1-6.フリフリ
侍女のメイテアは私達が全員入ったのを確認し、素早く私の部屋のドアを閉めた。
当家では、家族のフロアに上がる階段前に警備兵が配置されている。
数時間毎にフロアに上がってきて巡回をしているので、鉢合ってしまわないかとドキドキした。
無事に誰にも見つからずに移動できて、皆でホッとする。
なすがままになっているお兄様に、お嫌だろうけどと、そっと繊細なレースフリフリのパジャマを手渡す。
お兄様は、今日、初めて目を見張り嫌そうな顔をした。
お兄様の感情が現れた顔つきを見て、明らかにグリードが安心している。
お兄様はフリフリパジャマを見つめ、お茶会に行けるな。うん。なんて、ほっそい声で強がりはじめるから。
グリードと手早くお兄様を着替えさせて、これまた、かわいいナイトキャップをかぶらせる。
とまどうお兄様をベッドにそっと座らせ、ナイトキャップに手を伸ばす。
ゆっくりと優しく、お兄様のふわふわしたウエーブがかった菫色の髪を、全部ナイトキャップの中へと入れる。
なんと、想像以上に私にそっくり。
むしろ羞恥心で青紫の瞳が更に濃さを増し、うるうると潤んでいて儚げでかわいい。
「追い求めているシャルロットお嬢様のお姿が…」
メイテアは、わざわざ少し離れたところへ移動し、全体的像を見ながら目をキラキラさせている。
メイテア。粗忽な私でごめんよ。
シャルロットは、ざっくりと髪に指を入れ三つ編みをほどくと、菫色の髪にきれいなウェーブがついていた。
少しだけサイドに髪を残し、残りの髪を後ろ手でまとめ、赤いリボンできゅっと結ぶ。
身につけていた上着のボタンを掛け金色の飾りを整える。
そして、シューズボックスから、踵の高い黒いブーツをいくつか出し並べる。
辺境に住む者として、シャルロットも幼少の時から剣術の訓練をしている。
剣術を習う時は動きやすいようにと、ズボンとブーツを着用していた。
比較的綺麗なブーツを選ぶと、横からメイテアが受け取りシュッシュと手早く磨く。
女性と男性では、振舞い、挨拶の仕方も随分と異なる。
グリードとメイテアは、私がお兄様に見えるよう、立ち姿や姿勢、歩き方、挨拶などを修正する。
大好きなお兄様。物心ついた時から後を追い、勉強している時も、マナーも剣術も一緒に学ばせてもらっている。
だから、たくさん見ている。癖も知っている。
練習しながら、ふと鏡に映る姿をみると、お兄様ではないかと錯覚する。
ここまでは順調。うん、いい。用意は整った。
布団をギュッと持ってくるまり、ベッドにちんまりと座るお兄様に近寄る。
心配そうな目が合った。そおっと背中に手を伸ばし抱きしめる。
「お兄様、行ってくるわね。お兄様は、今日は休息日よ。さぁ、ゆっくりと休んで。」
ごめんねと呟くお兄様に、こんな日だってあるよねと話しながら横たわらせた。
お布団をふんわりと掛け直し、そっと瞼に手をやり目を閉じさせる。
メイテアにお兄様のことをまかせ、シャルロットとグリードは、急いでアルフレッドの部屋に戻った。
グリードから本日のお茶会について、細かい注意事項やアドバイスなどを受ける。
シャルロットは、出席するであろう人物や重要事項を小さいメモ帳を用意し、手早く書いていく。
大丈夫。近隣の貴族名鑑は、きちんと頭に入っている。
一つ一つ、頭の中で整理する。
慌ただしく過ごしていると、ゲラン領へ行く為の馬車の用意ができたと、従者が呼びにきた。
「今、行く」
グリードのアドバイス通りに、シャルロットは少し低めの声色でゆっくりと返事をした。
グリードも驚く程、アルフレッドの声に似ていた。
メモ帳をズボンのポケットへ入れる。
上着が腰のあたりまできているので、ポケットのふくらみも目立たないだろう。
玄関ホールを見るとお母様が待っていた。立ち姿も美しく凛としている。
私を見て目を細め、ゆったりと微笑む。どこぞの王子様かのように麗しい。
シャルロットは大好きな母に駆け寄りたいところ、ぐっと押さえ足速に階段を降り、お待たせしたお詫びを述べる。
シャルロットはブルイにマントをかけてもらい、軽くお礼を伝える。
ブルイが短く息を飲んだ。
先を行く、お母様の待つ馬車へ乗り込む。
続いて、いつも通りにグリードも馬車の中へ乗ると、辺境伯夫人の前にシャルロットが座り、すでに顔を伏せいた。
ここ数か月、アルフレッドは移動の際、顔をふせて休んでいることが多かった。
それを先程話したので、シャルロットは実践していた。
打ち合わせ通りだな。それでいい。
しかし。
グリードは、ほんの一瞬ためらい、シャルロットの横に腰を下ろした。
外にいるブルイを何気なくみると、眉間に皺を寄せ、いつもより迫力がある目つきで睨まれた。
こちらが、やましい事をしているからそう思うのだろうか。
グリードも、無意識に頭が下がる。
従者が馬車の扉を閉め、グリードも内鍵を止めた。
ゆっくりと馬車は発進する。
ブルイは馬車が見えなくなるまで見送ると、一層と眉間に皺を寄せた。
そして屋敷に向かって、珍しくも駆け出した。




