表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VIOLETlazward 〜辺境伯令嬢シャルロットの奮闘記〜 【第1部完】  作者: 和霞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/27

1-25.エスター先生

「いってきます!」


 遡る事三日前、 シャルロットは無駄にキリリッとした顔で小さく手を振り馬車へ乗り込んだ。


 先に乗っていた辺境伯夫人のフランシカは、表現し難い微妙な顔をしていた。

 シャルロットに続きグリードが乗り、ブルイは御者の横に座る。


 乗馬した騎士達や後ろの馬車の従者や侍女達も用意ができたようだ。

 ゆっくりと先導の騎士達が動き始める。


 アルフレッドは、自分のできる最大限で大きめに手を振った。


 見送りが終わり振り返ると、家に残った従者や侍女達が軽く頭を下げていた。

 

 ここ数日は、独りで領主として勤め上げなければならない。


 アルフレッドはドレスの裾をたくしあげ、別館へと固定した笑顔を貼り付けて足早に戻る。

 そして部屋に入ると見送り用のドレスを脱ぎ、簡素なディドレスに着替えた。

  

 急ぎ執務室に戻り仕事に取り掛かる。数時間経っただろうか。

 

 トントンとドアをノックする音が聞こえた。


「昼食をお持ちいたしました。」


「んんっ。どうぞ」


 少し高めの明るい張りのある声で返答すると、メイテアが昼食をワゴンに乗せて入ってきた。

 メイテアだとは分かっていたが、緊張するなと自嘲する。


 メイテアはキラキラした目をアルフレッドにロックオンしながら執務室に入り、小さめのダイニングテーブルに食事を並べていく。

 

 アルフレッドは、ゆっくりと立ち優雅にテーブルまで歩いたのち、フワリと羽の様に椅子にかけた。


 おかしなフィルターがかかっているメイテアは、うっとりしながら妄想チャージを満タンにしていた。

 

 アルフレッドは、メイテアはシャルロットが大好きだから仕方ないなと呆れながらも、その口角は自然と上がっていた。


 アルフレッドは皆と約束した通り、シャルロットと入れ替わってからは、以前のように食事を取り忘れる事をしなくなった。


 どんな時でも、シャルロット様はお食事優先ですっと、メイテアに鼻息荒く用意されたら、仕事の手を休めざるおえない。


 淑女のマナーを心掛け楚々といただく。


 図らずともそれが功をなしたようだ。

 小さめに切った食材をゆっくり咀嚼して、できるだけたくさんの回数を口に運んだ。

 まだ、味覚がないとしても。


 アルフレッドが食後の紅茶を飲んでいる間に、メイテアは手早くテーブルの上を片付ける。 


 ほぼ召し上がっていただけたお皿を見つめ、メイテアは、グリードが見たら泣いて喜んだだろうなと、アルフレッド様命の弟を思う。


 アルフレッドは口をナフキンで拭ったあと、いつものように、シャルの考案した肩回し運動を軽く行う

 騎士団の準備運動をシャルなりにアレンジしたらしいが、だいぶかけ離れていて、私も笑いながらやっていたら癖になってしまった。


 日が傾く頃、メイテアが呼びにきた。

 本日の執務はすっかり片付いたが、領地整備についての議案書を読んで注釈をつけていたところだった。

 

「本日の仕事は終わりでございます。お疲れさまでした。」

 

 メイテアに深々と頭を下げられ、少し強引に執務室から追い出される。


 シャルロットの部屋に入りソファーに座ると、メイテアがすかさず紅茶を用意してくれる。


 珍しく机の上の書類が無くなり、目に見えてスッキリしていた。

 今日の仕事が終わったとアルフレッド自身、久しぶりに満足していた。


 

 翌日アルフレッドは、タフタ生地で作られた、光沢のあるグレーのドレスを手に取っていた。

 合わせるアクセサリーは、もちろんシャルロット手作りのチョーカーである。


 アルフレッドの髪の癖が分からないよう、メイテアに綺麗な編み込みのまとめ髪にしてもらっている。

 鏡に向かって浅く微笑めば、できる淑女風シャルロットの出来上がりだ。


 執務室で昨日のように仕事をしていると、メイテアが呼びにきた。


「シャルロット様、お時間です。」


 本邸のサロンまで着くと、メイテアは軽くノックしドアを開ける。


 フランシカとマナー講師のエスター伯爵夫人がお茶をされていた。


 エスター伯爵夫人は、すっとソファーから立ち上がり、そして、美しく見事なカーテシーを披露した。


「お待たせいたしました。エスター先生、どうぞお顔をお上げください。

 本日もよろしくお願いします。」


 顔を上げたエスター伯爵夫人に向かい、アルフレッドも軸のぶれないカーテシーを返したのだった。

 

