2-1.フロライト学院
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流れるような美しい菫色の髪を緩やかに黒い紐できゅっと結び、白色のチョーカーにアイオライトのチャームを取り付けだ。
エンブレムの入った濃紺のブレザーは真新しく気持ちが上がる。
足を少し開き右手をズボンのポケットに左手を顎に指をかけてみた。
姿見にうつる姿は、なんとか様になっているよな気がするのだが。
はぁ。クールキャラ。いつまで続くかな。
ガクリとシャルロットの力が抜けた。
王都中央に位置する辺境伯爵のタウンハウスは、フロライト学院から馬車でほど近い位置にある。
シャルロットがエントランスに降りると、扉が開き、執事のブルイが馬車のドアを開けながら礼を取り待っていた。
爽やかな蒼空の中、濃茶の馬車の紋章がきらりと光る。
さあ。今日はフロライト学院の入学式だ。
フロライト学院。ここは、シェラサード王国の王族や、王都の主だった貴族子女が集う。
基本的には三年間、一般教養に加えて専門知識、紳士淑女の嗜みやマナーなど学びながら、人脈作りをする。
一種の社交場のような位置付けでもある。
稀に成績優秀者であり、且つ領地事情がありや人脈など問題としない者は飛び級を得て早期卒業を狙う。
馬車から、シャルロットと従者のグリード、そして領地から共に入学を果たしたソフィアが降り、一緒に学院の門をくぐる。
三人共に背丈があり見目も良いので目立っていた。
なかでも先頭に歩くシャルロットは、透きとおるような肌にアイオライトの瞳、長い手足に、誰もを魅了する中性的な顔立ち。
姿勢よく足音もたてないような足運びに自然と視線が集まる。
すぅっ。一呼吸置く。
シャルロットは、意識して、できるだけ冷静に低い声を出し受付に名前を告げる。
飛び級入学したシャルロットとソフィアは幾つかの説明を受け、案内図で席の位置を示された。
入学式会場に入るとクラスごとにエリア分されており、半分程の生徒が、すでに着席している。
誘導しているのは在校生か。
なかなか統率が取れており、皆、身分の分け隔てなく丁寧に案内している。
思わず指示する側の目線になり苦笑してしまう。
用意されていた席は、一年生全員のエリアの最後方部に位置していた。
飛び級者が下手に絡まれないようにとの配慮だと聞いている。
男女二人が先に座っていたので、ぺこりと軽く一礼してシャルロットが中側に入り男子生徒の隣に座る。
ソフィアは、軽く周りの様子を確認した後、通路側へと続いて座る。
前の席が一年生との区別の為か、他の席よりも少しだけ離れている。
シャルロットは、ゆったりと腰をかけ、姿勢を正し膝に手を置いた。
目の端に、グリードが私達からできるだけ近い観覧席へと着席したの見えた。
ものの数分で新入生の大半の席が埋まる。
最後の生徒が入ったのだろう。ゆっくりと入口が閉まった。
案内されてきた令嬢達が、シャルロット達の前の席に、やけにゆっくりと座った。
入学式が始まると、学院長であらせられるお祖父様が出てきて寿ぎを述べられた。
わざとこちらを見ようとしていないのか、めちゃくちゃ凝視しているのに全然目が合わない。残念。
式次第によると、お祖父様の後は在校生代表生徒会長のお言葉だった。
「在学生代表 生徒会長 リュシオール・シェラサード第二王子」
おぉう。
「リュシオール様だ!」
小声で思わずぼそりと呟くと、隣のソフィアが反応した。
「アルフレッド様、リュシオール第二王子殿下とお知り合いなのでしょうか?」
「小さい頃にね、一度お会いしてね。覚えていてくれるかな。」
壇上に目をやると、バチリとリュシオール様と目が合ってしまった。
思わずフニャリと笑い、小さく手をあげてしまう。
リュシオール様は一瞬複雑な顔をした後、軽く目を瞑り見事な王子様スマイルで祝辞を淀みなく述べた。
そりゃそうか。誰だこいつはだよね。覚えているわけないか。
