↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バイオレットラズワルド〜男装令嬢シャルロットの入れ替わり奮闘記〜  作者: 和霞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/57

2-28.連鎖


※9月16日(2-30話)より、作品名の変更を予定しております。

英字をカタカナへ、サブタイトルの言葉を追加いたします。

引き続き、どうぞよろしくお願いします

夜明け前の薄い光の中、街はまだ眠っているというのに、新聞売りの声だけがやけに鮮明に響いていた。


「とくだねだよ!学院で不正行為発覚だよ!」


広場に積まれた新聞は、冷たい朝露を吸いながらも、まるで熱を帯びているかのようだった。

使用人たちは家主に命じられ、次々と新聞を買い求めていく。


まるで火種が一斉に撒かれたように、人々の朝がざわめき始めた。



リリアーナの退学処分が決まった直後から、貴族社会では噂が奔流のように広がっていた。

もとは小さな記事だったはずのものが、瞬く間に大見出しへと膨れ上がった。


「キートリカ侯爵家の令嬢が不正行為をしていたらしい。」

「離婚の件と関係があるのでは。」


断片的で不確かな情報が、街のあちらこちらで飛び交った。



家の中では、朝食の席で新聞を広げた親達が深刻な表情で語り合っていた。

「これは……ただ事ではないわね」

「学院はどう説明するつもりなのかしら」

子供たちはその横で不安そうに耳を傾けていた。

  


夏休み中の生徒達は、家で友人との手紙や家庭内の会話を通じて噂を広げていく。

封を切った便箋には、どれも同じような言葉が並んでいた。  

――聞いた?

