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VIOLETlazward 〜辺境伯令嬢シャルロットの奮闘記〜   作者: 和霞


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2-20.反撃

頑張らないと。

その小さな呟きが、静かな自室の空気にすっと溶けていく。


ここしばらくの期間、アルフレッドが屋敷に滞在している時の護衛はブルイが受け持ち、ソフィアの任務は解かれる。

理由は、あと一ヶ月半程で前期の試験が行われるからである。


前期試験は学院生徒にとって重要な節目である。

特に二年生は、受験する全科目、それぞれ95%以上の得点を取れば飛び級審査の受験資格が与えられる。

後期や次年度の免除科目も、この試験で決まるため誰もが必死に勉強していた。


落第科目を取ると追試や補習、そして最悪の場合は留年。

その重圧が、日を追うごとに学生達にのしかかってきている。


だから、この時期の図書館はかなり混雑していた。

参考書を求めて生徒達が押し寄せ、人気のある本はすぐに貸し出し中になる。


ソフィアも、やっとの事で政治政策の参考書を借りる事ができた。

鞄からそっと出し、表紙を指先でなぞる。


「この科目が一番苦手なんだよね。」


ぽつりと漏れる声は弱弱しい。

机に向かい深く息を吸う。

ペンを握りページを開くが…集中できない。文字が頭に入ってこない。


静かな部屋で、ペン先が紙をひっかく音だけが響く。

そのはずなのに、心の奥では別の音がざわざわと鳴り響いていた。


学院で流れている言われない噂。

自分の知らないところで、誰かが自分の形を勝手に作り変えているような、あの嫌な感覚。


気にしないようにしても、どうしても意識がそちらへと引きずられてしまう。

文字がぼやけ、焦りで胸が締め付けられる。


孤独ではない。サランさんが気にかけてくださっている。

廊下などでリュシオール殿下やデルバール様が頻繁に声をかけてくださる。

だから、平気だ。集中するんだ。


実技の授業は、Aクラスにいる限り免除となる。

したがって、シャルロット様が後期から三年生に飛び級なさるのは確定だ。


護衛としても遅れは取れない。

その役目を果たすためには、立ち止まるわけにはいかないのだ。


ペンを握り、震える指先を押さえつけて文字を追う。


大丈夫。私は、まだ折れるわけにはいかないんだ。

胸の奥に残るわずかなざわめきを、夜の深さがそっと包み込んでいく。




ソフィアはいつものように、ブルイに行ってきますと小さくぺこりと頭を下げ屋敷を出て行った。


その様子を、階段の上からそっとみつめる影があった。

シャルロットだ。


階段を素早く降りると、ブルイに声をかける。


「ブルイ、家紋が付いていない馬車でお願い。」


「かしこまりました。アルフレッド様。」


シャルロットはグリードと馬車に乗り込み、徒歩のソフィアより先に学院へと向かった。


学院手前に着くとシャルロットは気配を消し変装を整えた。

ブラウンの鬘に眼鏡、少し大きめの制服。

少し姿勢を崩し体の力を抜く。誰もアルフレッドだと認識しないだろう。


校舎に入る手前でソフィアを見つけ尾行する。

ざわめきの中、少しだけ大きな声が聞こえる。


「ねえ、聞いた?ソフィアさん、今度は子爵令息にお声をかけたんですって。」

「アルフレッド様にただの護衛だと言われたから、今度はリュシオール殿下やデルバール様の婚約者の座を狙っているそうよ。」

「先生にも取り入っているらしいわよ。成績、あれ絶対自力じゃないわ。」

「警備隊の権力使って、脅したりしているそうよ。」

「どこまで、落ちるのかしらね。」


囁いていた声はどんどんと大きくなる。

まるで、ソフィアに聞かせるためにわざと音量を上げているようだった。


シャルロットは唇をきつくかむ。

そして、時折メモを取りながら進む。



ソフィアが教室に入ると、くだらない中傷を声高に語る者達が、調子づいて話している。

ソフィアは足早に席につき座ると、顔をくしゃりと歪めた。


辛い。

「辛かったね。」

声が重なる。


心の声が漏れ出てしまったかとびくりとするが、その声は聞きなれた優しい声だった。

ソフィアが横を見ると、その人物は、ゆっくりと鬘を外し眼鏡を取った。

すみれ色の髪がこぼれ落ち、アイオライトの瞳が現れる。


「アルフレッド様…」


誰かがつぶやいた。

教室がさざ波のようにざわめき、先ほどまでの喧騒が嘘のように驚くほど静かになった。


噂に加担していない生徒達は、見おぼえない生徒の侵入にすぐに気づき不信そうにしていた。

目を見開くウィルナと視線が合い、シッと唇の前に指を添える。

 

気づかなかったのは、調子に乗ってソフィアを傷つけていた者達だけ。

シャルロットは立ち上がり、教室を見渡した。


その笑顔は、恐ろしいほど冷たかった。


「やってくれたね。」


その声は静かだが、教室の空気を凍らせるほど強かった。


「私の護衛に、このような言われない噂をばらまき陥れるだなんて。

我が家を敵に回すつもりなんだね。」


誰も息を飲む音さえ出せない。


「噂のような事実はなにもない。こちらで調査済みだ。

傷つけるだけの根拠ない噂を作り広げて、楽しかったかい?」


沈黙が落ちる。


「…許さないよ。我が家の者に手を出すならば容赦はしない。

ソフィアは、私が守る。」

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