2-14.報告
「はい、ここまで。ペンを置いてください。」
緊張感が解け、教室内がざわつく。
教師から声をかけられた二人が、テスト用紙を後方から集める。
この小テストが直接単位取得に響くため、皆、真剣だ。
ソフィアは解答用紙を手渡すと、これで今日は下校できるとホッとする。
手早く帰り支度をし、一番後ろの席から、なんとなく頭を少し下げながら前方へ向かう。
悪いことをしているわけではないのに、1教科だけで1人だけ帰る罪悪感なのか。
自分から辞する声をかけた方がいいのか。
毎回、いろいろ考えて、結局何もできなくて。
微妙にぺこりとして、教室を出る。
誰も見ていないだろうし、気にもされていないだろうけれど、ものすごく気まずい。
少しずつ、早足になり学院を出た。
※※※
祖母の見舞いを終えたシャルロット達一行は、王都にあるレッチフィル家の商会へと来ていた。
昼下がりの王都。
王都の貴族たちは朝が遅い者が多いと聞いていたが、店内はすでに人がいっぱいだった。
「店の中は混雑しているが、静かだな。」
「朝一で来店されたお客様から、辺境の商品が入荷されたとの話が瞬く間に伝わったようです。
気がつくと店の前に長蛇の列ができておりました。」
「帽子を深くかぶったり、お顔をスカーフで隠されているご婦人が多いな。」
「取る物も取らずいらしてくれた結果でしょう。
皆さま暗黙の了解で、どなたとも話さず接しず、静かに右回りに一周されております。
その間に購入する品物を手に取り、お買い上げいただきお帰りになられます。」
「なるほど。」
「チョーカーも、一人一本までと制限をかけておりますが、今のところ混乱はございません。」
そして、と続ける。
「前倒しになりますが、ご指示に沿った注文書が出来上がりましたので来店してくださった皆様にお配りしております。
皆さま、本日来店してよかったと喜んでいただいております。」
それは3パターンの決められたベースのチョーカーの図案と、数種類の糸から選べるセミオーダーを受注できる注文書であった。
幾つかの立体や平面の花のモチーフも用意しており、バリエーションはかなり豊富だ。
自分で選んでいただけたらば特別な品になるかもと企画したものだった。
また、ベースの首周りの部分は、見た目は複雑そうだが、繰り返し模様であり編み慣れればさほど難しくない。
そのようなパターンを図案化し、作成部門へ渡してある。
この品に限っては、領地ではなく王都外れの作業所で作ることになっている。
作業所となる一帯の土地は辺境の地の手前にあり、作物の育たない土地なのか干上がっていた。
かなり安かったので、そこそこの広さの土地を商会で買う事にした。
購入前に行きわかった事だが、隣接する村は貧困に喘いでいた。
これから建設するレッチフィル作業所で働いてくれる人を募ると、皆が手をあげてくれた。
出稼ぎに行き、家族と離れなくてすむと泣いて喜んでくれた。
仕事はたくさんある。
我が領地と王都の商店の中間点に建ち、いろいろと都合がいい。
レッチフィル領地より、編み方の指導者数人が作業所に派遣されてきた。
手先が器用な者から順に編み方の猛特訓を終え、準備はすでに整っている。
「商会長、機転を利かせてくれてありがとうございます。絶好のタイミングですね。
領地を出る前に、母や妹達と話し合ったことが実現され嬉しいな。」
アルフレッドの顔が綻ぶ。
バックヤードにいた従業員が見惚れ、皆の動きが止まった。
パンッと、商会長が手を鳴らす。
再び、慌ただしい時間が動きだす。
アルフレッド様に喜んでいただけて、ほっとした。商会長は安堵する。
本来ならば、二日後にお配りする予定だったものである。
辺境伯夫人の許可をいただき、お客をなだめる手段として利用させてもらったのだが、今日だけでかなりの数の注文書を配れるぞと算段する。
アルフレッド様が、王都入りしてから、たびたび店の様子を見に来ているとの噂を流しておいたのも功をなしている。
先ほどから、店奥に立つアルフレッド様の姿に気づいている護衛騎士も多くいる。
効果覿面で、これだけ待たせ、混雑していたり購入制限をかけているにも関わらず、店員に無理を言ってくるお客様が皆無の状態だ。
忙しいが、これだけの人に店舗に足を運んでもらえ、たくさん購入していただき嬉しい限りだと商会長は誇らしげに笑う。
商会長は、昔、レッチフィル騎士団でも活躍してくれた辺境貴族の三男だ。
きちんと教育も受けており腕もたつ。
以前受けたトラブルをきっかけに、国境へと援軍してくれる第二警備隊との調整役を担ってくれている。
お母様は、王都にいることを知られたくないため奥の応接室で隠れている。
アルフレッドが店舗の帳簿の点検をしている間、フランシカは応接室で売り上げ表を見ながらをお茶を飲んでいた。
窓から見える列は、大半のご婦人方がスカーフなどで顔を隠し店内に入るのを俯き待っている。
あらあらと、フランシカもスカーフで顔を隠し、店内が見える位置へと移動した。
シャルロットは、気配を消しながらゆっくりとフランシカに近づき、いいの?と、顔をのぞき込む。
「ごめんなさい。柱の陰から隠れてみているだけよ。
こんなに、購入してくださっているのね。実際に見ると嬉しいわ。」
しかも、と目を細める。
執事や護衛騎士は何かない限り、その家門に長く勤めている。
顔や頭部はすっぽり隠しているが、懐かしい友であろう姿を見つけ心が温かくなる。
そこへ、授業を終え商会にたどり着いたソフィアが合流する。
走ってきたのか。
想定していた時間よりも、かなり早い。
見せる笑顔がいつもと違うように思い気になる。
「ソフィア、何があった?」
「何もないですよ。平気です。
走ってきたからかな?大丈夫です。」
と、ぎこちなくソフィアはにこりと笑った。
商会長に、ソフィアと共に第二警備隊の予備隊員に合格したと報告し、ここでの用事は終了となる。
夜半には、秘密裏にフランシカの兄達、近衛兵に所属している次男のリッキーと、私もよく知る第二警備隊副隊長で三男のエデルが屋敷に来訪する事になっている。
フランシカの短い王都の滞在に、予定が詰まっている。
帰りの馬車では、もっぱら、フランシカとソフィア話していた。
ソフィアは楽しそうな様子を見て、勘違いだったかと独り言ちる。
シャルロットは、店からの書類を確認しながら、二人の話を時折笑みを浮かべながら聞いていた。
久しぶりにフランシカ様とお話しできて本当に嬉しかった。
ソフィアの声は弾む。
シャルロット様の護衛について王都に来たことは、全く後悔していない。
でも、やっぱり、憧れ、尊敬して、大好きなのはフランシカ様なのだ。
商会からレッチフィル家の屋敷まで、あまり時間を用さない。
屋敷の門が開き、ソフィアは残念そうにしている。
また、お母様との時間を作ってあげるよと、ポンポンとソフィアが膝の上で握っていた手を軽くたたいた。




