九
「「……どうもすみませんでした」」
深々と、少女――スズと、ネコもどき――ヒヅキが頭を下げる。といっても、ヒヅキの方はスズに無理やり頭を押される様にしてのため、不機嫌そうな声だ。
薄暗い山の中、土下座して頭を下げる少女と獣一匹の光景は、少々異様である。
「あ、あの、そんな謝らなくてもいいですよ」
「それで? どういう意味で声をかけてきたんだ」
小夜が慌ててスズ達に近寄り立たせようとするのをキョウリは手で制すと、あきれたように、しかし、警戒することはやめず瞳を細めて見つめ言葉を放つ。
すると、スズとヒヅキは互いの顔を見合って「どうしよう説明する? なんだか変な怪しい恋人たちじゃなさそうだもん」「いや、変も何も、どっちかってーと俺たちの方が怪しい奴ら的な眼差しで見られてるぞ、わかってる? スズ、わかってる?」と、ごそごそ何事か言い合っていたが、うんと頷き合うと顔を上げた。
「最初ね、貴方たちがあっちの山の山のうーんと離れてる方で、暴れている人たちじゃないかと思ったの」
「そ、お前らだろ、あっちの方角で暴れて山火事やらなんか揉め事起こしたの? 今もお前らに木木が焼けた臭いがついてるしな」
「……え」
「においか、なるほど。それにしても、まるで近くで見てたかのように言うな」
小夜は驚いてスズとヒヅキを見る。
先程、見知らぬ少年少女たちに襲われた場所から、セラの力を借りて随分と遠く、山々を越えてきた。
それも結構な速さだたはずだ。
彼女たちがあの場にいたなら、どうやってここまで来たというのか。
そしてなにより――火は セラの不思議な力により、雨を降らせすぐに消してくれたはずだ。
跳んでいる時も一般の人にそう見つからないよう、闇に溶け紛れてるから大丈夫だと言っていた( 最後にたぶん大丈夫だと言っていたが)。
それをどうして離れた場所にいたスズ達が、こんなにも詳しく知っているのだろう。
「見たのもあるけど、教えてもらったというか。あっ、教えてくれた人は良く知って、じゃない。えーっと、ここらの山々は私の庭みたいなものだから……って、言えばどうかな? ヒヅキ」
「……スズ、先に種明かし微妙に言ってるし! ってか、そう尋ねてる時点でダメだろ。あー、もう! こうなったらあれだ、こっちも真実を言うからそっちも隠さず言え、包み隠さず言え。大蛇に乗って移動してたのも知ってっし!」
びしっと小さな手をキョウリに向け、ヒヅキが睨む。
睨んでるようだが、迫力は皆無である。
その可愛さに、思わず小夜が「か、可愛い……!」と小さく呟いてふるふると体を震わせるのを、キョウリは横目で見るとため息ついた。
「もちろん、そちらから言ってくれるんだろう」
「うん、私の名はスズ、こっちはヒヅキ。この山々の中にあるレテアの谷に住んでるの」
「俺たちはその谷の民で一族のもんだ」
「レテア……?」
「レテアの民、この世界では最古と思われる術を扱う者たちだ。獣とともに共存し、朱き星神を守護に持ち、緋の力を術を操るレテアの民。別名、火桜の民とも呼ばれている。数百年以上前まで世界のあらゆるところに術者を輩出していたが、ある時から姿を消したと聞いていた」
「私たち民が世界の奥に身を潜めてから、随分時が経ったと聞いてるんだけど、まだ、有名なのね」
「有名ってだけじゃないだろ。あんたたち、もしかして」
ヒヅキが探るように見つめてくるのに、キョウリは口元に笑みを浮かべる。と、小夜がそわそわと三人、二人と一匹を見て困った顔を浮かべた。
「あ、あの、私、最古どころか全然わからないことだらけなんですけど、その」
小夜の言葉に、キョウリがああっと呟いた。
「そういえば、会ったときもそんなこと言っていたな」
「ええ、恋人なのに? 凄い関係だよね、ヒヅキ」
「スズ、恋人って言葉使いたいだけだろ……で、何がどうわからないんだよ嬢ちゃん」
キョウリ、スズ、ヒヅキの視線が小夜に重なる。ごくり、と小夜は無意識のうちに唾を飲み込んで言い放った。
「あの、どうも私がいた世界とこの世界、全然違うみたいなんですよね」
だから、全然わからないんです。
そう付け足して。
小夜が困った笑顔を浮かべるのをキョウリは無表情に、スズはぽかんとした顔をして、ヒヅキは目を丸くして見つめ続けた。




