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ソデリエル奇譚  作者: 蒼埜葉琉
第一章:雷鳴と共に現れた少女
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8/23

六(※)


◇◇◇◇◇


 それは山道であった、別のお話。彼(・)ら(・)彼(・)女(・)ら(・)に遭遇する前のお話。


「おー、雲がすっかり晴れて星がよく見えんな、空気が澄んでて気持ちいいわ」

「澄んでる越して涼しすぎて寒い」

「そりゃ、スズがそんなひらひら半袖一枚だからだろ、おれは暖かいけど」

「それはヒヅキが毛皮だからだもん。全身もこもこでずるい、羨ましい」

「本当にそう思うか」

「やっぱり思わない」

 暗い山道をのんびり歩く二つの影。一人は艶やかな栗色したロングヘアの小柄な少女、そしてもう一人、いや一匹と言うべきだろう――ふさふさもこもこのタヌキのような獣である。

「…………」

「…………」


 ほーほー。


 どちらも言葉も発することなくなった、沈黙だけの中でフクロウの声が木霊する。

「……スズ、やんないからな」

「まだ何もいってないよ」

 少女、スズが眠そうな瞳を向けて返す言葉に、ふっと口元を歪めて獣――ヒヅキは笑った。ちょっとかっこつけて笑ったようだが、全然様になっていないのが悲しいところである。

「いーや、俺には分かる。お前、俺を首に巻けないかなーとか、抱っこで湯たんぽ代わりにでもしようかなーと考えてるだろ! この前だって、寝てる間に抱っこされてた俺の気持ちわかるか?! この俺が抱っこだなんてやってられっか!」

 先程までかっこよく笑んでいた(つもり)の表情はすぐさま消え、だんだんと悔し気に地団駄踏むヒヅキにスズは微笑んだ。それはもう、満面の笑みだ。

「ヒヅキがあったかくて、気持ちいいから仕方ない」

「俺は気持ちよくない、最悪だったさ! よりにもよって、同い年の女に抱っこだと?! 男が廃るわ!」

「……タヌキだからいいと思うよ」

「タヌキじゃないっていってんだろ!? クレノアケボシネコっていうな、立派な特別な獣だ。タヌキちがーう、クレノー」

「ネコでもタヌキでもどっちでもいいや。うん、やっぱりあったかいし抱っこしたいからするね」

「いぃぃやぁぁぁだぁぁ!」

 抵抗しようとも、所詮、少女と一匹の猫である。体格差は歴然、ぐったりとした様子でギリギリ抱っこを免れ右肩に乗る猫――ヒヅキに、スズはニコニコとご満悦である。

「うん、やっぱはじめからこうしてればよかった、ヒヅキはあったかい」

「……俺の、俺の心は闇に閉ざされた」

「うん、寝てていいよ」

「いいわけあるかぁぁ! ちくしょぉぉぉ!」

「ヒヅキは心が狭いよ、男なら懐広く毛皮を広く広げて、女の子をあたためる器量を持たないと」

「毛皮って言ったよな? 毛皮って言ったよな?! 毛皮=俺、首に巻く=俺ってなんだよ、巻くならもっとこう」

 ぎゃんぎゃんと横で喚くヒヅキを無視して、スズは夜空を見上げた。

 鈍い銀の星々がキラキラと輝く、どこまでも澄んだ濃紺。不思議な夜だ、先ほどで曇っていたというのに、あっという間に雷と雨が降ったかと思うと、十分も経たないうちに、綺麗な夜空となった。

 その理由がきっと、どこかにある。ふと、なにか空気が揺れたのを感じ、森の先をじっと見つめる。きらきら、青い光が揺れ動く。

「……凄い、大きくていっぱいの人が巻けそう」

「あぁ!? だから巻け」

「でも、もしヒヅキだけ巻かれたら、死んじゃうね、あれ」

「はっ、あれって何言って……なんだよあれ!」


 ふわり。


 それは山肌をさらりさらり滑るように、木々の間を流れる様に跳んでいる大蛇だった。


「……バカルカやじじいがいってた雷の正体、山の異変ってあれか?」

「かもしれない、ヒヅキ、ヒヅキ、巻いたらあったかいかな?」

「あったかいどころか息苦しくて死ぬわ!」

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