづく思う。


美羅はふと、足を止める。


背後からだろうか。

誰かが荒い息をしながら走って来ているようだ。

何となく、誰なのかは分かっていた。


「はあはあ……、美羅、やっと見つけた。だいぶ……遠回りな帰り道だな」


美羅は振り返らない。


「別に良いでしょ? 私の勝手だし……」


歩き出そうすると、背後から温かいぬくもりと、覚えのある香りに包まれた。


「離してよ」


「嫌だ」


「これ以上、私に関わらないで」


「嫌だ」


「どうして……」


美羅は何か言おうとしたが、口を閉じた。


少しの沈黙の後、ポツポツと話し始めた。


「……久君といると、私は惨めな気持ちになるの」


「俺は、美羅が他の奴と楽しそうにしていると、惨めな気持ちになるな」


「じゃあ、私に関わらなければいいのに……」


「それは、無理だな。今日の出来事で、美羅の良さに、改めて気付かされたしな」


「私の良さ?」


「ああ。それはな、どんな相手でも平等に接している所だよ。今日、俺にくっついていた彼女達は、金目当てで俺によって来たんだろう。ブランドのバックの話をしたら、食いついて来たしな」


「……私も久君のお金目当てかもしれないよ?」


「それは無いな。デパートの買い物で、何も要求して来なかったじゃないか」


「……」


「美羅は、もっと欲を持った方がいい。なんだか、全てを諦めているようにも感じるからな」


「うん、分かったから久君。そろそろ離してくれないかな?」


「駄目だ。もう少しこのままで……」


人の話を全く聞かない。

むしろ抱きしめる力が、さっきより強くなった気がする。


「……久君は、その欲深さをどうにかしないとね」


美羅はもう一度空を見た。


いつの間にか雲は少なくなり、隙間から小さな星が、静かに輝いていた。


***


その後、美羅は一人で構わなかったのだが、久が自宅まで、一緒に送ってくれた。


そして自宅に着くと、久が急に身だしなみを整え出した。


一体、何を考えているのだか……。


疑問に思いながらも、美羅はインターホンのボタンを押した。


ピンポーン。


しばらくすると、


ガチャ。


「お帰り美羅、今日はいつもより遅かったわね……あら? あなたは?」


「こんばんは、僕は橋本 久と言います。星名さんの彼……」


「お母さん!! 彼は友達で、帰る時間が遅くなったから、家まで送ってもらったの!」


やはり久は策士だと思った。


「まあ、そうなの? それはどうもありがとう! あ、何かお礼を……」


「いえ、大丈夫ですよ。では、僕はこれで失礼します」


久は丁寧にお辞儀をして、帰って行った。

思っていたよりも、あっさり帰ったので、ほっとした。


久の姿が見えなくなった後、陽子は、


「……彼さっき、美羅の彼氏って言わなかった?」


最悪だ。ごまかしたつもりだったが、久の言った言葉を、ばっちり聞き取っていたようだ。


「違うよ! ただの知り合いだよ!」


「ただの知り合いなら、わざわざ家まで送ってくれないと思うんだけど?」


「か、彼は親切な人だから……」


「ふーん?」


美羅はこの後、久について家族全員から質問攻めされることとなる。


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