2-7.晴れる
「オーレン嬢は…」
リュシオールは硬い表情のまま、ゴクリと喉を鳴らし、意を決して続ける。
「オーレン嬢は、アルフレッドの婚約者とかではないのか。」
シャルロットは、目をパチクリとし、ぷっと吹き出した。
「ないない。それはありませんよ。」
その言い方は令嬢に失礼なのではと、逆にリュシオールは焦る。
「ソフィアは、好きな人いるもんね。」
ね。っとばかりに後ろを振り向き、うふふっと笑いかける。
ソフィアも言わないでくださいよとワタワタし、どんどんと耳が赤くなっていく。
グリードはそうなの?とばかりに目を見開いてソフィアに顔を向ける。
「…とても仲が良いのだな。」
リュシオールは、そっと息を吐き、まだ続いているそのわちゃわちゃ感に胸のつかえとれ晴れやかな顔つきになる。
少しぞんざいな態度になってしまった事を恥、ごまかすかのように明るい声をかけた。
「よし。オーレン嬢も、グリードも、いつでも声をかけくれ。
オーレン嬢、私もソフィアと呼んでもいいだろうか。」
ソフィアは突然の友好さに慄き、もちろんでございますとつっかえながら、どうにか答えた。
どさくさに紛れデルバールもソフィアって呼ぶね〜と軽く言われ、驚いて深くぶんぶんと頷いたものだからながらクラっときていた。
とりあえず解決して良かったねと、デルバールはリュシオールに目で伝える。
となると後は。と続けた。
入試当日、あれだけリュシオールと探していたにもかかわらず、アルフレッドを見つける事ができなかった。
何かカラクリがあり、違う方法を取って入学したのか?と疑念を持っていた。
「それはですね。変装していたからです。」
あっさりとスマートにシャルロットはすまして答えた。
直後、うまくやったとばかりに、ふんすっと自慢げになる。
突然のキャラ変と、変装していたんだとの驚きと共に笑ってしまう。
相変わらずリュシオール様が射抜かれていて、もう満腹だ。
「お祖父様の事もあり、試験に集中したくて変装する事にしました。
王都に多いと言われているブラウンの鬘を被って、母に倣い、前髪で顔を隠して眼鏡をかけました。」
「ほう。」
「市井で売っていた洋服を着て、ちょっと猫背気味に試験会場へ入りました。」
「なるほど。」
リュシオールは、シャルロットの身振り手振りの可愛い動きにくらったまま、無意識に相槌を打ち続けている。
ソフィアも女性にしては背も高く目立つ容姿だが、気配を消すのが上手いらしく、同じく目立たない格好をし何の問題もなくアルフレッドと別々に受付し受験したらしい。
まぁ、身分を隠して受験する者もそこそこいて、眼鏡をかけたり多少の変装は特段珍しくない。
試験科目の途中で担当教諭から抜き打ちの本人確認があるので問題はないのだろう。
「そういえば、入学式は在校生の案内の皆さん、身分に分け隔てなく丁寧でしたよね。」
シャルロットは、入試の日、教室移動の時など下級貴族だと思われ、ぞんざいな案内をされた事を思いだしていた。
やっぱりなと、失望する気にもならなかった。
着飾っていた受付係や案内係は何が目的なのか。
明らかな応対の格差が目に余る。
受付して顔を上げると、ふと物陰が目に入った。
緊張して青くなっている受験者が壁に背をもたげ、それを励ましている先輩方がいらした。
具合が悪くなっているのは、王都寄りの辺境地の騎士爵家の者だ。第二警備隊に入隊したいと話していたので、見覚えがある。
ははっ。すごい偶然だな。
見つけた。口角が上がっていくのを感じた。
「…それで、皆に分け隔てなくできる人材を、今の生徒会役員として選んだのだよ。」
なるほど。
って、リオ様、ごめんなさい。ちょっと思い出していて、あまり聞いていませんでした。
「今の生徒会役員達は人柄く、将来有望な者が集まっている。生徒会活動は課外活動としての加点が付く。
だから、よかったら、アルフレッド、そしてソフィアも、生徒会に入ってくれないか。
優秀な二人に参加してもらいたい。」
「お誘いいただけて光栄ですが、お断りします。」
返す刀で断られ、リュシオールは息を飲んだ。
申し訳ございません。とアルフレッドは続けた。
入試により、全ての科目が合格点に達し免除されている事。
そのため、剣技の実技のために週に一度しか学院に通わない事。
ソフィアも、剣技の実技の他、2日ほど追加の授業があるが、アルフレッドの護衛の為、すぐに帰宅する事。
なにより、領地からの執務や、王都にある辺境伯家の商店を管理するなど仕事があるとの事。
深々とアルフレッドは頭を下げて申し訳ないと詫びた。
リュシオールは、ただただ素直にすごいなと尊敬していた。
「前期試験までに、二年生の実技の行程をクリアし、後期から三年生に上がる為の推薦を得ようと考えております。」
「三年生に上がってくるのか。」
「できれば。そのつもりです。」
「そうなれば、後期の授業や卒業式が一緒だという事だな。」
突然、脳内がお花畑になり、リュシオールは卒業式のプロムでアルフレッドと二人ダンスを踊っている姿を思い浮かべる。
ぶつぶつと声に出ていたのか。
とたん、ガッと、隣のデルバールから肘鉄が入る。
ありませんからね。結構真面目なトーンの低い声でつぶやかれた。
わかっているよ。卒業のプロムは、なにかしら将来が決まっているパートナーとしか踊れない事くらい。
それからは、この数年どうしていたのかなど、お互いに報告しあった。
「リオ様、そろそろ、寮の門限の時間です。」
デルバールが時計を確認する。
楽しい時間はすぐに過ぎるものだな。と、皆でエントランスへ向かうと、ブルイがすでに馬車を用意し待っていた。
アルフレッドは、明日、クラスでのガイダンスのため学院へ登校する。
リュシオールは、離れていく屋敷をぼんやりと目に入れ続けた。




