2-2.一日三秋
遡る事二年前。
「泣かないでください。」
「ディル。私は泣いてはおらぬ。」
明らかに目元は赤腫れ、声も若干震えているではありませんか。
王宮に戻るための馬車で、リュシオール様は目をしばしばさせ、ごまかすように窓の外を見た。
まあ、そうもなりますよね。
その日は、フロライト学院の入試日であった。
リュシオール様は一番に入試会場に着き、受付近くで試験開始ギリギリまでウキウキして待っていた。
試験自体については全く心配なく、私達が本気になれば、飛び級どころか学院に通う必要もない程に鍛えてもらった。
しかし事情があり、良い点数を目指してはいない。
中間あたりに留まる成績で充分だ。
どちらかと言えば、ギリギリの合格点の方が都合が良いが、最低点が分からないので危ない橋は渡れない。
開示される事はほぼないが、国王に求められれば学園長も成績を開示せざるを得ないと聞いている。
成長していないとアルフレッドに思われたくないなどと、ごちゃごちゃ言い迷いだした様には辟易したが、折を見てアルフレッド様に事情を説明しようと自己完結なさっていたので、まぁ、許しましょう。
試験中は従者も付き添えないため、廊下の所々には、本日拝命された騎士が配置されている。
将来を担う貴族の子息令嬢達が集まっているのだ。
しかも、今回は王族がいらっしゃる。
学院側も配慮に余念がなく、受験者もランダムに教室を分けられ、不正防止対策をしっかり施されている。
当たり前だが、リュシオールとデルバールの教室も違う。
試験開始時間まで割り振られた教室でどのように過ごそうかと考えていたので、受付近くを陣取っているのは私的には問題はないのだが。
リュシオール様のお友達を待っているだけ行為が、受験に訪れる者を第二王子と宰相子息が見張り選別しているような格好となってしまっていた。
これでは受付者や受験者にいらぬ緊張や期待を与えてしまいかねないので、だんだんとこの場にいるのがいたたまれない。
もう、何度目かになるやりとりが始まるが、これが最後だ。
「もう教室に参りましょう。」
「いや最終受付まであと5分ある。」
逆に言えば5分しかない。
「リュシオール様諦めてください。さぁ行きますよ。」
デルバールは、アルフレッドと情けなく呟くリュシオールを引きずるように割り当てられた教室に放り込み、自身も三つ隣の教室へと駆け込んだ。
ほぼ一日かけて、座学と実技の試験が終了した。
リュシオール様とは周り方が違ったのだろうか。
昼休憩も、実技の試験でも、廊下などでも、全くすれ違う事もなかった。
リュシオール様は、上手く力を調整できたのだろうかと、デルバールは若干キリキリとお腹が痛くなっていた。
最終的に待ち合わせた場所で落ち合ったリュシオール様は、茫然自失を体現していた。
アルフレッド様が現れない事に動揺し、全く集中できず、頭が回らなかったそうだ。
いやいや、私は何度もアルフレッド様が今年度に進学される可能性は低いとお伝えしましたよね。
リュシオール様は勝手にアルフレッド様に会えると期待した結果、妄想し迷走し自爆して、不本意ながらも私達が考え得る、最も都合の良い点数を叩きだした。
とりあえず、王子が入試に落ちるという前代未聞の事態にならず、グランシフォーヌ先生と共に胸を撫でおろした記憶は新しい。
数ヶ月後、リュシオール様と共にフロライト学院の入学式に参列した。
入試日当日に出会えなかったので当たり前だが、やはり今年度アルフレッド様は入学してこなかった。
ある日の夜会でアルフレッド様の妹のシャルロット様がブレナ学院に入学したと噂になった。
かなり優秀だが、非常に病弱だそうだ。
リュシオール様は、アルフレッド様も付き添ってブレナ学園に入学したのかと、また勝手に勘違いし、しばらく体調を崩した。
よくよく情報を集めてみると、アルフレッド様は領地の運営が多忙すぎて、今年度の入学を見送られただけとの事。
貴族には各家の事情があり、学校選びも準ずる。
こちらから伺ったり強要するのはマナー違反な行為であるのは、もう、リュシオール様も存じていらっしゃる。
幸せの形は皆それぞれだけれども王族としては難しいよなと、考えてしまう。
だからこそ、祈らずにはいられない。
アルフレッド様。
できれば。いや本当に頼みますから。
リュシオール様が壊れてしまう前に、フロライト学院にいらしてください。
デルバールは、辺境方面に手を合わせて願った。




