第3話:異次元の攻略スピード
第5層を踏破するのに、一般的な冒険者パーティであれば最低でも数日は要する。初見殺しのトラップを警戒し、迷宮の地図を書き足しながら慎重に進まなければならないからだ。
だが、アレンにとっての第5層は、すでに全域が可視化された箱庭に過ぎなかった。
『——前方の曲がり角、天井に罠(落石ギミック)。感知範囲:踏み込み30センチ前。回避ルート:右壁沿いを通常歩行』
「よし」
アレンは視界に青く点滅する【ナビゲーションライン】に従い、一切の躊躇なく足を進める。
頭上から巨大な岩が落とされるトラップの真下を、まるで散歩でもするかのように通り抜けた。直後、背後でドシンと凄まじい落石音が響くが、アレンは振り返りもしない。
『——前方よりスライム・アシッド3体接近。弱点:核の結晶構造。有効打:地面の突起を利用した反射投擲』
アレンは足元にあった歪な小石をひとつ拾うと、手首のスナップだけで横断通路の壁に向かって弾いた。
**カンッ! カコンッ!**
跳ね返った小石は精密な物理計算通りの軌道を描き、3体のスライムの「核」を一直線に撃ち抜く。
パチン、と泡が弾けるような音とともに、危険な酸を撒き散らす魔物たちが一瞬で消滅した。
「……本当に、一切無駄がないな」
アレン自身、自分の行っている戦闘に苦笑してしまう。
剣を振るう筋力もなければ、強力な攻撃魔法を放つ魔力もない。
しかし、【真・鑑定】が導き出す「正解」をなぞるだけで、あらゆる危機が訪れる前に収束していく。
戦術でもあり、もはやダンジョンのシステムそのものを書き換えている(ハッキングしている)感覚に近かった。
◇
その頃、第5層の安全地帯。
「おい、見たか……?」
「ああ……なんだありゃ……」
新人冒険者の育成を担当している中堅ギルドの騎士たちが、呆然とした顔で街道の先を見つめていた。
彼らが目撃したのは、防具すら身につけていない丸腰の少年が、第5層の難所を「走り抜けながら」次々と魔物を片付けていく異常な光景だった。
「あの階層のボス……『デビルスパイダー』の巣があるエリアだぞ? パーティで挑んでも半日はかかる……!」
「待て、あいつ単身で突っ込んでいくぞ! 止めろ——」
騎士たちが声を上げようとした、その瞬間。
**バサァッ!!**
ボスエリアの奥から、巨大な蜘蛛の足が砕け散る音が響いた。
アレンはボスが糸を吐き出す「予備動作」のコンマ数秒前に、天井の鍾乳石の根本へナイフを投げ刺していた。
自重を支えきれなくなった数トンの岩塊がボスの脳頂部に直撃し、戦闘開始からわずか「3秒」で第5層のボスは沈黙したのだ。
*《第5層ボス討伐を検知。階層ロックを解除します》*
*《第6層および第7層の完全データ取得完了》*
ボス部屋の扉が開放され、深層へ続く階段が現れる。
アレンは返り血一つついていない服のほこりを払うと、立ち尽くす騎士たちには目もくれず、そのまま第6層への階段を爆速で下りていった。
「……おい、今のアレンじゃないか? 勇者様に追放されたっていう、あの『ただの辞書』の……」
「馬鹿言え! あんな化け物が戦闘力ゼロなわけあるか!!」
騎士たちの困惑の叫びを背に受けながら、アレンの視界にはすでに、一般人の限界とされる『第60層』までの最速最短ルートが青く鮮やかに描かれていた。
「待ってろよ、ルクス。お前たちのいる97層まで……すぐだ」




