2-23.策略
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この話で、通算50話になりました٩( 'ω' )و
サランが屋敷に戻ると、エントランスの真ん中に、今いちばん会いたくない人物が仁王立ちしていた。
義妹リリアーナである。
あの学院の騒ぎの中心にリリアーナはいたはずなのだが、特にお咎めもなかった。
お父様からも事情を聞かれることもなく、周囲に事実の記憶だけ残して何事もなく過ぎ去っていった。
いつもより強めの縦ロールをわさわささせ、わざわざ待ち構えていたらしい。
その顔には、心の底から楽しんでいるような満面の笑みを浮かべていた。
「お義姉様、残念だったわねぇ。
昔からあんなにずぅっとお勉強なさっているのに、飛び級の資格試験をお受けになれないんでしょう?」
リリアーナは、わざとらしく目を細め、かわいらしく首を傾げた。
サランは思った。きっと私は今、ひどい顔をしている。
「それに比べてソフィアさんは合格されていたわね。」
リリアーナは唇を吊り上げる。
「またアルフレッドさんと、ずぅっとご一緒されるのね。羨ましいわぁ。」
胸が軋む。サランは視線を落とし、ただ耐えた。
リリアーナはさらに追い打ちをかけるように、甘ったるい声で続けた。
「偽善者なお義姉様は、どんな噂が流れようと、ずっとソフィアさんを気にかけて優しくされていたわね。
そのまま構わなければ、排除できたかもしれないのに。
でも、だったら、よかったじゃない。
ソフィアさんが飛び級されて、アルフレッドさんと、ますます距離が縮まるんでしょう?」
サランは、自分が今までしたことのないほど醜い顔になっていることを自覚した。
悔しさ、嫉妬、惨めさ――全部が混ざって、胸の奥で渦を巻く。
リリアーナはそんな姉の心を楽しむように、うやうやしく何かを掲げた。
「そんなお義姉様に朗報です。」
その声は、悪意なんてないかのように涼やかだった。
「この封筒を、飛び級試験の前にソフィアさんへお渡しして。
きっと素敵なことが起こるから。」
リリアーナは学院の印が入った封筒を、まるで宝物を扱うように丁寧に手渡してきた。
「苦労して手に入れたので、大事に扱ってね。
お義姉様は、これを渡すだけでいいのよ。なぁんにも知らない、いい?
何も知らないのよ。ただ渡すだけ。」
高笑いを響かせながら、リリアーナはひらひらと手を振り中央の階段を登って行った。
エントランスに残されたサランは、手の中の封筒をじっと見つめた。
絶対に、ろくなことではない。そう察知していた。
こんなもの、渡せるはずがない。
けれど同時に、胸の奥で、もうひとつの感情が静かに芽を出す。
これで、アルフレッド様とソフィアさんを物理的に引き離せるかもしれない。
その考えが浮かんだ瞬間、サランは自分の心がどれほど歪んでしまったのかを痛感した。
封筒を握る指先が震え、知らぬ間に頬に涙が伝う。
階段上の柱の影でリリアーナは、震えるサランを見下ろしながら心の底から笑っていた。
噂を広めた件については、拍子抜けするくらい何もなかった。
ちょっとドキドキして損したわ。
でも、あの女のせいで、今の自分は、公爵家を継ぐには圧倒的に不利な状況になってしまった。
だから…お義姉様に落ちていただくしかないのよ。
お母様の親族が学院の事務で働いている。ちょっと脅してお義姉様の小テストの記録に細工してもらった。
ほんの少し数字をいじるだけで、飛び級の資格が届かなくなるんだから。
だって、飛び級試験の資格なんて得られたら、お父様のお眼鏡にかかってしまうでしょう?
いくつか不可の教科があった自分は、対抗できなくなる。そんなの、許せないわ。
学院の封筒と便せんも、拝借してもらった。
学院からの公式の書状という形にしておけば、ソフィアは疑いもせずに受け取るはず。
そして動揺して、試験は失敗するでしょう。試験を、受けられないかもしれない。
そしてね、そんな書状を書いて渡したとなれば、お義姉様は不正にかかわったことになるの。
リリアーナの笑いが止まらない。
あのソフィアにも、私がかいた恥の恨みを晴らせるわ。
何があっても、私は知らぬ存ぜぬで泣きまねするつもり。
お義姉様に全部の責任が行くように、裏商人に学院の封書セットを探しに行く時も、わざわざお義姉様の名を語っておいたの。
裏商人には学院の印が入った物など恐ろしくて手が出せないと言われちゃって、危ない橋を渡ることになっちゃったけど。
成功したから、いいでしょう。
リリアーナは、いまだ俯いているお義姉様を見やり、クスクス笑いながら自室へと戻った。
試験が終わった生徒達は皆、夏休みに突入していた。
学院に登校する生徒は、飛び級試験を受ける者だけ。
だから、サランは思っていた。
屋敷から出なければいい。学院に行かなければ、この手紙を渡す事はない。
…飛び級試験に落ちて、よかったのかもしれない。
何度も手紙を手にとっては、自分に言い聞かせた。
学院に行かない。ソフィアさんに渡さないと。
そんな思いもむなしく、生徒会から招集がかかってしまった。
何も飛び級試験当日でなくとも。学院が夏休みでしばらく閉まるため、警備の関係上、この日でなければならないらしい。
この手紙を持っていかなければいい。
そう思い、机にしまったはずだった。
けれど、当日。
鞄の中には、あの手紙が入っており、馬車の中でぎょっとした。
自分で入れたのか、無意識なのか分からない。
ただ、胸の奥がひどく痛んだ。
昇降口の前で、サランは立ち尽くしていた。
生徒会室に急いで行けば、ソフィアさんと会わずに済む。
それなのに足が動かない。
渡さなければ、きっとソフィアさんは試験を合格して三年生へ飛び級するだろう。
合格したら、アルフレッド様と同じ学年になってしまう。
そして卒業して、二人で辺境の地へ…
気持ちがぐちゃぐちゃに絡まり、呼吸が浅くなる。
そんな時だった。
「サランさん?」
ソフィアが現れた。
久しぶりに会ったサランを見て、ぱっと花が咲くように笑った。
この作品を見つけてくださり、そしてお読みいただき、心から感謝申し上げます。
通算50話を迎えることができました。
ここまで続けられたのも、皆様のおかげでです。ありがとうございます。
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今日は、私生活でも一つの節目の日でした。
思うところがあり、更に頑張ろうと思います。
最後まで大切に話を紡いでいきますので、今後とも、どうぞ宜しくお願いします。




