2-5.助力
また、新しい家庭教師がくるという。
期待と失望を綯い交ぜにしながら、扉をノックした音を聞いていた。
軽薄で女の噂が絶えないグランシフォーヌ伯爵が、桃色の髪を手で何度もかき上げながら私達の前にやってきた。
国王はまた、こんな人物をよこしたのだなと、リュシオールとデルバールは肩を落とした。
「お初にお目にかかります。リュシオール第二王子とフィネス公爵御子息様、家庭教師として担当させていただくことになった、テイン・グランシフォーヌです。お見知りおきを」
口上を述べながら、グランシフォーヌは艶っぽい仕草でボウ・アンド・スクレープを披露した。
室内にいた侍女三人に向かい、色気を出したままパチンとウインクしている。
侍女達は目を潤ませ、ハウぅと言いながら支え合っていた。
禄な奴じゃない。リュシオール王子はぐっと拳を握った。
「グランシフォーヌ伯爵。そなたの賞を取った学生時代の論文を目にした事がある。
私に、真剣に勉強を教えてもらえないだろうか。」
「あぁ。論文ねぇ。頑張った時期もありましたねぇ。
でもね、こんな恵まれた環境の中で、そんな事どうでもいいじゃないですか。
若い時は女の子と仲良くしたり、楽しく過ごした方が幸せですよ。
どうせ大人になれば、仕事も勉強も、どこかで携わらなければならないでしょうしね。
ねぇ。侍女さん達もそう思われますよね」
侍女達は、素敵な伯爵が自分を見つめ話しかけてくれるので、もう有頂天だ。
リュシオール王子とデルバールは、ギリリと唇をかむ。また、無駄な時間を使わされるのか。
「そうだ。侍女の皆さん。
これからリュシオール王子とデルバール様とお近づきに為に、男同士の秘密の話をしようと思うんだ。
ちょっと部屋を出てもらっていいかな。そうだな、3時間後に美味しいお茶をお願いできると嬉しいかな。」
侍女達が、でも、とか、それはできない、とか躊躇っている。
当たり前だろ。職場放棄させるつもりか。
「んん~。ああ、時間になるまで、僕に与えてもらった部屋でゆっくりしていていいよ。
ソファーもなかなかの座り心地で、つい横になってしまったよ。
そうそう、先日、王都広場にできたお店のお菓子も机に並べてあるからどうぞ。」
伯爵は侍女に近寄り、ふわりと顔の外角に沿って手を動かす。
「これからの話は、きっと君達が聞いたら腰砕けちゃうからね。」
侍女達は、伯爵のいい匂いにふらふらになり、コクコクコクと多めに頷くと、しずしずと部屋の外へ出て行った。
とんでもないやつ認定だ。リュシオールは、また諦めて無表情になる。
これで部屋にいるのは、三人きりになった。
さてと。
グランシフォーヌ伯爵は突然居住まいを正し、先程は失礼いたしましたと深々と頭をさげた。
「私は先の辺境伯ドゥゴール様の依頼で、数人を介して国王に紹介され、こちらに参りました。
今後、お二人の全ての教科を及び、貴族の常識、マナー、外交、加えて、諸外国語も指導させていただきます。
今までおりました侍女達は、あなた方のご様子を宰相様にご報告しておりますので、以後、細心の注意を払いお気をつけ接してください。」
驚く暇もなく、そこから3時間、呼吸を忘れるほどに真剣に深く勉強を教わった。
今までの時間を取り返さなければならない。二人は心地よい疲れと満足感でいっぱいになった。
予想以上に知識は入っているとグランシフォーヌ先生に褒められ、デルバールと二人努力した日々は無駄ではなかったと知る。
だが、まだまだ全然足りぬ。
リュシオールは、王宮内では見た目も態度も軽薄に見えるようにし、道を外しそうな危うい態度をとり続けた。
出る杭にならなければ、しばらくは害されないだろう。
今のところはまだ、王家にとって私は少しは価値があるらしい。
ただ他の貴族達からは、担ぎ上げ価値もないらしく、身に覚えのない噂も山ほど流れているがわざと放置している。
当然、王家が見放しそうな私に娘を押し付けようとする者も減っていった、
このような状況では、ほぼ王位継承権を放棄したのと同義であろう。満足か王よ。
王妃からは、苦言を呈されたがそのままにしておこう。
あの人は、私の味方にはなってはくれなかった。
学院に入学すれば寮に入ることとなる。
専用に任されている執務もないことだし、当分、王宮に帰らなくてもいいはずだ。
兄は飛び級の資格を得て、尚且つ、後継者として執務をすでに行っていた。
そのため、週に一度程、王宮から学院へ通うだけだったらしい。
ここ数年、飛び級資格は兄しか出なかったと聞いている。やはり変わらずに優秀なんだろう。
今頃、アルフレッドはどうしているだろうか。
約束を果たすべく領地でも、きっと頑張っていることであろう。
再会する日を待ち遠しく思わない日はない。
辺境会議を成功させたことも耳に入ってきた。
声をかけてくれたらば、なんとしてでも駆けつけ、王族として力になることもできたのに。
頼りなく感じたのだれろうか。
次会う時までに、頼りにしてもらえるよう成長するしかない。
あれから、何年も何年も会えないとは思わなかった。
気が付いた時には、手紙を書くきっかけもなくなり連絡することもできなくなっていた。
親しく話す機会は訪れないかもと思うこともあるが、決して言葉に乗せない。
言霊にするならば、前向きな言葉を言い続けよう。
そうすれば、いつか再会できるかもしれない。




