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サウダーデ  作者: ガリ
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7/9

サウダーデ7

「船長(カピタン)、ここにいらしたんですか!皆が捜してましたよ。今夜、新たに加わったマルコ・ハヴァイ


ヤットの手柄話が聞きたいと」


 海賊達を縛り上げて一室に集め終わると、既にレヴァンテの空は白みかけていた。


 彼らはヴェネツィアに着き次第、念入りに出身国を調べられ、やがては国に帰ることになるだろう。多額


の身代金と引き換えに。私は緊張の連続の後に来る気だるい脱力感を癒そうと、皆から離れてひとり薄暗い


レジーナ号の甲板に出てきてハヴィと出会ったのだった。


「……サーリムか…今夜はご苦労だったな。お前の火薬のお陰で計画は大成功だったよ……感謝してるー


ー」


 船の縁にもたれかかりながら振り向いたハヴィの瞳はいつになく穏やかで素直で……私はそんな彼を前


に、内心かなり戸惑っていた。


「いえ、すべてはあなたの立てた計画とあなたの行動力が成功を導いたんですよ、船長」


「カピタンってのはやめてくれよ……ハヴィでいい。俺は海で生死を共にした奴にしかこの名を呼ばせな


い」


「そんな大事な名をーーいいのですか、私がお呼びしても……奴隷の私が?」


「だって俺達は生死を共にした仲だろうが?」


 照れくさそうに笑うハヴィの笑顔が眩しくてなんとなく視線を逸らした先に、明けの明星が輝いている。


「海にいる時や、陸での身分なんて関係ねぇさ。大海原にて出ちまえば 俺達はちっぽけな存在に過ぎねぇ。


そう思わねぇか、サーリム?波は貴族だ平民だって区別なんかいちいちしねぇだろ?お前は充分役に立つとこ


ろを見せてくれた。最高だったぜ……それで充分だ」


 ハヴィは縁から離れるとゆっくりと私の方へ歩んできた。しなやかな指が、私の髪を束ねていた紐をほど


き、頭を手繰り寄せる。


「……サーリムーー」


 ふいに耳許をくすぐった甘い吐息に私はハッとしてハヴィの体を離した。怪訝そうな表情のハヴィに私は


冗談めかして 軽口を叩く。


「私は、あの海賊の頭領のように気絶させられるのはゴメンですからね… 色仕掛けの練習なら誰か他の者に


ーー」


 ハヴィはジッと私を見つめていたが、やがて再び船べりにもたれかかって脈絡のないことを口にした。


「ヴェネツィアには海との結婚っていう儀式があってな、大勢の人々が見守る中でドージェが海との変わら


ぬ関係を誓って金の指輪を投げ込みながらこう言うのさ。”お前と結婚する、海よ。永遠にお前が私のもの


であるように”」


 傍らにそっと滑り込んだ私を見たハヴィの瞳が瞬間、悪戯っぽく輝いた。


「……サーリム、永遠にお前が俺のものであるようにーーお前…こういうのは嫌いか?」


 突然、私に唇を重ねたハヴィは、ゆっくりと顔を離しながら囁いた。しばし無言で見つめ合う互いの顔


を、昇ってきた朝日が照らし出した。


 美しく聡明で大胆ーーすべてを兼ね備えたハヴィ。魅かれてやまなかったのはむしろ私の方だった。


 生を受けて16年目にして私は生涯を賭けるべく人物に出会ったのだ。


「ーー悪くありませんね、ハヴィ様」


 昇りゆく朝日を横目に、私の指はハヴィの背中を力強く抱き寄せていた。





 当時、若かったハヴィや私に一体どうして悟ることができただろう?


 永遠というものはありえないからこそ、人は皆その甘美な響きに溺れるのだ、ということを。

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