2-8.初登校
昨日の入学式に続き、本日もどこまでも晴れ渡っていた。
裏門を通過し馬車待機場に着くと、グリードが御者席より素早く降り馬車の扉を開けた。
シャルロットは優雅に降り、まだ車内にいるソフィアに手を貸すと、少し離れた校舎の窓からや、昇降口までのアプローチから女生徒達からの悲鳴が聞こえてくる。
本来ならば、ここでグリードは迎えの時間までタウンハウスへ戻るつもりだったが、本来はないはずの人混みに、校舎までお送りしますと短く告げる。
グリードを先導とし後方にシャルロットが付き、両脇に並ぶ生徒達の花道を進み校舎へと向かった。
「おはようございます。」
あちらこちらで声がかかる。
「おはようございます。」
シャルロットが低めの声で答え、うっすらとほほ笑むと、きゃあああと雄たけびが方々から響き渡った。
危害を加えられているわけでもなく、適度な近さで挨拶をしているだけなので、どのような警備が最適かソフィアは悩んでいた。
学内は平等とは言え、見るからにわかる高位貴族には自ら話しかける事は憚られる。
ただし、挨拶だけは別格であり、むしろ推奨されているので男女問わずバンバン朝の挨拶が飛んでくる。
それに、女生徒達があちこちで躓いているので気が抜けない。
ソフィアには、少し押されただけのようにみえたのだが長めの距離をよろけて、シャルロット様方面にダイビングしてくる。
足腰が弱すぎるのだなと、優しく受け止め、転ばず怪我しなくてよかったと安堵する。
式典は制服が必須であるが、通常はブレザーを身に着けて入れば他はアレンジしても良い校則となっている。
ソフィアは、さっそく本日からズボンを履き、動きやすい格好にして正解だったと、躓いてくる9割以上を素早く補助しながら思っていた。
令嬢だと身に着けるべきネックレスや指輪、イヤリングなどのアクセサリーまで全部外してしまい、シャルロット様に泣かれたのはどこかに置いておこう。
護衛するには邪魔でしかない。
一瞬気が散ったソフィアをすり抜けていった女生徒は、グリードが手を添え転ばぬように支えた。
グリードに対応された生徒も、満足そうに頬をそめているのが、ほんのちょっとだけ気になる。
馬車置き場から、このやりとりを何度も繰り返し、シャルロット一行は、やっと昇降口へとたどり着いた。
校舎前は登校してくる生徒もいて密集しており、一瞬足が止まってしまった。
ソフィアとシャルロットの間に生徒が入った瞬間、三方向、同時躓きが発生し、ソフィアとグリードの初動が遅れた。
「大丈夫かい。お嬢さん。」
女生徒が、シャルロットの目の前で躓く。
シャルロットはさっと手を伸ばし体を支え、端正な顔をふっと歪め心配そうに囁いた。
その瞬間、一層大きな、きゃぁぁぁぁと声が上がった。
基本的にフロライト学院は貴族のための学校である。社交界に相応しい立ち振る舞いを常に求められている。
それゆえに、シャルロットはアルフレッドと通常はクールキャラ。何かあれば王子様キャラの所作を取ろうと話し合い決めていた。
でも、危害が加えられたら、どうするんですか。ソフィアは恨めしそうに見る。
グリードと私が対応できない方は、もう、そこらへんに転がしてくださいといつもお伝えしているのに。
とっさに対応したのだろうけれど、上手く捌かず相手しちゃんうだもんな。
自分の警備を反省しつつも、逃げてくださいよぅと、ソフィアは口を尖らせてしまう。
だって、あの方。
入学式の時に前の席に座って、声をかけてきた御令嬢でしょ。
多分、高位貴族で、たぶん躓いたのもわざと。
昇降口で、生徒会長のリュシオール様と副会長のデルバール様が、飛び級生徒の案内係として待っていてくれなかったらば、ややこしいことになところだった。
リュシオール様が、何やっているのと、そっと力強く、シャルロット様と令嬢を引き離した時には、心の中で拍手喝采してしまいましたよ。
リュシオール様の笑顔が怖すぎて、私も含め、周りの生徒の目線が一斉に下を向いてしましたが、グリードと私の家格だと対応できない相手みたいだし本当に助かりました。
そのすきに、リュシオール様がシャルロット様と私を別室へと誘導されたのですが、それでも何か言おうとして、こちらへ動いた令嬢を見逃しません。
グリードと目を交わし、昨日の要注意人物候補から格上げて認定です。
学年も違うし関わることが少ないだろうと、調査を後回しにしてしまった事、反省します。
本日タウンハウスに帰る頃には、詳しい情報をグリードが掴んでいる事でしょう。
急ぎ踵をかえしている姿を目の端でとらえた。
ほぼ同時に、デルバールが残りの二人を連れて入室してきた。
「リュシオール第二王子殿下、アルフレッド様、ソフィアさん、おはようございます。
助けに行けず申し訳ございませんでした。」
昨日、ガイダンス時に仲良くなった、同じ飛び級しているピエールとロザリーが頭を下げた。
いいよいいよと、シャルロットが挨拶したりしている。
私も、確実にグリードも、この二人が何とかこちらへ来ようとしているのを確認していた。
ただ、多くの生徒に囲まれて掴まっていた気がする。
「ピエールさん、ソフィアさん。おはようございます。
たくさんの方に囲まれていたように見受けられたのですが、何かございましたでしょうか。」
「ああ。」
気まずそうにピエールが続ける。
「僕とロザリーは入寮しているのだけれど、昨晩、新入生の中でアルフレッド様の話題がもちきりで。」
「女子寮では、アルフレッド様が二年生で学年が違うと分かると、泣き出してしまう生徒もおりました。」
なぜか、少し離れた場所でリュシオール様が胸を押さえているのは置いておこう。
「話し合いが行われ、挨拶はしても良いのではないかと結論付けられ。
登校してきた生徒も相まってこのような事態になったようです。
最初は憧れからくる、ちょっと挨拶を交わしたい、一目拝みたいだったのですが。」
「躓いた生徒を見て、素敵なきっかけかも?と波及してしまったようです。
寮の女子生徒からソフィアさんも従者の方も、人気があるんですよ。」
触れたいがためだけに、そんなぁと、ソフィアが項垂れる。
「昨晩は、私達も二年生への飛び級だと遠慮されておりましたが、今朝には子爵家出身だと特定されました。
家格が上の生徒よりアルフレッド様の話を聞かれ、身動きできずにいた次第です。
昨日、初めてお会いしてご挨拶させていただいたくらいしかお話できることがなく、あきれてそのうち解放されました。」
「次に登校する日は、大変なことになりそうだね。今日は寮生と、ほぼ1年生でしょ。
その理屈で、朝、アルに挨拶したり近寄ろうとしようとする行動が多学年にも広まると、なかなか可愛くないことになりそうだよね。」
デルバールがどうすればいいかと考えだしたが予鈴が鳴り、アルフレッド達のクラスの副担任が迎えにいらした。
話はここで終わりそれぞれの教室へと向かった。




