2-6.誤解
入学式会場であった講堂から、ガタガタと片付けている音がする。
リュシオールは、アルフレッドの後ろで礼をとったままの姿勢でいるグリードとソフィアがやっと目に入った。
「グリードだったか。そなたも一緒に来たのだな。」
リュシオールが柔らかい声のまま声をかける。
グリードの隣にいるソフィアは身を固くし、一層、礼を深くする。
「お久しぶりでございます。
リュシオール第二王子殿下。フィネス公爵子息様。
グリード・ダムルでございます。アルフレッド様の従者として、領地より共に参りました。」
「ダムル子爵家の者であったな。そして、そこの令嬢は。」
「お初にお目にかかります。ソフィア・オーレンと申します。
レッチフィル家の分家の男爵家出身でございます。」
ビクリと跳ねるように身を強張らせ震える声で、ソフィアは挨拶する。
いつの間にかシャルロットがソフィア側に寄り頑張って話す姿を見守っていた。
話し終えると、よくできましたとばかりに微笑んだ。
「オーレン嬢だな。よろしく頼む。」
リュシオールの口調が固くなった。
そこへ講堂の戸締りを終えた先生方が数人出てきて、話をしている生徒が誰だか目に入れ礼をとった。
「本日はお疲れ様でした。まだ、残っていらしたのですか。
こちらは今から閉めさせていただくので、退出していただいてもよろしいでしょうか。」
「あぁ、もちろんだ。すまなかった。」
リュシオールは言い、みんなでゾロゾロと馬車置き場の方へ進む。
「アルフレッド。寮には入らないのか。」
「はい。タウンハウスも近いので、寮には入らず通いになります。」
「オーレン嬢もなのか。」
「はい。ソフィアも一緒に我が家から通います。」
王都の辺境伯爵のタウンハウスは広いし近いからねとばかりに、シャルロットは誇らしげにキュルンとした目をする。
「あのだな。えっと。そう。これからの予定は、どうするのだ。」
「本日は、このまま帰宅する予定です。」
「そうか。その、もしよかったらだが、もう少し話せないか。私は、デルバールと共に寮に入っている。
寮内にはカフェや食堂とか。いや、個室をどこか押さえたほうがゆっくりできるか。」
突然の誘いに戸惑うが、王子様からの誘いに断っても良いものなのか。
散々、王家からの領地訪問依頼を断り続けている事は、すっかりシャルロットの頭から抜け落ちて返答に間が空いた。
うーん。でも、ソフィアだけ帰すわけにはいかないしどうしようかな。
男子寮に女子生徒は入ってはいけないと、先ほど注意事項で聞いたばかりだ。
逆も然りであるが。
「アルフレッド様、そろそろ、新入生の方々の説明が終わりそうです。」
確かに校舎の方がザワザワとしてきた。
もうじき、馬車の待機場に人が押し寄せるだろう。
焦らせないでよ、グリード。
グリードとしてみたら今日のところは切り上げて、後日に仕切り直しする絶好のパスをしたつもりだった。
「リオ様、ディル様。屋敷にいらっしゃいませんか。」
シュートは予想外のところへ飛んでいった。
※※※
どうしてこうなった。
シャルロットは、馬車の中で微妙な笑顔で固まっていた。
リュシオールとデルバールも姿勢を正して座り、きれいな顔を整えたまま無言だ。
膝を突き合わせ、気軽に同乗して良い相手ではない。
校舎の方から人影が見え、そうと決まったならば急げとばかりに、なぜか皆で馬車置き場へと早足で進み我が家の馬車へと乗り込んだ。
リュシオール、デルバールに続いて、シャルロットが乗り込む。
グリードとソフィアのちょっとした一悶着があったが、スカート姿のソフィアが御者席に座れるはずもなく、グリードが馬車へと押し込み、シャルロットが中から手を取り引き上げた。
ソフィアは私の横でカタカタ震えて座り、いつかのグリードの姿を彷彿させた。
シャルロットはフッと笑い大丈夫だよとばかりに、ポンポンとソフィアの膝を叩く。
その様子をリュシオールとデルバールが凝視していたとは気が付かなかった。
屋敷前に馬車が止まり降りてきた人物を目に留めると、さすがのブルイも束の間、固まる。
その後、スラスラと挨拶をし、美しい貴族の挨拶を行い、流れるように応接室の用意を急がせた。
ブルイはやっぱり頼りになるなと、シャルロットが喜んでいると、ピクリとブルイの右眉が上がりジロリと睨まれた。
ちょっと震えちゃったけれども大丈夫。
グリードもソフィアもカクカク。リオ様はまた機嫌悪く、ディル様は苦笑中。カオスすぎて、私シャルロットはトリップ中です。
シャルロットが先導して案内し応接室に皆で入る。
リュシオールとデルバールがソファーへ並んで座り、シャルロットが向かいに座った。
そのタイミングと、ほぼ同時に扉がノックされた。
グリードとソフィアがブルイの運んできたカートを受け取り、手早くお茶の準備を始める。
続いてきたカートのお菓子や軽食も、次々と手際よく並べていく。
あっという間に、三人の前にきちんとした状態でセットされた。
そして二人は、シャルロットの後ろに静かに控えた。
リュシオールは、何やら難しい顔をして、何度も口を開いては閉じてを繰り返している。
「オーレン嬢は、座らないのかい。」
しばらくリュシオールの様子を見ていたが、デルバールは、にっこりと笑顔をつくり尋ねた。
お茶の準備をし、細々と動くソフィアをに驚き、そして、座らずにアルフレッドの後ろに立ったので疑問に思ったのだった。
答えに戸惑うソフィアに、アルフレッド引き継ぐ。
「ディル様。ソフィアは、侍女としても護衛騎士としても優秀なんですよ。勉強も熱心で頭脳明晰。
試験対策していたら一緒に飛び級できそうだったので、フロライト学院の入試を受けてもらう事になりました。」
そう。ソフィアは侍女と騎士のエキスパート。
どうだとばかりに、シャルロットは紹介する。
ソフィアは遠縁の男爵家の令嬢であり、運営改革した時に募集に応えて館に来てくれたのである。
仕事をしながら積極的にいろいろな勉強会にも参加して、レッチフィル騎士団に入るのが夢だと鍛錬もやり続けていた。
お母様も陰ながらソフィアを応援していたのだが、かなり気配りもでき侍女の素質もあったので、侍女と護衛騎士の兼務で、そばに置いていたのだ。
ある日、アルフレッドとして騎士団で鍛錬をしていたのだけれど、生理による急な貧血で目眩がしてしまった。
部屋に帰る途中、ソフィアと遭遇し、なんだかんだで入れ替わりがバレてしまった。
そこでお兄様との入れ替わりも終了かと思われたのだけど、お母様にも話さず黙っていてくれてね。
信用に足ると判断し、頼み込んで私の侍女&騎士に転向してもらったの。
嬉しい誤算で、一緒に勉強していくうちに、飛び級も行けちゃう事が分かり、今に至るのです。




