第5話:絶対領域の強者たちと、爆速の侵攻
第21層から第47層。
ここからは「一人前の冒険者」や「上級騎士」ですら命を落とす、本格的な高難易度エリアだ。魔物の肉体スペックは桁違いになり、迷宮の構造も複雑極まりない階層が続いていく。
だが、アレンの「侵攻速度」は衰えるどころか、むしろ加速していた。
『——前方、上級騎士パーティーが苦戦中の「グラナイト・ゴーレム」。硬度:ダイヤモンド級』
『——最適攻略解:左膝関節の魔力経路へ、特定の振動波を伝達。全壊まで0.2秒』
**ドォン……!!**
「な、なんだ今のは!?」
「ゴーレムが一瞬で崩れ去ったぞ……!?」
前線で必死に盾を構えていた上級騎士たちが、目を丸くして呆然と立ち尽くす。
彼らの視界をかすめたのは、重厚な甲冑も巨大な剣も持たない、一人の影。
アレンは落ちていた鉄くずを一投しただけでゴーレムの魔力核を物理共振で粉砕し、足を止めることすらなく次の階層への階段を駆け下りていった。
「おい、待て! お前は誰だ!? どこの騎士団の所属だ!?」
騎士の叫び声は、遥か後方へと消えていく。
(第30層突破……よし、悪くないペースだ)
アレンの頭脳(【真・鑑定】)は、階層が進めば進むほどその真価を発揮していた。
敵が強く、罠が複雑になればなるほど、解くべき「方程式」の手応えが増し、攻略の最適解がより鮮明に浮かび上がってくるからだ。
知識と力で強引に押し通る一般の強者たちに対し、アレンはダンジョンというシステムの「バグ」と「最適解」を突き続けている。
◇
第48層〜第60層。
「名誉騎士」や「プロの踏破者」すら絶望させる、難易度が急跳ね上がるデッドライン。
単身での突破は不可能とされ、エース級の組織やギルドが総力を挙げて挑む領域。
しかし——。
『——第55層ボス「深淵のキマイラ」。行動パターン解析完了』
『——ブレス吐き出しの予備動作(0.1秒前)に、右目の死角から喉元へ衝撃を伝達』
**バシャァッ!!**
数時間前まで「戦闘力ゼロ」とバカにされていた男が、丸腰同然の姿で、名誉騎士たちが血反吐を吐いて挑むボスを数秒で片付けていく。
アレンの身体に流れる汗すら、【真・鑑定】によって最小限の体温調整と無駄のない動作にコントロールされていた。疲労すらもデータとして管理し、最適化されているのだ。
「……第60層、突破」
アレンが足を踏み入れたのは、一般人の限界点とされる『第60層』の最深部。
ここから先は、軍隊や有力領主の軍勢でしか足を踏み入れることが許されない『第61層』の領域だ。
◇
王都・ギルド中央指令部。
**「おい!! 第60層の開通シグナルが点灯したぞ!!」**
**「なんだと!? 60層といえば、先月『赤き獅子騎士団』が全滅しかけた最難関だぞ!?」**
**「誰だ!? どの大型ギルドが攻略した!?」**
通信用の魔導具が激しく鳴り響き、ギルド本部は未曽有の大混乱に陥っていた。
攻略記録の照会を行ったオペレーターが、青ざめた顔で書類を落とす。
「……該当するパーティーの登録が……ありません」
「は? 登録がないだと?」
「た、たった一人の『単独者』が、第1層から第60層までを……わずか半日で駆け抜けています……!」
「バカな……! そんなバケモノ、この世に存在するわけが——」
幹部たちの悲鳴のような怒号が響く中、アレンの存在は「正体不明の怪異」として世界の裏側に一気に広がり始めていた。
そして、その衝撃の報せは、ついに第97層に滞在する「人類最強の勇者パーティー」の元へも届くことになる。




