2-12.助力者
早朝、いつものように腕回し運動で体の筋肉をほぐす。
昨晩、お母様の到着が深夜になり、いつもより2時間遅い就寝となったが、グリードもソフィアも遅れずにやってきた。
いつも通り3人で一列に並び、満面の笑みを浮かべ表情筋もほぐしながら、舞台挨拶のような動きをしていく。
その後、素振りをし、打ち合いをそれぞれとした後、朝の鍛錬を終えた。
今日は、私とグリードそしてお母様は、元辺境伯夫人であるお祖母様のお見舞いに伺う。
王都にある辺境卿の屋敷に、昨晩のうちに先触れを出しておいた。
お祖父様も本日は休みを取り屋敷にいると、先ほど返信をいただいた。
学院のお仕事はよかったのだろうか。
ソフィアは、登校する日だ。
とはいえ、今日は一つの授業だけである。きっと、あっという間に合流になるだろう。
もう数回、一人で通っているが慣れただろうか。何か言いたげにしているのは気のせいだろうか。
問うても、何もないと言うばかりである。
※※※
通された部屋は静かで、どこか懐かしい香りがした。
明るく爽やかな風が、ふんわりと流れている。
私達が近づくと、お祖母様は弱々しいながらもしっかりとこちらを見つめ、嬉しそうに目を細めた。
お母様がゆっくりとベッドに近寄り、手をそっとさする。
アルフレッドも、お祖母様の目に入る位置まで近づく。
「フランシカ…遠いところから、忙しいのに来てくれたのね。
アルフレッドも、いつもありがとう。」
このところ、学院や警備隊の鍛錬帰りに顔を出していた。今日はいつもよりも顔色がよさそうだと胸を撫でおろす。
「お義母様、久しぶりにお顔が見れてすごく嬉しいです。お加減はいかがでしょうか。」
「今日はとても気分がいいわ。
こうして元気そうな、あなた達に会えて本当に嬉しいわ。」
お祖母様は、体を起こし美しく微笑んだ。
その姿を、お祖父様が優しい目で見続けている。
「お義母様、辺境伯領で取れたクターネを持って参りました。懐かしいでしょ。
今、剥きますね。」
食が細くなっていたお祖母様に、お母様は用意していたナイフを使い、その場でスルスルと剥き出した。
クターネは辺境地特有の果実であり、足が早く流通に適しない為、ほぼ辺境で消費され王都へ持ち込まれる事はほぼない。
甘い良い香りが漂う。
「フランシカらしいわね。
辺境伯夫人が自らむいてくれるなんて。」
クスクスと昔を思い出し、笑いが止まらないようだ。
「昔から無作法ですみません。
でも、お義母様のおかげで、誰にも負けないくらい外面が良くなり、味方も増えました。」
「よかったわ。本当に。
領地をずっと守ってくれてありがとうね。」
「お義母様こそ、王都で王家と戦いレッチフィル領を守ってくださり、ありがとうございます。」
お祖母様はお母様の言葉を聞くと、ゆっくりと瞼を閉じ深く息を吐いた。
「王家の我が家への反感が、ますます強くなっているのに、夜会やお茶会へ行けなくなり、夫人達を使って抑制したり、情報を集めたりできなくなってしまい、ごめんなさいね。」
こほこほと咳がでる。
ベッド側に立つお祖父様がお祖母様に寄り、身内のせいで苦労かけるねと囁きながら背中を撫でる。
「あなたが一緒に戦ってくれたから、先祖代々から続くレッチフィル家を守る事ができたのよ。ありがとう。」
お祖母様は、時々、咳き込みながら伝えた。
お祖父様は穏やかに微笑み、そっとお祖母様の肩に愛しむように手をおいた。
お母様はお祖母様へ、薄く小さめに咀嚼しやすい大きさにカットしたクターネを小皿に並べ差し出した。
お祖母様は一口食べると、花が咲いたように笑った。
もう一つとフォークに刺す姿に、お祖父様は感無量となっている。
「あぁ、懐かしい。領地の事を思い出すわ。」
その笑顔を見て、皆の心がじんわりと熱くなる。
「ありがとう。
あなた達がいてくれたら、何も心配はないわね。」
お祖母様は口の中の甘さを味わいながら、ふと視線を落とした。
その仕草は、何か迷っているかのようだった。
「あなた達に、言えなかった事があるの。
王家の中に、あなた達を守ろうとしてくれている人がいるわ。」
「王家に味方がいるという事ですか?」
「えぇ。その方の名を明かす事により、双方に危険が生じるかもしれないので、伝える事はできないのだけれど。
その方の存在を知っていてほしくて。
辺境伯家への不当な動きに、誰にも察知されないよう、できる範囲で動いてくださっているの。」
「そのような方がいらしてくれたなんて…」
「その方は、我が領の誰かに恩があるそうよ。」
お母様は、思案しながら私に首を傾げた。
私も全く心当たりはない。
コホンコホンと、再びお祖母様が咳込み眉間に皺を寄らせている。
お祖父様がゆっくりと寝かせ布団をかけた。
これ以上は、無理をさせられない。
皆、それぞれから名残惜しさを含んでいた。
「…今日は本当に、貴重な話をありがとうございました。
辺境に帰る前に、また参ります。お大事になさってくださいね。」
お母様と私は、それぞれ声をかけながら、お祖母様に目を合わせ手に触れる。
お祖母様を侍女に任せ、お祖父様が私達を見送るため一緒に屋敷のエントランスへと進む。
「来てくれてありがとう。君達に会えて、あの人は本当に嬉しそうだった。
アルフレッドも、忙しいのにいつもわざわざ我が家に寄ってから帰るようにしてくれて、本当に感謝している。」
「お祖父様も、どうかご無理なさらないように。」
外への扉が開くと、馬車が止まっており、グリードがドアを開けて待っていた。
フランシカとシャルロットは、後ろ髪がひかれる思いで、ドゥゴールお祖父様の屋敷を後にした。