 学校に必要な座学面の勉強は、ほぼ頭に入って理解していると自負している。

 シャルロットと二人で勉学を重ね、取りこぼしはして無いのではないかな。


 あとは実技だ。


 剣技も、実戦形式で騎士団と行っているので、授業レベルならば全く問題ないだろう。

 シャルロットも、そんじょそこらの子息達にも負けるような事はないだろう。

 

 問題はこのマナー講座と、学び始めたばかりのダンスの講座だった。

 因みに、ダンス講座もエスター先生に御伝授いただく。


 エスター先生は、王都に程近い領地の伯爵家に嫁いでいる。

 エスター伯爵夫人に支持を得たと言えば王都では一目を置かれる程に、生徒達も所作が美しく礼儀作法が完璧であると有名だ。


 そのような方に、この地で教えてもらえるのは運がいい。


 実家は、レッチフィル家分家の子爵家令嬢であるが、王族に所縁のある御姑様に厳しくも愛のある指導を受け完璧になったそうだ。


 今回は歳の離れた妹さんの出産のために、里帰りを兼ねてこちらへ戻っていらした。


 妹さんは大恋愛で結婚し、ご主人はレッチフィル騎士団に所属している。

 国境の戦いで夫が不在のため、かわいい妹を不自由な思いをさせないようにと、この地に戻ってこられたそうだ。


 エスター伯爵夫人は、ゲラン伯爵夫人と同級生であり、母フランシカの親衛隊所属である。


 エスター伯爵夫人は実家へ戻りしだい、いち早く辺境伯家に先触れを出し、いそいそと帰省の挨拶にいらしたらしい。

 その際、フランシカからシャルロットのマナーやダンスの教師を、時間がある時に少しでも通いでお願いできたらと依頼された。


 なに、そのご褒美!毎日でも!と食い気味に了承したのはご愛嬌である。


 アルフレッドもシャルロットも、基本的なマナーは王家に連なる家として、どこに出しても賞賛されるほどのものを幼少よりたたきこまれている。


 しかし社交などの情報収集、実践的に使うマナーや常識などの知識は不十分であった。

 フランシカも得意分野ではない。


 中間職のような位置付けのエスター伯爵夫人は、公爵家や侯爵家、はたまた、子爵家や男爵家の間を得意の話術と有益な情報で渡り歩き、信用を勝ち得て地位を築いたそうだ。


 そもそも学生弁論大会の活躍で、夫の父の伯爵に気に入られ、縁を手繰り寄せたくらい弁がたつ。


 多岐に渡る分野に興味を持ち、必死に勉強・観察し、観察眼で人が欲する品を多く流行配信した。

 ついにはエスター伯爵夫人に相談すれば何かしら誰かしらと繋がると、社交会のコネクターと称されるまで上りつめた。

 


 そつなくこなすアルフレッドならば、女性のマナーであっても手練れたものである。


 しかし、エスター先生から受ける講義は深く、新しい発見が多くあった。


 それに、女性側と男性側のマナーは、意識も意味合いも、こんなにも違うものかと驚愕した。


 男性にも仕草での暗言葉あるが、女性の方が複雑怪奇である。

 

 アルフレッドは持ち前のポテンシャルで、上品に振る舞い仕草も意味もしっかりと覚えた。


 なるほどね。

 令嬢達の扇の開きや動きに、こんな意味合いがあったんだ。

 結託されたらば、男達が太刀打ちできるはずもない。



 マナーとダンスの授業を終わると、心地よい疲労感があった。


 きちんと夕飯をとり、再度仕事に取り掛かる。

 気がついたときには22時少し前だった 

 気がつくと今日も机の上の書類は、きれいに片付いていた。


 サッと湯浴みをする。

 心穏やかに過ごせ気持ちも落ち着いている。

 そういえば、一日中、不安な思いをする事がなかったな。


 ふんわりと整えられたベッドに入り、天井を見上げる。


 明日は、辺境会議だ。


 お願いします。

 私の為に代わりに行ってくれたシャルロットや支える皆が、嫌な思いしませんように。


 上手くいきますようにと、そっと手を合わせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