1-27.雲外蒼天
この回で、1部完結となります。
大事な時間を充てて、お読みくださり感謝申し上げます。
ありがとうございました。
※予約投稿が上手くできず、いつもと違う時間の投稿となり締まらないまま1部完となりました(°▽°)
2部に向け、また頑張らせていただきたいと思います。宜しくお願いします。
物見櫓の警備から伝令が入り、屋敷内がバタバタと慌ただしくなった。
辺境伯家の屋敷の門に、先導の騎士の姿が確認できたようだ。
手の空いている従者や侍女達が、続々と玄関へと集まる。
ドレス捌きが板についたアルフレッドは早足で、あっという間にエントランスまで到達した。
馬車が玄関に到着すると、アルフレッドを中心とし、ザッと出迎えのための礼をとる。
その見事な整列は圧巻で、馬車から降りたフランシカは暫し見惚れた。
「ただいま帰りました。」
続いて降りてきたシャルロットが、出かける前と同じように、無駄にキリリッとした態度で皆に声がける。
礼をとき顔を上げたアルフレッドや家の者達は、その溌剌とした声に辺境会議の成功を察し安堵の笑みを浮かべた。
本来ならばこの日を境に、元に戻る予定であった。
だが、幸か不幸かシャルロットはこのスタイルを気に入ってしまい、アルフレッドにとって、このままの方が心と体を整えるのにありがたい環境であった。
「お兄様、もう少し、このままでいましょう。」
シャルロットはお兄様の食事の量が少しづつ増えていることも、夜に目が覚めてしまう回数が減ってきていることも、メイテアからの報告ですでに知っていた。
何より、時折笑顔が見えることを見逃さなかった。
それは、お母様やグリードも感じとっていた。
フランシカは迷いに迷ったが、しばらくは他領の人間と関わる事は無いだろうしと、シャルロットの提案を受け入れることにした。
その翌日。
「オデュッセイ伯爵から、先日のお礼を兼ねて話があるので訪問したい旨の手紙が届いております。」
フランシカはブルイから手紙を受け取った。
わざわざ使者を立て、返事を持ち帰るため待機しているそうだ。
「訪問を断るわけにはいかないでしょうね。
アルフレッドのみならず、シャルロットにも会いたいとおっしゃっているわ。
あの日、シャルロットとゆっくり交流の時間を設けなかったのが、仇となったわね。」
昔からよく知るあのお人は、また、ややこしいタイミングにと溜息を吐き窓外をみる。
了承の返信の手紙をしたため、使者に渡した。
二日後、オデュッセイ伯爵はやってきた。
応接室で待っていたフランシカは相合を崩し歓待した。
「先日は、取り仕切りしてくださりありがとうございました。
おかげさまで、無事に会を終える事ができました。」
サポートするのは当然の事とオデュッセイ伯爵は、あっさりと答えた。
しばらく、辺境会議の話やフランシカやその兄達の思い出話をして懐かしんでいたが、突然、オデュッセイ伯爵が不敵に笑った。
「悪いが人払いをしてほしい。まあ、そちらがよろしければ、このままでいいが。」
この方が、このような出方をするときは何かある。
フランシカは、いち早く反応する。
「ブルイ以外、全員、下がりなさい。」
護衛騎士や侍女を部屋の外に出し、扉をブルイがしっかりと閉めた。
それを見届けると、オデュッセイ伯爵は今までの折正しい貴族の座り方をやめた。
斜めに座り顎に指をかけ足を組んだ。
「それでなぜ、お嬢ちゃんを辺境会議に出席させたんだ。」
「何をおっしゃっているのでしょうか。」
フランシカは淑女の笑顔を貼り付け、バサリと扇を顔の前に開いた。
「めんどくさい建前はいい。
ゲラン伯爵領の時もシャルロットか。なあ、フランよ。」
幼少の時から兄たちと一緒に、オデュッセイ伯爵、いやブレナ学園辺境分校長にはお世話になりまくっている。
顔を作り続けたが、見抜かれている。完全に露見しているわね。
「あの・・・」
「いつもの威勢はどうした。お前の子供達にも、何回、会ってきたんだと思っているんだ。」
そうですよね。
フランシカは、幼少の時から、オデュッセイ学園長に可愛がってもらっていた自覚がある。
剣も兄達を待っている時間、よく学園長が出てきて手合わせをしてくれたものだ。
フランシカがプロライト学院に通うと知ると、明らかにガッカリしていたと兄達から聞いて、直前に少し迷ったくらいだ。
月日が経ち、その当時の辺境伯次期領主のガートルートとフランシカの婚姻が決まった時、オデュッセイ伯爵は、自分の娘のことのように喜んでくれた。
因みに、オデュッセイ伯爵には娘がいない。
