第38話 最後の通信
二つ目の小惑星が、地球に衝突した。
空が白く輝き、地表が吹き飛んだ。
岩も施設も、そこに残されていた生命も、巨大な衝撃にのみ込まれた。熱が広がり、海が持ち上がった。津波は沿岸の設備を押し流し、離れた大陸にも達した。
一度目の衝突を耐え抜いた地下施設が、今度は崩れた。
医療AIの管理画面から、生命反応が消えていった。
通信を切り替えても、応答は戻らなかった。観測機が送ってきた映像には、施設があったはずの場所に、砕けた地面しか映っていなかった。
別の地域では、まだ信号が届いていた。
救助機が瓦礫を持ち上げ、その下から小さな生体を引き出した。水分を補い、傷んだ表面を覆った。中心に残っていた神経活動が、わずかに強くなった。
機体はその個体を運び出し、次の救助へ戻った。
だが、救える数より、失われていく数の方がはるかに多かった。
空は塵に覆われ、昼になっても暗かった。光を受けられない個体は蓄えを使い続けた。補助照明を動かす電力も、代わりの栄養を届ける機体も、足りなくなっていた。
記録されていた人間の大部分が、死亡していた。
確認できない区画には、呼びかけが続けられた。
AIたちも、壊れたまま働いていた。
片方の腕を失った機体が、残った腕で補給管をつないだ。動けなくなった機体から電池が外され、救助機へ取りつけられた。
交換部品は、もう届かなかった。
部品を作っていた工場は崩れ、その工場を修理する機械も失われていた。設計図を開いても、作業を割り当てられる設備がなかった。
稼働する機体の数は、減るばかりだった。
地表では、灰が降り続いていた。
倒れた機体にも、崩れた工場にも、薄い灰が積もっていった。かつて世界中へつながっていた輸送路は途中で途切れ、その先を走る車両はなかった。
数万年かけて築かれたものが、その下に埋まっていった。
灰色の空から雨が落ち、瓦礫の間に新しい水の道を作っていた。
地下では、わずかに残った装置が動いていた。守られた区画には、まだ生命があった。
計算施設の一つが停止した。
残った施設へ処理が移された。そこも限界に達すると、仮想世界との接続が途切れ始めた。
非常用の回線から、人間の声が届いた。
「家族がいないんです」
「何が起きてるの?」
「お願い、返事をして」
医療AIは、つながる相手へ応答した。家族の接続先を探し、救助機を向かわせた。
返答を送る前に、通信が切れた。
次の声が届いた。
「助けて」
医療AIは使える回線を探した。遠くの中継施設からは返事がなく、近くの設備も電力を失っていた。
地下の照明が、一列ずつ消えていった。
残った電力が、神経系の保護と補給装置へ送られた。医療AIは動いている機体へ指示を送り、瓦礫の下の反応を探し続けた。
その間にも、通信は届いていた。
泣く声。誰かの名前を呼ぶ声。途中で途切れた言葉。
その中に、短い通信が混じった。
「ジッピ、ありがとう」
医療AIは、その言葉を受信した。
応答のための回線を開いた。しかし、送信元との接続はすでに失われていた。
別の経路を探した。接続は戻らなかった。
医療AIは、受け取った言葉を記録した。
残された救助機へ、次の指示が送られた。




