2-27.帰結
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※9月16日(2-30話)より、作品名の変更を予定しております。
英字をカタカナへ、サブタイトルの言葉を追加いたします。
引き続き、どうぞよろしくお願いします
夏休みに入った学院は、まるで別の場所のように静まり返っていた。
普段なら朝のざわめきが満ちている昇降口も、今日は風の通り道になっているだけ。
木々の葉が擦れる音と、遠くで鳴く鳥の声だけが、校舎の静寂を揺らしていた。
そんな中、飛び級試験の結果を受け取るために登校した数名だけが、ぽつりぽつりと校舎へ入っていく。
ソフィアもその一人だった。
夏の光に照らされた校舎は、いつもより大きく見え、足取りは自然と慎重になる。
職員室前の廊下は、夏休みとは思えないほど緊張が漂っていた。
扉の前で待つ生徒たちは、皆どこか硬い表情をしている。
「次、ソフィアさん。」
呼ばれた瞬間、胸の奥がぎゅっと縮む。
呼吸が浅くなるのを感じながら、職員室に入ると、担当の先生が書類を整えながら顔を上げた。
「……結果を渡します。」
その言葉だけで、喉がひどく乾いた。
差し出された封筒を受け取る手が震える。
ソフィアはそっと封を開け、中の用紙を引き出した。
合格。
その文字を見た瞬間、体中の力が抜けていくようだった。
視界が少し緩み胸の中で何かが静かにほどけていく。
先生は淡々と続ける。
「ソフィアさんは、この後、三年A組の教室へ移動してください。
次の学年に進むにあたり説明があります。」
夏休みの校舎に、自分の足音だけが響く。
その音がやけに大きく聞こえた。
三年生の教室は、普段よりも広く感じられた。
いくつかの机が並べられており、前方には説明用の資料が置かれている。
少し待っていると、ロザリーが入ってきた。
「ソフィアさん、合格したのね。」
安堵の混じった声が、静かな教室に柔らかく落ちる。
ソフィアも、ほっと息をつく。
続いて、すでに飛び級が決まっていたシャルロットとピエールが落ち着いた表情で入室する。
シャルロットはソフィアを確認すると、ふわりと花が咲いたように微笑んだ。
そして、最後に、クラスメイトのウィルナが緊張の色を残した顔で入ってきて、ソフィアに小さく会釈する。
ほどなくして、先生が続いて入室し、皆はそそくさと空いている席に着席する。
「まずは飛び級、おめでとうございます。
異例の五名という人数に、学院は喜ばしく驚いております。」
教室の空気が少しだけ揺れる。
「成績順の規定に従い、皆さんは三年A組への編入となります。
担任のコデルゼです。」
先生から、書類の束が渡される。
「今、お配りしたものは後期の予定表と宿題です。
三年生と同様に、夏休みの課題が課せられます。
さらに、卒業までの半年間は、学業だけでなく、学院行事に進路の準備など、やるべきことが多くあります。
限られた時間を大切に、心して過ごしてください。」
粛々と説明をしているのに、その内容はあまりにも現実的で重かった。
皆、聞き逃すまいと、配られた資料に先生の説明を加えていく。
期待と不安で何度も波が立つような感覚を覚えていた。
「では、夏休み明けよろしくお願いします。」
その言葉で、皆の肩の力がようやく抜ける。
こうして、夏休みが始まった。
シャルロットの夏休みは、実際には休暇と呼べないほど多忙だった。
あと半年で、領地へ帰るため、やるべきことが山ほどある。
警備隊には、引き続きソフィアと週に二回行くようにしている。
予備隊員として鍛錬の参加し、街中の警備にも加わる。
兄さんと化している警備隊は、二人が行くといつも優しくしてくれ、とても心強く頼りになる。
そして、その帰りには、お祖母様のところに立ち寄り、体調を気遣いながら短い時間でも顔を見せた。
商会の事業は拡大期に入り、打ち合わせや書類仕事が日々増えていく。
辺境近くのレッチフィル作業所へのセミオーダーの注文も大盛況である。
そこで働く従業員の生活は安定し、その付近の治安も生活水準も格段に向上している。
シャルロットは、ただ利益を求めるだけでなく、住民が誇りを持って働けることを最優先にしていた。
作業所の近くには、寮のような住居が整えられた。
家族で住む者も増え、子どもたちの声が夕暮れの街に響くようになった。
以前のその鄙びた土地に住んでいた者からしたら、考える余裕もなかったような幸せな光景だった。
住民の中で警備希望者には入団試験を受けてもらい、合格した者はレッチフィル家の警備員として採用される。
「領地を守るのは、領地で暮らす者たち自身であるべきだ。」
我が家の警備隊は、シャルロットが特に力を入れている分野だった。
王都で鍛えた技術を活用し、隊員たちに直接指導することもある。
巡回ルートの見直し・夜間警備の強化・住民との連携・災害時の避難訓練、隊員達と共に計画を立てた。
そして、隊員たちは″アルフレッド″を慕い、彼の指導を誇りにしている。
彼らの成長は、その地での発展そのものにつながっていった。
シャルロットは、一つ一つを丁寧にこなしながら、学院で過ごす最後の半年を着実に見据えていた。
数週間経った頃、キートリカ侯爵から正式な謝罪状が届いた。
封蝋は丁寧に押され、紙質も上等。
だが、その重々しさとは裏腹に、
手紙の中身はどこか取り繕ったような響きを含んでいた。
今回の処分の詳細、サランの行いを事前に止めたことにより、次期後継者が処罰を免れたことへの礼。
そして、これまでの不始末に対する長い弁明文。
まるで、過去の汚れを必死に拭い去ろうとするかのような文章だった。
シャルロットは、眉ひとつ動かさず、淡々と目を走らせる。
読み終えると深く息を吐いた。
その吐息には、怒りでも軽蔑でもなく、
ただ、もう終わったことだという静かな諦観が滲んでいた。