アルフレッドが生まれた時など、親友である辺境伯のドゥゴールと泣いて抱き合っていた。
シャルロットとも、何度も合ってもらっている。
まぁ、用事をわざと作って、辺境伯の屋敷に来ては、自分の孫のように可愛がってくれていたのだが。
ご自分の直系の孫が産まれ、アルフレッドとシャルロットを可愛がるのはあまり良く無いと自重され、我が領地にいらっしゃる事はなくなった。
ここ数年、夜会などでもアルフレッドも挨拶程度の交流しかなかったため、フランシカはすっかり失念していた。
「安心しろ。ほかの者には、ばれてはおらぬ。もちろん私の息子にもな。」
「ご配慮いただき恐れ入ります。」
「まあ。なんだ。二人を呼んできたまえ。どんな格好しているが知らんが、そのままでいいから。」
フランシカがブルイに目を向けると、一礼してブルイは部屋を出て行った。
しばらくすると、二人はやってきた。入れ替わったままの状態で。
「さて、事情を話してもらおうか。」
シャルロットとアルフレッドは挨拶し、オデュッセイ伯爵の前のソファーへ並んで座った。
お母様の見たことのない完敗状態の姿を見て、シャルロットは悟った。
これは話しちゃっても、いい人だ。
辺境会議の時も常に陰で守ってくれていた。
シャルロットが上手く進行させているように誘導してくれていた。
お母様に目をやると、話してどうぞとでも言うように、右手のひら上に差し出されていた。
それならばと、事の始まりから全部話をした。
途中のフリフリ話は、お兄様が隣で卒倒しかけたが、シャルロットはお構いなく話続けた。
「だから、私はお兄様になったのです。責任はすべて私にあります。」
「私が弱くてシャルロットに迷惑をかけてしまったのです。私に責任があります。」
ほぼ同時に言い、二人はオデュッセイ伯爵の顔を見て驚いた。
オデュッセイ伯爵は泣いていた。いや、もう号泣の域だ。
かわいい孫のように勝手に遠くから見守っていた二人が、こんな苦労をしていると考えていなかった。
ドゥゴールは辺境の地を離れ王都に留まり、ドゥゴールの妻と共に、甥である国王からのレッチフィル領への妨害を交わしたり、調整しているのは知っていた。
自分にも何か手助けできないかと、折々にふれフランシカに様子をうかがっていた。
私にはきっと本音で弱音も言ってくれるはずだ。
何も言ってこないという事は大丈夫だろう。
フランシカからは元気にしている、大丈夫だとの貴族的な返信をもらい安心しきってしまっていた。
こうゆうところなのか。表面上しか見ず脳筋と言われるのは。
グイッと涙を拭う。
「そうだ。もうすぐ二人とも、学校へ行く時期じゃないのか。
どうするつもりなんだ?ブレナに来たら守ってやれるぞ。」
「私は。」
シャルロットは一呼吸おき、しっかりと前を見据えた。
「私は、フロライト学院へ通いたいのです。」
「そうか。それならばアルフレッドはどうする。」
「私は、ブレナ学園に進学したいです。学びたい分野の講義があります。」
「そうであれば、2ヶ月後の入学の試験をうけないか。
基準点を超えたらば基礎学習は免除される。お前ならば充分であろう。
在学は三年間だが、領地で執務がある者や騎士団に所属している者など、科目を最小限にして選択している生徒も多いぞ。
メイテアもグリードもそうだっただろう?」
優しい校長の眼差しを送る。
グリードは入学試験で基礎学習はほとんどクリアしていた。
足りない授業と騎士の剣術の実技、執事科の専門科目を履修していた。
メイテアも同じく、入学試験でなんとかなる科目は、できるだけ高得点でクリアした。
週に一回程、足りない座学の科目を詰め込み、侍女科で細やかな作法を身につけた。
ボリボリと頭をかきながら、それはそうとと、オデュッセイ伯爵が改まって話し出した。
「それとな。今日直接来たのには訳がある。
近隣の領主達が、アルフレッドに領地を訪問してほしいそうだ。
断り続けるのは、かなり難しいぞ。後方支援の絆も弱まる。
私が付き添うので、早急に、周るような体制を整えてもらいたい。
アルフレッドかシャルロット。
どちらが表に出るのかは、そちらでよく考えることだな。
ドゥゴールのヤツにも話しておく。
なんにせよ、私はできる限り力を貸そう。」
※※※
あれから二年。
爽やかな蒼空の元、王都にある辺境伯爵のタウンハウスから一台の濃茶の馬車が出る。
車体は一片の汚れが無いように丁寧に手入れされており、車体に施されている紋章も磨き抜かれている。
さあ。今日は、フロライト学院の入学式だ。




