2-9.クラスメイト
「こちらの教室となります。」
副担任に案内され教室の扉を開けると、生徒皆が顔を向けた。
私達が教室内に進むと、衣擦れの音もしないくらい驚くほど静まりかえっていた。
シャルロット達が教壇近くに並ぶ。
一挙手一投足を見逃すまいとしているかのように、生徒達は微動だにしない。
そのよう中、担任のグランシフォーヌ先生が爽やかに私達の名を紹介していった。
この学院内では生徒は平等だと謳われている。
そのため家名ではなく個人名で呼び合うように定められていると、昨日のガイダンスで説明を受けていた。
とはいえ、生徒達は馬鹿ではない。
先人達が愚かにも、学院という真綿にくるまれた時代を謳歌しすぎ、家門からも放逐され、最悪、家自体も取り潰されたことをしっかりと認識している。
勘違いしたお馬鹿な嫡男さんのお陰で、次男三男の自分の父にお鉢が回ってきて、自身が恩恵を受けているという者が多数いるからなおさらだ。
そのような者達は、決して自ら高位貴族だと分かっているアルフレッドに声をかけるような暴挙にでる者はいないだろう。
「では、後ろの空いている席に座ってください。」
グランシフォーヌ先生に促され、シャルロット達は席に着く。
なんとなく、入学式の順番に腰を掛けていた。
「では、皆さんも自己紹介を簡単にお願いします。」
一学年に4クラスあり、学年ごとにクラス替えがある。
そっとノートをカバンから取り出し、メモをし始める者も多くいた。
学校は、もちろん一流の先生に学ぶ場であるのだが、それだけではない。
同年代の繋がりや交流を、将来や家門ために作ろうとしている者も少なくない。
王宮に勤める際にも後々有利に働くこともあるだろう。
そして、一番大事であろうこと。未来の伴侶を探す場でもある。
高位貴族は幼少のころから、それぞれの家での付き合いなどで顔見知りの者も多い。
婚約を結んでいる者もいるだろう。
余裕をもって聞いているのは、そのような者達なのだろうか。
ただ第二王子であるリオ様の婚約者が決まらないせいで、多くの者が婚約者を定めていないとも聞いている。
婚約者のいない令嬢たちや次男・三男、そして、中下位貴族にとっては、良き縁を繋ぐ可能性が例年よりもある。
なかなかの情報戦になるのだろうな。
どんなの情報であっても、見逃さないよう、しっかりとメモを取っているようだと、後ろの席からアルフレッドはクラスメイトの様子を観察していた。
後々役立つ事もあるよなと、胸元に忍ばせているメモ帳をそっと抑える。
ソフィアだけでなく、ピエールとロザリーも、発言している人物に焦点を当てている。
自分の認識と合わせ、頭の中で整理し落とし込んでいるのだろう。
「はい、全員終わりましたね。」
グランシフォーヌ先生は二年生の新学年最初の日ということもあり、授業の時間割や行事が記入された用紙に添いながら、サクサクとどんどん説明していく。
二年生から新たな授業として追加される、三年生との合同研究や剣術の日や内容も発表された。
この授業をシャルロットは受ねばならなかった。
必須の教科であり、二年生の内に合格できれば三年生でこの授業を取る必要がない。
逆に合格できなければ引き続き受け、合格しなければならない。
1年間で合格するのは3割程度らしい。
一年生在学時、試験を受け免除となった授業については、今年度、出席する必要がないこと。
出席したとしても期末のテストを受ける必要がないとの説明があった。
ついでにと、先生から飛び級者の生徒達は通常授業の大半を合格している為、毎日は通学しないと告げられた。
アルフレッドとピエールに関しては、全通常授業免除だと、さらりと付け加えられる。
先生が、なんか、ちょっと嬉しそうなのはなぜなんだろう。
シャルロットが記入された用紙の時間割を確認すると、出席しなければいけない授業は合同授業の他に二つの専門科目の授業。
有難いことに週一日の中に集約されており、場所も剣技場や専門科目用のクラスであることが分かった。
この教室にくる事はなさそうだなと考えていると、同じ考えに至っであろう何人か生徒が、何とも言えない顔をしてこちらを振り返ってみていた。
ソフィアは、一科目の授業のためだけに登校しなければならない日があると項垂れており、週三日通うようだ。
グランシフォーヌ先生と副担任の先生が教壇に立ち、クラスの生徒達と挨拶を交わすと本日は終了となる。
教室の後方にいたため、他の生徒が教室から出てからでいいかとシャルロット達4人は席に座ったままでいた。
教室にいる他の生徒も、きちんと座り誰も動かない。
しばらく皆が前を向いたまま無音でいたが、しびれを切らしたソフィアが、帰りませんかと囁いた。
小さな声であったが、教室隅々に聞こえたようで皆の肩がピクリと動いた。
一人の生徒がすくっと立ち、後方へ向かい礼をした。
「失礼を承知で、お声をかけさせていただきます。
お初にお目にかかります。ウィルナと申します。
発言をお許しいただけますでしょうか。」
先ほど何とも言えない顔をして振り向いたのは、ブロドリ公爵家子息のウィルナ様だったのか。
公爵子息が深々と頭をたれ、これだけあらたまっているということは、私が答えなければいけないよね。
「発言を許そう。」
平坦な低めの声で答える。
「感謝いたします。レッ・・んっ。アルフレッド様。そして、ピエールさん、ロザリーさん、ソフィアさん。
今後、皆さまが、こちらの教室に通われることは、ほぼないのだと見受けられます。
クラスの皆、お目にかかる事を楽しみにしておりました。
お時間を取らせ申し訳ございませんが、しばし、交流する機会をいただけないでしょうか。」
気が付くとクラスメイト達が体ごと振り向き、拝みながらこちらを見ていた。
そうねぇ。
ソフィアが一人で教室に行く日があるし、心配だったのよね。
すぐ横にいる3人に視線を送ると、皆がコクリとうなずいてくれた。
帰る前にお祖母様のところへ寄りたい。
少しの時間でいいのならと、皆に向かって伝える。
控えめな、わぁと言う声が、教室中のあちらこちらで聞こえた。




