11 誕生の瞬間
美羅と透明俊治は彼の屋敷にやって来た。
昨日は夜遅くまで俊治とあらゆる手を考えたので、準備は万全だ。
(よし、行くぞ美羅)
(うん)
覚悟を決めて美羅はインターホンを……、
「ようこそいらっしゃいました」
「えっっ!!」
インターホンを押す前に執事の加藤は現れた!!
俊治も思わず声を出しそうになった。
加藤の口は笑っているが目は笑っていない。
美羅と俊治は背筋がぞっとした。
((怖っっ!!))
二人は小さな声で呟く。
「さあこちらへどうぞ、星名 美羅様」
「はい……」
美羅と透明俊治は、執事の後をついていく。
なぜだろう、前回よりも結構歩いているような……。
そして前回とは様子が違う部屋に連れて行かれた。
執事がドアを開け、美羅と俊治は中に入る。
全体的に暗く、部屋の中央にテーブルがあり、向かい合わせにソファが設置されていた。
「こちらへどうぞ」
「はい……」
美羅は入って来たドアから遠い方のソファに座った。
俊治は座らずソファの傍で立っているようだ。
辺りをキョロキョロ見ていると、洗面所やトイレ、奥にベッドがあることに気がついた。
(? 客室じゃなくて、誰かの寝室だよね)
「あの、この部屋は?」
「ここは私の部屋ですよ」
「えっっ?」
驚いた。
なぜこの場所に美羅を連れて来たのだろう?
全く真意がつかめない。
「手紙を読んで私はここに来たのですが……。」
「そうでしょうね」
「久君は……」
そう言うと、加藤は薄い笑みを浮かべ、
「手紙を書いたのは私ですよ」
***
(えっどうしよう……)
美羅は動揺した。
まさか、執事が書いたものだとは予想していなかった。
そうだ、目的の鍵はどうなるのだろう。
「あの、占い部屋の鍵は?」
「ああ、そうでしたね。ここにありますよ」
そう言って、執事は胸ポケットから鍵を取り出した。
「美羅様、今から私が言う条件を呑んで下さるなら返しましょう」
執事は鍵を胸ポケットにしまう。
果たして執事は何を要求してくるのか。
「……条件は?」
と聞くと、加藤は条件を言い始めた。
その一、久家について知っていることを全て話し、口外しないこと。
その二、今後久と関わらないこと。
執事は少し間を空けて、
「その三、私のものになること」
「えっっ???」
***
(今のは幻聴? )
「その三、私のものになること」
「ひゃっ!!!」
執事は無防備な美羅の耳元で呟いた。
美羅はソファから立ち後ずさる。
一と二はともかく、三の条件は無理だろう。
なぜ、三の条件を出したのか聞こうとしたが……やばそうなので聞かない方がいいだろう。
「どうしますか?」
絶対に条件を呑みたくないが、占い部屋の鍵は手に入れたい。
仕方が無いが、この作戦で行ってみるか。
「……実は私、前から加藤さんのこと気になっていました」
「えっ、それは本当ですか?」
「はい……」
美羅は執事に抱きつき、満面の笑みで見つめる。
「私、加藤さんのこと……別に好きじゃないです!」
そう言って、美羅は素早く執事のポケットから鍵を取り出し、すぐに距離を取る。
執事は苦虫を噛み潰した表情をしていた。
「やられましたね……」
「これで、私はあなたの条件を呑む必要はありませんね」
「そうでしょうか?」
そう言ってじりじりと距離を狭めながら、執事は美羅に話しかける。
「あの時はよくもこの私に催涙スプレーをかけてくれましたね。よく覚えていますよ……」
そうは言っているが、嬉しそうな表情をしている……。
背筋がゾワゾワする……。
「スプレーをかけられた時、最初はあなたに対しては強い怒りを感じていました。ですが、同時に新しい感情も芽生えました。この感情はきっと……恋、そうに違いありません」
執事は熱いまなざしでまっすぐ美羅を見つめる。
「星名 美羅様、どうかこの私を……いたぶって下さい!!! 」
「嫌―っっ!! 」
今、ここに変態が生まれた。
***
執事は美羅に早歩きで近づいてきた。
美羅は執事と距離を取るがあっと言う間に壁際に追い詰められた。
「もう逃げられませんよ」
(ああもう駄目、捕まる!!)
諦めかけたその時、突如執事がうめき声をあげ、床にうつ伏せで倒れた。
加藤は何が起こったのか理解が出来ず、呆然とする。
(大丈夫か美羅?)
(うん。お兄ちゃん、今日いつもより二割増しかっこよく見えるよ)
二人がこそこそ話していると執事が美羅に、
「いったい今、あなたは私に何をしたのですか? まるでそこに誰かがいたような……」
ふと美羅にアイデアが浮かぶ。
そして、勝ち誇った表情で、
「教えてあげましょう。実は私、幼い頃精霊と契約をしたの。だから私の身が危険にさらされると守ってくれるの。……さあ、あの人をボコボコにしなさい!! シェンジーン!!」
(それ、俺の名前を少し変えただけだよな?)
俊治はそう思いながら、加藤に接近した。
***
美羅はその間に、加藤の部屋から逃げ出し、ひたすら走り続けた。
だが、この屋敷は同じような通路が多く、なかなか出口に辿りつけなかった。
体力も無くなって来たので、立ち止まった時ちょうど部屋があったので、そこで少し休もうと思いドアをゆっくり開ける。
ギイィ……。
ここも寝室のようだが、誰も使っていないようだ。
ここなら、多分しばらくいても大丈夫だろう。
少しほっとして、美羅はドアを閉め、人がいないことを確認してから、ソファに座る。
「これ、いいな……」
加藤の部屋にあったソファと違い、こちらの方がやわらかくて好みだ。
緊張がほぐれたのか、眠気が襲ってきた。
寝てはいけないとは思いながらも、美羅は目を閉じてしまった。
近づく足音に気付かないまま……。




