2-4.目覚め
あの辺境の地ゲラン伯爵領で、全てのことが一転したのだった。
リュシオール様は自覚し、本当に努力し続けた。
それまで私、デルバールは、父宰相の言いつけを守り、将来的にリュシオール様の王位継承権を剝奪しようと動いていた。
適当な時期に爵位を与え、王宮から出てもらうためであった。
何も私利私欲ではない。
宰相である父も、現国王の意向を汲んでのことであった。
詳細は分からないが、父である国王が息子である第二王子を追い出そうとしているのだ。
何か事情があるのかもしれない。
父の命令通りに、私は幼少のころからリュシオール第二王子の側近となり、リュシオール様の能力をつけないように疑問を持たせないようにしてきた。
純粋なリュシオール様は、私を心から信用してくださり、事は上手く運んでいた。
その裏で私は、少ない自分の時間で知識を蓄え、いずれ父である宰相、そして第一王子の側近である兄の補佐を務めるべく努力し続けていた。
出会って数年経ち、父からリュシオール様の王位継承権を放棄させるため動けと命令された。
ただ、これに関しては父達の浅はかな考えの前に失敗した。
まだ、時期早々だろう。
実行しろと言われて吹き込んだが、あきれてものが言えない。
第一王子に何かある可能性だって捨てきれない。
その場合は、次の王位継承権第一位に国王の叔父である前辺境卿のドゥゴール様がなるのだと、ちょっと考えれば分かる事だ。
王妃様だけはリュシオール様の事を庇っていたようだが、どこまで親身になっているか真意はわからない。
ただ、それ以降、間隔を開けず王妃様主催のお茶会が開かれるようになった。
リュシオール様は王族としての役割もスペアとしての意味も正確に把握し、何かあった時のために子孫を繋ぐことも理解されていた。
令嬢に慄きながらも、できうる限り自分の役割を全うしようと努力した。
第一王子の婚約者が早いうちに定められ、残すは第二王子のリュシオール様のみ。
令嬢やその親が、必死にならないはずもない。
幼少より王家との繋がりを目論んできた高位貴族や令嬢は、プライドをかけ血眼になっていた。
王自身から発せられた、身分が低くとも選んだ者を伴侶にすれば良いとの発言が広まり、中、低位貴族はチャンスとばかりに躍起になる。
いつもすましている令嬢達の素の姿は年相応なのかな。
側近達の何気ない話が発端だった気がする。
自分達も目を覆いたくなるような、事実を知ることになるとは想像だにしていなかった。
その年頃のほんの少しの興味と、自身の婚約者候補選びをしているタイミングでもあり、令嬢達の秘密を暴くようで大いに盛り上った。
結果、人の裏表をいろいろ見てきた私でさえ垣間見た素の姿は気分を害するものであった。
純粋なリュシオール様は、なおさらだっただろう。
リュシオール様が、もう、女性は無理だと呟いた姿が目に焼き付いて今でも離れない。
父の命令があるとはいえ不幸にしたいわけではない。
しかしこの先、王の近くに居続けて良い結果になるとはどうしても思えなかった。
この頃には、リュシオール様は王の手の届かないところで、幸せに健やかに愛する者と生きていって欲しいと願うようになっていた。
あの発言後、王妃の采配で即日、心の療養の為に…表向きは辺境地の視察の為、ゲラン領に滞在する事になった。
そして、運命の日が来たのだった。
王宮に帰ると、リュシオール様は驚くほど意識が変わり、何とか知識をつけたいと考えた。
そして、すぐに国王に直談判した。
足りなかった家庭教師達を何度も願いつけてもらうわけだが、形だけであり、その家庭教師達の実力は皆一様に低く、評判も良くはなかった。
王子の教師は、優秀な者にそもそも依頼するのなのではと、リュシオール様自身この対応に疑問に思うようになり、自身の周りのことを観察し調べるようになった。
当然、第一王子の家庭教師は、皆、超一流の者達ばかりだった。
リュシオール様は王に訴えても無理だとわかると、王妃に相談した。
だが、王妃も力にならないとわかると、今度は自分でなんとかしようと夜会の時など貴族達に声をかけ始めた。
しかしそこでもうまくいかなかった。何かに邪魔をされ憤っていた。
そこでやっと王子は誰に妨害されているかを認識した。
誰の目からも隠れるようにして図書室など本を読みあさり、自力で自分の知識を高めるようになった。
基礎知識だけでも全然足らないことを自覚してからは早かった。
もともと優秀な方である。
私が妨害に一枚かんでいる事は分かっていらしただろうが、私には動向を隠すことはなさらなかった。
私なりに調べ、幼少より与えられている影に探らせていた報告が溜まってきた。
そろそろ父に真偽を問おうと思っていた矢先に出くわしてしまった。
それは、リュシオール様と王家の温室の奥にある薬草の実物を、こっそり観察しに行っていた時だった。
王と父が温室に入ってきて、辺境伯の話をしていた。
聞いていい話ではないだろう。
まずいと思い、こっそりと温室を出ようと思ったところに話題が変わり、決定的な会話を聞いてしまう。
第二王子と共に私も道連れに、王都から排出される予定であることを。
私自身も父にとっては捨てごまであった。
なんとなくは影の報告で察していたが、実際に聞くと辛いものだな。
自暴自棄になりかけたのを救ってくれたのがリュシオール様だった。
その後、二人で隠れて勉強し対策し合い知識を高めあった。
リュシオール王子は、やればやるほど吸収していった。
王国貴族名鑑やこの国の法律規範なども、すでに頭にしっかりと入っているようだった。
ある程度の物事や知識は把握し理解したが、将来的に何が必要で何が欠けているかがわからず、私達は壁にぶち当たっていたのだった。
気を抜けば、身内からも害を加えられかねないこの状況をなんとか打破したかった。
そのような中、機会は突然やってきた。
滅多にお目にかからないフロライト学院の校長である元辺境閣下が、王宮にいらしており、お目にかかる機会があったのだった。
閣下はリュシオール様の大叔父にあたる。
リュシオール様は閣下に真剣に訴えたが断られ、もう打つ手はないと大いに落ち込んだ。
その間にも、辺境の噂が幾度となく入ってくる。
戦果が激しくなり、ますます長引きそうだと。
王都からも警備隊から人数を送り込んでいる話を耳にする。
辺境伯代理として、アルフレッド様はいろいろな領地を巡り辺境の地を取りまとめているようだった。
屋敷の近くに館を作り、いろいろな部署をまとめ仕事をしやすい組織を作ったそうだ。
負けてはいられない。
私達もこの熾烈な貴族社会で生きぬかないといけないのだ。