シャルロットは切り替え、堂々たる姿と言葉に聞き入った。
通り一遍ではない真摯な言葉に心が打たれる。
リュシオール様、立派になられてと、何目線か分からない立場でうんうんとうなづき感慨深く浸っていた。
司会者から閉会の辞が述べられ、一年生は、それぞれの教室へと移動するよう告げられた。
飛級組は、この場に残り今後の予定の説明を受けると聞いている。
本日、在校生は手伝いの者のみ登校しており、飛び級の者が自分のクラスへと実際に行くのは明日以降となるそうだ。
四人が黙って並んで座っていると、前に座っていた令嬢達がチラチラと見ていた。
ほとんどの生徒は起立しており、出口へと押し合わぬよう順次向かっている。
「同じクラスですよね。一緒に参りましょう。」
令嬢達は徐に立ち上がり振り向くと、一人の令嬢が椅子を超えてシャルロットに向かって手を伸ばしてきた。
だが。
「私達は、同じ学年ではございません。
申し訳ございませんが、手をさげていただけますか。」
一歩ソフィアが早く厳しい声音を出し、令嬢の手を退けようとシャルロットの前に手を出し遮っていた。
「つっ」
令嬢はソフィアを睨み何かを言おうとしたが、シャルロットが微動だにせず、驚く程の無表情さに思わず手を引っ込めた。
…公爵令嬢の私が近寄ると、皆、光栄だと喜ぶのにひどい。
それに、何、あの女。私が危害を加えるかのような態度をして。何様なのよ。
女子生徒は退けられた手を握りしめて、胡乱な目つきになる。
「新入生は、早く教室に向かうようにしてください。」
会場に残っている生徒を促すように、出口の方向から先生達の声がけが聞こえた。
一緒にいた友人が参りましょうと、その令嬢を連れ慌てて立ち去って行った。
「アルフレッド様、大丈夫でしたか。」
「あぁ。ソフィアありがとう。何されるかと驚いたよ。」
他領へ視察に行っても茶話会でも、少し気をぬけば何故か令嬢達はシャルロットに触れたり、体を押しつけてきたりする。
好意があるからこそ突然体を近付ける、なんていう思考を持たない無いシャルロットからしてみたら、満面の笑顔で寄ってきて体を触られたら何事かと身構えてしまう。
もしかしたら触って性別を確かめられているのかとか、疑われているのかと別の考えに飛び、罪悪感で心が辛くなってしまっていた。
それに、マナー教師のエスター先生から、刃物を隠し持っていたり、危害を加えられた王都で起きた実際の事件話も聞いているので、だた恐怖の対象でしかなかった。
お兄様も結構小さな時から、年上年下の令嬢に近寄られ、もはやトラウマに近いと話されていた。
今も、突然に振り向いた初対面の令嬢が、突如、シャルロットを掴もうと手を伸してきた。
なぜか獲物を狩るような殺気を孕んでおり、シャルロットもソフィアも戦闘体制をとってしまった。
学院、怖すぎる。
隣の二人が、心配そうな顔でこちらを見ていた。
明らかに私が上位貴族だとわかっているので、身分制度もあり、自分からは話しかけられないが、気遣ってくれているのを感じられる。
そうだよ。身分制度があるから、学内は平等とは言え、通常、自分より上位貴族に許可なく先に話しかける事はしない。
先ほどの令嬢は、かなりの身分の者なんだろうか。
担任だというグランシフォーヌ先生から、ここにいる四人は同じクラスに編入すると説明があった。
短めの桃色の髪に優し気な瞳、落ち着いた口調に、先ほどのことがあっただけに安心し心穏やかになった。
お互いに自己紹介をし、シャルロットは二人に、常時、話しかける許可を出した。
ガイダンスが終わり帰ろうと講堂を出て、シャルロット達は馬車の待機場方面へと体を向けた。
「おい。待て。アルフレッド、お前は私に挨拶もしないで帰るつもりか。」
シャルロットが振り返ると、腕を組み怒っているリュシオール第二王子と、ほほ笑んでいるデルバール様がいた。
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