リリアーナさん、本当に退学になったらしい。

試験妨害って、どういうこと?――

文字が少し踊っているのは、書き手の動揺がそのまま文字に滲んでいるからだろう。。



夫人や令嬢の集まるお茶会でも、声を潜めながらも興奮気味の会話が続いた。

テーブルの上のティーカップがかすかに揺れているのは、誰もが落ち着かないからだ。

「キートリカ侯爵家の離婚と関係があるのかしら。」

「娘さんの不正行為って、どこまで本当なの?」

「ボニーさんと言えば、学生の頃迷惑かけられたわね。いつの間にか、侯爵夫人に収まって驚いたけれど。

離婚して家をおいだされたらしいわよ。」

誰かがそっとため息をつく。その音が、妙に大きく響いた。



そして、学院関係者への取材による続報が、さらに火に油を注いだ。


〖同級生への圧迫、さらには 偽造書類を用いた不正行為、窃盗、未遂に終わった試験妨害。

家宅捜査により、リリアーナ氏とボニー氏の長きに渡る、数々の犯罪行為や悪行が暴かれた。

なお、キートリカ侯爵家は関与を否定。王によりボニー氏と離縁。

ボニー氏とリリアーナ氏は、すでに侯爵家を出されている。

また、学院側は厳重な調査の末、リリアーナ氏の退学処分を決定した。〗



新聞を読み終えた者たちは、紙面を閉じることができず、ただ呆然と見つめ続けた。


「こんなことが……本当に?」 


声は震え、誰もが自分の家庭に置き換えて想像してしまう。

もし自分の子が被害に遭っていたら。

もし自分の家が加害者側だったら。

その想像が、胸に重く沈んだ。


明らかに圧迫や迷惑行為を受けていた被害者は、キートリカ侯爵家に抗議し、侯爵家は謝罪に追われていた。


リリアーナと顔見知りの生徒達は家で新聞を読み、看過できないこととして口々に語った。

家族とリリアーナやボニー達の噂話をする流れで、学院生活の思い出や、リュシオール第二王子アルフレッド辺境伯公子

の話題も自然と挙がる。


それに呼応するように、アルフレッドの母である、当時、女騎士フランシカとして学院にいた彼女の話を、クラスメイトだった親世代は知り合いのように語っていた。


新聞では具体的な手口や標的とされた生徒の名前は伏せられていた。

未遂に終わった試験妨害は、もしや自分が狙われていたのかもしれないとぞっとした。


「自分が陥れられていたかもしれない。」

「友達が被害者だったかもしれない。」


保護者達も自分の子供と一緒になり怒り、学院に対して現体制の説明と責任の所在を求めるために抗議した。


「もしかしたら、うちの子が受験できなかったかもしれないんですよ。」

「手口を伏せるなんて、加害者を守っているんじゃなくって?」

「子供の未来が奪われたかもしれないんですよ。」


そして翌日、さらに詳しい記事が出た。


〖学生ならではという悪質な手口として、虚偽の試験会場を伝え、受験を妨害し阻止しようとした。

未遂に終わったが、あるまじき行為だ。

今回の事件を受け、学院関係者の間で 十数年前の未解決事例 が再び話題となっている。

当時、現在の 辺境伯夫人フランシカ殿 が同様の手口で、実際に試験を受けられなかったという記録が残っている。〗


その一文が、世間を大きく揺らし、一部の者の口を閉じさせた。


学院に通ったことのあるものは誰しも、試験時間に遅れるとその試験を受験できないことをよく知っている。

だからこそ、己のために必死で勉強したにもかかわらず、他人の悪意によって挑むことさえできなかった可能性に、生徒も保護者も、理不尽さを覚えずにはいられなかった。


更なる、追加記事が投入される。


〖当時、学院は事実の公表を控えていたが、複数の同級生の証言により、嫉妬したクラスメイトによる妨害であった可能性が高いとされる。

当時の試験担当者は、生徒であるが高位貴族からの圧迫と、遅刻者はいかなる理由があろうとも受験できないという規則により、本件の報告義務を怠り、学院長への報告も遅れ、事件として扱われず闇に葬られた。

なお、フランシカ殿とボニー氏は 学年が異なる ため、この件の関与は否定されている。〗


記事は容赦なく世間に広まっていく。

翌日の新聞は、前日よりもさらに厚みを増していった。


さらに、学院の卒業生達の間でも、十数年前の記憶が断片的に蘇り始めていた。

曖昧な記憶が新聞の活字により輪郭を得ていき、まるでパズルのように組み合わさっていく。


興味深いことに当時フランシカ殿と同じクラスに在籍していた者の多くは、今では立派な貴族として家庭を持ち学院に子を通わせている。

彼らは事件後、まるで何事もなかったかのように卒業し、普通に結婚し、普通に貴族として暮らしてきた。


″フランシカ様とクラスメイトで親しかった。″

その何気ない会話が家族や周りの者に、十数年前の試験妨害事件と結びついてしまったのだ。


辺境伯夫人と近くの席だった、親しかったと自慢気に話していたものほど、後ろ暗い気持ちを抱えていた。

当時のフランシカの華々しい変化により、当事者達は、今の今まで忘却し、そこまで悪いことをしたと認識していなかった。

突如、口を噤む。


今回の事件を受け、十数年前の妨害事件は、本気で忘ていた者たちの記憶を呼び起こした。


新聞を読んだ家族は、静かに、しかし逃げ場のない問いを投げかける。

「ねえ。お母様は、このような卑怯な行いに加担していないわよね。」

母は手にした新聞をぎゅっと握りしめた。

紙が小さく音を立てる。


「お父様は、辺境夫人と親しくされていたとおっしゃっていたけれど、こんな卑劣な行いはされてないですよね。」

父は視線を逸らし、否定の言葉がのどまで出かかったが声にならない。


「お前はフランシカ様に勉強を教わったことがあると話していたが、こんな事件に関わっていないだろうな。」

夫の問いに、妻は膝から力が抜けそうだった。


伴侶や子供から疑念をかけられ、背筋が凍る思いをする。

世代をまたいだ不正の連鎖、隠蔽された妨害事件、そして、なんでもないこととし忘れていた責任。


「……あれは……ほんの出来心で、……まさか、こんな……十何年も経って」

自室に逃げ込み震える声で呟く。犯人捜しをされ、名前を晒され…家族にも迷惑をかけるかもしれない。


若気の至りで、他者の未来を奪うことが許されるのか。

自分の子供がそうされていたら許すことができる行為なのか。

許せるわけがない。

どこかで平穏が、音を立てて崩れた。


学生の頃、問題視されず、仲間内のちょとしたいたずらで終わった。

家族からの鋭い言葉を受け、歳を重ねて客観視し、彼らはようやく、どれほど酷いことをしたのか理解した。


家族から軽蔑されるかもしれない。これまで積み上げてきたものは?

暗闇の中で慄くのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。