16 婚約者へのプレゼント
三人は学校から出て、近くにあるデパートが見えてきた。
デパート周辺の地面はレンガが敷き詰められていて、中央には美しい噴水が設置されていた。
「やっぱり、ここがベストでしょ」
「まあ、そうだな」
このデパートはあらゆる年齢層に対応していて、とても利用しやすい。が、知り合いと遭遇しやすいので、美羅は一度も利用したことが無い。
二人は結構このデパートを利用しているようで、普通に中に入っていく。
(うわぁ、やっぱり無理だよ)
人ごみが苦手な美羅はゆっくり引き返そうとしたが、やはり久と晶子がこちらを見ていた。
「美羅、どこに行こうとしてるんだ」
「べ、別に……」
晶子は何も言わず、にっこりと笑みを浮かべるだけだった。
(仕方ないな……)
美羅はとうとう諦めて、二人の後について行くことにした。
***
中に入ると、全体的に白く、落ち着いた空間が広がっていた。
しばらくして、晶子が、
「久君。ちょっと別々に行動しない? その方が効率がいいと思うの」
「それもそうだな」
と、久は同意するが、美羅は、
「え、ちょっと待っ……」
晶子は、どこかへ行ってしまった。
結局、久と一緒にプレゼントを探すことになってしまった。
もしこんな所を知り合いに見られたら、かなりやばいことになるだろう。
幸いにもここは、ブランド店が多い階なので、学生はいないが油断は禁物だ。
(何でこんなことに……)
久の目的地は決まっているようで、その後を美羅はただついて行くだけだった。
久が足を止めた場所は、女性向けのブランド店だった。
女性なら、誰もが憧れる有名なブランドなのだが、美羅は全く知らない。
だが、そんな美羅でも並べられている商品は、確かに可愛いと思うようだ。
可愛いポーチがあったので手に取り、
(いくらかな?)
と、その商品の値段を見た途端、
「高っ!」
思わず声を上げ、すぐに元の場所に戻す。
それとは対照的に久は、
「そんなに高いか? ここの店はまだ安い方だけどな」
と首をかしげていた。
「ええっ! 頭おかし……へえ~?」
「おい、本音が漏れてるぞ」
やはり住んでいる世界が違うと感じた美羅であった。
そして久は少し考え込むような感じで美羅に、
「美羅、何か欲しいものがあるなら……」
「いえ、特に無いです。大丈夫です。婚約者のプレゼントを考えて下さい」
「? 急に敬語になったな」
これは罠だ。
高い物をあげて、脅す材料にするに違いない。
無害そうな表情をしているが油断してはならない、と疑う美羅であった。
実際、久はそんなことをするつもりは無かったのだが。
その後、久はいくつか選んで、購入した。
(結局、私がいてもいなくても、一緒な気がするけど……)
そして二人は店を出て、近くにあったソファーに座り、一息ついた。
「ねえ、久君。婚約者さんに、普通のプレゼントをあげたりしたら、余計に相手が乗り気になりそうな気がするけど……」
「まあ、普通ならな」
無邪気な笑みを浮かべて言っているが、何か策を考えているに違いない。
透視することも出来ないので想像するしかないのだが、それは難しい。
「はあ~、いいな~久君は」
「そうか?」
「頭が良くて、かっこよくて、家がお金持ちで。なんでもできて」
「まあ、周りと比べれば、俺は恵まれてるんだろうな。だけど、美羅の方が恵まれてると思うけどな」
「えっ? どうして」
「その能力だよ。うまく使えば、なんでもできると思うけどな」
「そうだね。でも、この能力が無い方が良かったと思う時はあるよ」
美羅は下をうつむき、そう言った。
もっと話を突っ込んでくると思ったのだが、
「そうか」
と言って、それ以上は聞いては来なかった。
少しの沈黙の後、
「のどが渇いたな。あそこで飲むか?」
久は近くにあった、高そうな飲み物専門の店を指差した。
「いやいや、それは悪いよ(しかも二人きりだし)」
「仕方ないな。じゃあ自販機で買ってくるから。あったかいやつでいいよな?」
「あ、うん」
美羅も一緒に行こうとしたが、久は待ってて大丈夫だ、と言ってスタスタと行ってしまった。
そして、一人になった美羅は、
(今のうちに逃亡したいな、でもな)
と、考えていた。
***
「はあ……」
美羅が下を向いて、ため息をついていると、
「ねえ、そこの女子高生」
突如、見知らぬ男が話しかけて来た。
服装は全体的に黒っぽく、シンプルな格好をしていた。
上を見上げ、顔を見ると……久に劣らない、かなりの美青年がこちらを見つめていた。
「……はい?」
「君さあ、あいつと知り合いなんだね」
「あいつって、久君のことですか? そんなに親しく無いですけど」
「いやいや、それは無いでしょ。あいつがあんな表情をしてるの、初めて見たし」
「そうですか」
この人はきっと危ない人なんだろうなと思いつつも、敵意を感じられなかったので、美羅はとりあえず話を聞いてみることにした。
その男は美羅の隣に座り、
「ちょっと俺の話につきあってくれないかな?」
「はあ」
「あいつって、君みたいなのがタイプだったんだね」
「どうなんでしょう……。彼ならよりどりみどりだと思うんですけど」
「そうなんだよ。あいつの周りには、いつも人が群がってて、近づけないんだよね」
「ああ、すごいですよね。だから正直、関わりたくないですけど」
「ええ! 珍しいね、君。普通は喜ぶと思うんだけどな」
「彼はたまに、何を考えているか分からないので、怖いです」
「そうそうそう! 俺もそう思うよ! 君、気が合うね!」
久がいない間、なぜか知らない人と盛り上がっていた。
***
久は自販機のジュースを買い、美羅の所へ戻ろうとしていた。
見ると、他の男と楽しそうに話をしているのを発見。
しかもその男は……。
久は険しい表情を浮かべながら、美羅の方へ早歩きで近づく。
「あっ、久君。買ってきてくれてありが……」
「美羅っ!」
「わっ!」
美羅をその男から遠ざけるようにして、抱きしめた。
彼の吐息、たくましい胸板、あたたかな温もり、さわやかな香り。
(って、そんなこと気にしている場合じゃない!)
「久君。彼は誰なの?」
「理事長の息子、東 輝彦だよ」
いつもの様子とは違い、久は不機嫌に答えた。
そして、久は青年の方を睨みつけ、低い声で、
「何しに来た」
「別に~? ただ様子を見に来ただけ」
と、へらへらしながら答えた。
ただならぬ雰囲気に何だ何だ、という感じで人が群がって来た。
これは非常にまずい!
(周りの視線が痛いよ! あと、缶ジュースが当って、ちょっと熱いよ!)
この構図だと美羅が魔性の女、といった印象を受けるだろう。
そして、美羅は見つけてしまった。
同じ高校の、美羅に注意をしてきたあの女子を!
彼女は、美羅に気づき、大きく目を見開く。
(嫌! もう、勘弁して!!)
晶子、どこにいるの?! お願い、どうにかして!!
美羅が強く願った瞬間、増えゆく野次馬の中から、どよめきが起こる。
少し癖のある髪、穏やかな瞳、影のある横顔(殴られた痕)。
「よう美羅、お前を助けに来た」
(ここで松田!?)
イケメン版の松田が現れた。




