2-18.影色
シャルロットは、もう一度フランシカと抱きしめ合った。
また、しばらく会えない。
寂しさは胸に残るが、それでも自分が選んだ道だ。
これからお祖母様を見舞い、お母様はそのまま辺境に帰ってしまう。
王都を出るまでの数日の護衛は、その数日に授業日がないソフィアに任せる。
馬車が門からでるまで見送り、シャルロットは第二警備隊へと急ぎ向かう。
稽古や街の警備をこなし、終わる頃にはすっかり日が傾いていた。
商会に駆け込むと、閉店前にもかかわらず数名のお客様がおり店員が対応している。
セミオーダーのチョーカーが評判を呼び、注文が途切れないそうだ。
やりましたねと、商会長は注文書の束を指して笑った。
作業所にたくさん仕事を渡すことができると、シャルロットはほっと胸を撫でおろす。
その後、お祖母様のところに顔を出し、屋敷に戻って残った仕事を片付ける。
こうして、今日という一日が静かに過ぎていった。
翌々日の深夜、ソフィアはアルフレッドを伴い帰宅した。
メイテアも一緒に同行しており、遠路護衛してくれた騎士達には、まずは休息と食事を用意する。
お兄様は動きやすい簡素なドレスを着ていたが、その所作は以前にも増して洗練されていた。
最後に会った時より少しだけ張りもあり、自信が宿っているように見えた。
ブレナ学園での学びが充実しているのだと、語る表情の変化からも伝わってきて見ているこちらも嬉しくなる。
研究チームで暗号をいくつか解読し、国境の防衛に貢献したらしい。
領地経営も順調で、学園への道中も領民とふれあい、省庁訪問や視察もこなしているという。
授業が続く時期はドゥゴールウォールに滞在し、体調を崩さぬよう自ら調整できるようになったそうだ。
本当に何よりだ。
シャルロットはそっと、眦に溜まる涙を拭った。
長旅で疲れたメイテアにソファに座らせ、シャルロットは、いそいそと横に腰をおろす。
久しぶりに会う侍女からの報告に、一つ一つ目を見てうなづき、自然と笑みがこぼれた。
時折肩に手を置いたり、腕に触れたり、気づけばスキンシップが増えている。
少し寂しかったのだろうか。
王都に来てから張り詰めていた自分をようやく自覚した。
お兄様が苦笑し、周囲がそっと、あちらこちらに視線をそらしていたことには気づかないままに。
サランさんの話題になると、お兄様も表情を綻ばせた。
お義姉案には、さすがに少し飛躍しているねと言われたが、その事自体には否定されず、素敵なご令嬢なんだねと穏やかにおっしゃった。
これは、一考の余地はありえる。
満更でもなさそうだ。
長期計画にお義姉案件を組み込んでおこう。
解散した後、メイテアが近寄り耳打ちをした。
「以前よりは減りましたが、アルフレッド様は、シャルロット様が辺境を出ていかれてから、何度か心がお疲れになり、何も手が付かなくなることがございました。」
何かきっかけがあったのかもしれない。
けれど、落ち込む時や元気がない時があるのは誰だって同じだ。
普通の現象だ。何もおかしな事はない。
揺れる幅がほんの少し大きいだけ、それだけのことだ。
助けが必要な時、手をかせるように準備をしておこう。
見守る側が、自身も心を疲弊しないように、抱え込みすぎないようにしながら。
※※※
その夜、ベッドに腰をおろしたシャルロットは、ずっと胸の奥にある小さな違和感を追う。
あぁ、ソフィアだ。やっぱり、様子がおかしい。
ぎこちなく笑い、平気だ、大丈夫だと繰り返す回数が増えている。
あの時のお兄様の姿が重なって見えた。
翌朝、久しぶりにお兄様も加わり、恒例の腕回し体操をする。
グリードとソフィアと四人並んで、満面の笑みを作り、腕を振り降ろし首をさげる。
もはや、舞台挨拶のようになってしまっているのはなんでだ。
朝から皆の笑いが止まらない。
お手本は、羽を背負ったお姉様方か?
お兄様はメイテアとお祖母様のお見舞いに行き、そのまま辺境へ帰るという。
授業があるのだから仕方がない。
もっと一緒にいたかったな。
その思いを胸に、無事の帰路を祈り見送った。
今日は合同授業の日。
二年生、三年生を腕前ごとにA~Jクラスへ分けられる。
私とソフィアは最高位のAクラスである。
ピエールや第二警備隊予備隊員に合格した2人も同じクラスだ。
三年生は七名おり、合計十二名は実戦に近い別メニューが組まれるそうだ。
リオ様とデルバール様は、Eクラスに並んでいるのが見えた。
Aクラスは総当たり戦の表が掲示され、ソフィアは一回戦目になり、すでに用意をしている。
シャルロットはピエールと共に応援席で見守りながら、声を潜めて尋ねた。
「ねぇ、ピエール。ソフィアがトラブルに巻き込まれていたり、嫌な目にあっていたり、何か知ってる?」
「僕は知らないな。図書館にいることが多いし、寮でもあまり他の人と接してないから。
何かあったの?」
このところ、やっとピエールが砕けた口調になり嬉しい。
「ソフィアの様子がおかしいんだ。原因がわからないが、とにかく聞いても、大丈夫しか言わないんだ。」
「心配だね。原因がわかるかは分からないけれど、知り合いに聞いてみるよ。」
「わるいな。お願いできると助かる。恩にきる。」
「サランさんは、何かご存知でないかな。
図書館の窓からクラスの廊下が見えるんだけど、ソフィアさんに話しかけているのを見かけるよ。」
「そうなんだ。サランさんが。」
シャルロットは胸を撫でおろした。
ソフィアはサランさんと仲良くしている。そう思うと少し安心できた。




