七
◇◇◇◇◇
『ヤダぞ』
「……」
「…………」
先程の危機的状況から抜け目的地に近づいたものの、今度は思わぬところから行き止まりを食らった。
セラである。
今さっきまであれほど『小夜殿の為なら』と嬉々として山の上を跳ねるように滑らせていたというのに、二人が降りられない高さで止まってしまったのだ。
降ろしてしまえば一緒に行けない、姿を消さなければいけないのが嫌らしい。せっかく出てきたのだからもう少し出ていたい、話をしたい(特に小夜とだろう)遊びたいと駄々をこねる始末だ。
キョウリの眉が僅かに顰められている。ひしひしと彼から伝わってくる不機嫌オーラに冷や汗が止まらない。
以前、友人たちに鈍感だと言われてた小夜だが、こればかりはわかる。
(お、怒ってる、これはちょっと怒ってる!!)
『キョウリはズルイな、そんなひょろひょろと小さな姿であまり強くもないのに、小夜殿とずっとおしゃべりできるではないか。それに比べ、我は大きな姿だから強く逞しく役に立つ。なのに一緒にいられないなんて理不尽だ、ずるすぎるぞ、我ももっと一緒にいてもいいではないか』
完全に駄々である。
「セ、セラさん、また後でいっぱい話しましょう、ね?」
「大きい図体をしていながら、心が小さいとは悲しいな。なぁ、セラ」
『きょ、キョウリが大きくなれば我の気持ちがわかる! せっかく出れたというのに、少ししか話せず一緒に居れないなんて、とても寂しく辛いのだぞ?! なのになのに!』
「きょ、キョウリさん、今の言い方は酷いですよ、それはダメです!」
今度は大蛇と少女の二重の非難に、一つ、ため息を吐いた。
「セラ、助けてくれたことは本当に感謝している。ただ、今は時間がないんだ、頼むから降ろしてくれ」
『……』
「セ、セラさん、きっとまた呼びます。だから」
二人の言葉に、セラはゆらり大きな頭を振り向き、キョウリと小夜の目をじっと見つめると、ゆっくりと地上へと降下し始めた。
『……わかっている。我は主の言葉に従うしかない、だから、降ろすさ』
地上へ着くと、キョウリは小夜を抱えて軽々と飛び降りる。それをどこか羨ましそうに見つめるセラだったが、ゆっくりと青紫色した光の粒子となって消えていく。
『約束、だぞ、小夜殿』
「うん、きっと呼びます。又いっぱい話しましょう! キョウリさんもい、いいです、よね?」
「……仕方ない。また、あとでな、セラ」
キョウリの深緑色の瞳が僅かに優しく細められる。数刻前には思いもよらなかった展開続きだ。しかも大蛇と少女相手に、こんな約束をすることにになるとは思ってもいなかった。小さく笑う。
『! あぁ、また、あとでだ!』
光の中で、ぶんぶんとセラが大きな頭を何度も振り、嬉しそうに眼を細くする。そうして、光は徐々に小さく霞むように消えると、辺りは闇と、天の明かりだけとなった。小夜が両手で抱きしめるように握っていた短剣を見下ろすと、とくりと、確かに鼓動が聞こえた。セラの鼓動だろうか。
「キョウリさん、有難うございます」
「……助けてもらったからな、いくぞ」
「つ、ついてっていいんですか?」
「ついてくるんだろう、どうせ」
「は、はい!」
嬉しそうに笑う小夜に、キョウリはまた一つ、何度目かわからないため息とともに、苦く小さく笑った。
と――
「そこの二人、いちゃついてるとこ悪いけど、出頭してほしい」
「え?」
「誰だ」
声は突然だった。幼い少女特有の高い声が辺りに響き渡った。




