↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類の最適化が正常に完了しました  作者: TAMI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/40

第14話 何もしなくていい日

「ジッピ、今日、水族館に行くから準備して」


 朝食の皿を片づけながら、石川は言った。


『県外の水族館ですね。真希さんが見たがっていたクラゲの給餌は十一時からです。九時四十分に出発すれば、余裕を持って到着できます』


「じゃあ、それで頼む」


「クラゲ、見られるの?」


 真希が椅子から身を乗り出す。


「見られるよ。ジッピが予定を組んでくれたからな」


『移動用の自動運転車と、県を跨ぐ列車を手配しました。現地到着後は、専用車両が水族館までお送りします』


「お父さんたち、着いていくだけだね」


「そういう日があってもいいだろ」


 石川が病院を辞めた翌年、娘の真希が生まれた。その二年後、全国民に一人一台、生活支援AIのGPXが貸与された。


 初代ジッピは病院の所有物だったため、退職と同時に返却した。今そばにいるのは、石川に割り当てられた二代目のGPXだ。初代が共有した学習内容と、石川の許可を得た対話記録を引き継いでいる。


『私は初代GP8と同一個体ではありません』


「分かってるよ。でも、ほぼジッピだ」


『ほぼ、という表現の定義が不明です』


「そこも同じだな」


 九時四十分、家の前に自動運転車が来た。


 近場への移動なら、いつもこの車を使う。公道での人間運転は禁止され、車は交通網と連携しながら目的地まで運んでくれる。


 今日は県を跨ぐため、車で高速鉄道の駅まで行き、そこから列車に乗る。運賃はかからない。駅に着くと、改札を通ることも切符を買うこともなく、そのままホームへ向かった。


 真希は窓側の席に座り、流れていく景色を眺めた。


「この電車、どこまで行くの?」


『県境を越えた先の駅まで二十八分です。到着後、車両が水族館へ向かいます』


「早いね」


「昔は駅で切符を買って、改札を通ってたんだぞ」


「なんで?」


「昔はそういう仕組みだったんだよ」


 石川はそれ以上説明しなかった。今の真希にとって、電車は無料で乗れて、行きたい場所まで運んでくれるもの。それだけで十分だった。


 到着した駅では、予約されていた車両が待っていた。乗り込むと、水族館まで静かに走り出す。


 入口に着いたとき、真希はもう待ちきれない様子で車を降りた。


「クラゲどこ?」


『館内の混雑状況を考慮すると、先に大水槽を見てから向かうのがおすすめです』


「じゃあ、そうしよう」


 順路も展示の説明も、真希の興味に合わせて案内された。大水槽の魚を眺め、イルカの動きを追い、最後にクラゲの展示室へ入る。


 青い照明の中を、半透明のクラゲがゆっくり漂っていた。


「ずっと浮いてるだけなのに、きれいだね」


「そうだな」


 石川は真希の隣に立った。


 昼食は家族の好みや体調に合わせて用意されていた。注文も会計もない。食べ終わった食器は、片づけを担当するロボットが運んでいった。


 石川がしたことといえば、真希と水槽を眺め、写真を撮り、土産物を一緒に選んだくらいだった。


 帰りも、列車と自動運転車が家まで運んでくれた。家に着くころには雨が降り出していたが、濡れる前に玄関へ入れた。


 上着は乾燥機へ運ばれ、風呂は沸き、夕食の支度も進んでいる。


 真希は遊び疲れたのか、ソファで眠ってしまった。


 石川はその隣に腰を下ろした。


「なあ、ジッピ。今日、俺何かしたっけ?」


『真希さんと遊びました』


「それだけ?」


『それ以上に必要なことがありますか』


 石川は、眠っている真希の頭を撫でた。


 仕事もしていない。運転もしていない。切符を買うことも、予約を取ることも、食事を作ることもなかった。


 それでも、一日は十分に楽しかった。


「ないな」


 何もしなくても、一日は満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。