1-24.辺境会議
会議当日は、開始は10時からだというのに、早朝より続々と出席者達が到着した。
当家の従者や侍女達は、控室として用意した大広間へ出席者を案内している。
我が家を含めた領主18家門以外にも、騎士爵の方々や一代褒章の男爵家など、領地を持たない辺境地の貴族ほとんどが参加するようだ。
出迎えの挨拶などは、辺境伯女主人であるフランシカが務め、シャルロットは皆が着席した後、最後に入室する事になっている。
「そんなにみんな、困った事があるのかな。」
領主の執務室から、次々に到着する馬車を見ていたシャルロットが唇に指を添えキュルンとした目をしながら呟いた。
そんなシャルロットの上部から、ブルイの冷たい視線が降りてきた。
「気を引き締めてください。アルフレッド様はそのような態度はなさいません。
皆様、たとえ領地に問題なくとも会議に名を連らね、アルフレッド様や他の領主様方と顔繋ぎする事も大事な目的としております。
それに、オデュッセイ様の一番の狙いは誓いの確認でございます。
我が領地の意義でもあります故、心してください。」
失敗して欲しくない。そんな気持ちからか、ブルイから厳しめな声が出てしまった。
しゅんとするシャルロットのそばにグリードは寄り添い、シャル様ならば大丈夫と元気づけた。
「レッチフィル辺境伯代理アルフレッド様ご入場です。」
ドアマンであるグリードが扉を開け放つ。
皆が注目する中、シャルロットは堂々と会議室へ入場し、ゆったりと着席した。
この中で一番の高位貴族であり辺境迫代理のアルフレッドが、悠々と辺境会議の開催宣誓を宣言した。
その後、オデュッセイ伯爵に議長を任命し、息子の次期伯爵のサイラスさまが司会を努め、会は粛々と始まった。
最初にサイラス様から辺境の誓いが読み上げられる。
新規に領主となった者が前へと呼ばれた。
スペルシア領主カルダンと、ローイエ子爵領主ケルストだ。
二人は片膝をつき、書に手をおいて誓い了承する。
歴々の署名に続き、自分の名を連ねる。
そして、オデュッセイ伯爵より渡された薔薇の棘に親指を押し付け、ゆっくりと血判した。
それぞれが席に戻ると、お待ちかねの題してお困り事相談会だ。
結果から言うと各地から、私が想定していた範囲の大小いろいろな困り事が発言されていた。
議長のオデュッセイ伯爵や文官長のゲラン伯爵が、あうんの呼吸で次々と上手く捌いていく。
そして、参加願いした王都からの文官二名も、記録を取りつつ契約書をどんどん作成してくれた。
めちゃくちゃ優秀で、ありがたい!
シャルロットは基本的には黙って、気になるところをメモをとりつつ見守っていた。
しかしながら疑問に思ったこと、ちょっとした工夫点や意義などを折を見て意見した。
それが全体的に好循環を生み会の成功へと導いた。
成立したときには皆で拍手をし発言も促した。
公平にローイエ子爵領の問題もきちんと取り上げた。
しかし、ケルストの自分本意な要望や資金援助依頼に、呆れた周りの領主が引き受けていなかったのは仕方がない。
スペルシア伯爵領主は発言せず一生懸命メモを取り続けていた。
国王に願ったところで、叶える事が難しい事は身に染みて分かっていた。
だからこそ、自分以上に領間で取引が成立していた。
国境の情勢も悪く、領地の現状もお互いに理解し、自分達の利益だけではいけない事に改めて気付いた領主も多かった。
だからこそ。
会議中、遠くの席からケルストが、さもアルフレッドと親しげな仲良しアピールしてくる様には嫌気がさした。
領主達も、会議前にはほぼ正確な情報を入手していたため、その様を冷ややかに見ている。
シャルロットにしてみたら、ケルストに対する一片の情もない。
全面微妙な笑みを浮かべながら、躱わす事一択だ。
閉会と同時にシャルロットはオデュッセイ伯爵に促され、縋るような視線を無視し退出した。
会議も終わり、出席者には別室で少し遅い昼食が振舞われた。
その場には、ただ一人未就学との理由で、アルフレッドは出席せず、フランシカが応対した。
出席者は皆、それぞれに交流を深めたのち、ほど良きところで馬車に乗り帰っていった。
道中各領地に保養所や風光明媚な場所があるため、帰りは視察という名の観光をしながら帰る者も少なくないようであった。
皆、和やかな感じでの解散となり、フランシカ以下、辺境伯家の者達は皆、安堵したのだった。
「くそっくそっくそっっ」
華々しくローイエ子爵としてデビューするはずだったのに、なんでこんなにも屈辱的な始まりなんだとケルストは帰りの馬車でイライラしていた。
整った容姿に子爵家当主。しかも、親友は次期辺境伯のアルフレッド。
長年、縁談の申し込みも絶えなかったが、少し前から絶えてしまった。
当主になってから自分自身の意思で選ばせていただこうと、選り好みしていたら、この様だ。
こうなったら、今日、アルフレッド自身から、伯爵令嬢辺りを紹介させ、後ろ盾を作ろうと目論んでいた。
なのに、なんだ。少々の金でガタガタ言って、こちらは家の中が大変だったんだぞ。
まぁ、金を準備しなくても、父が引退してくれたのは僥倖であったけれども。
決定してくれた王家に感謝だな。
親戚達か用意してくれた別荘から突然、父と母、執事が王都に連れて行かれたというのは気になるが、王様からのお呼びだしらしいので、そのうち上手いことやって帰ってくるだろう。
もう、私がローイエ子爵家当主なんだ。
父など、恐るるに足らん。
しかたないな。教育を受けていないアルフレッドが、マナーを重んじる食事会に出席できないのは然もありなん。
私は爵位も受け継いだ事だし、アルフレッドと次に会う時は、誰か良き伴侶となるべく人を紹介してほしいと、メッセージをしたためる。
頼りにしてるぞっと。
会議中、アルフレッドの後ろに立っていた執事が、食事中は私の後ろに控えていた。
丁度良いので、一言二言、私が力になるぞ的なメッセージを預けてきた。
友人想いに感動したのか、執事姿のまま震えていたのは笑えたな。
面倒見が良いアルフレッドの事だから、結局、なんだかんだで手を貸してくれるだろう。
もしかしたら、払い過ぎた賠償金を一部返還してくれるかもしれない。
ケルストは大きな誤算をしていた。
メッセージを渡した相手が自領を完膚なきまで追い詰め、心から自分を憎んでいだ事を。
しかも、今の中身はシャルロット。
ブルイから受け取ったケルストからの手紙を、即座にビリビリに細かく破き、良い笑顔で窓からばら撒いた。
眼前には澄み切った真っ青の大空。
窓下には、きれいに庭の掃除を終え、箒を片付けようとしていた侍女達が哀しそうに私を見上げていた。
即刻、慌て転げるように謝りに行ったのは余談である。




