1-23.ドゥゴールウォール
開催二日前の昼過ぎ、ドゥゴールウォールにフランシカとシャルロットが到着した。
辺境伯の屋敷から厳選された騎士、従僕、侍女も同行している。
久しぶりの領主家の訪問に沸き立ち、ウォール内で働く手の空いている従僕や侍女達は皆こぞって入口にて出迎えた。
歓迎されシャルロット達は門内に入る。
要塞のようなドゥゴールウォール内は兵舎や働く者達の部屋だけでなく、当主一家の部屋や来賓の為の部屋や歓待できる広間もあり、充分な施設が備わっている。
そのうちの一角に、今回、領主会が行われる迎賓館がある。
ロビーホールでマントを渡していると、騒ぎを聞きつけた王都から派遣されている文官達が、慌て転がるように執務室から出てきた。
丁寧に挨拶をした後、シャルロットは文官達四名の中から二名、会議への参加して欲しい旨の依頼を出す。
すると、依頼書を受け取った文官は半泣きになり慌てていたが、まずは礼を尽くし会議参加を承諾してくれたのだった。
彼らは、王都より一年程前に赴任してきた。
以前いた、どこぞの伯爵家の文官達は、辺境伯領に届いた品を横流ししようとした為、いろいろと吐かせた上で王都へ送り返して差し上げた。
もちろん、証拠はしっかり、首謀者その他諸々余罪も含め、こちらでガッツリ握らせていただきました。
王へは脅しがてらチラつかせていますよ。
相変わらず舐めていらっしゃる。
代わりにと近年稀に見る優秀な文官が派遣されてきて、王家と辺境伯爵家の関係が上手くいくように尽力してくれていたのは分かっていた。
しかし、今までの経緯もあり、辺境伯家では警戒を怠らないようにしていたのよ。
この会議の開催を隠し立てはしていないが、ウォール内で気取られないように指示を出していたのも確かであった。
「フランシカ様、アルフレッド様、お部屋にご案内いたします。」
文官達の見ながら考え事をしていると、ウォール内を取り仕切る執事サイラスから声がかかった。
サイラスは以前、我が家で執事として仕えてくれていて、私達が生まれた頃まで屋敷にいてくれたの。
お祖父様の代替わりと共に、こちらに移り取り仕切ってくれている頼れる存在なのです。
ブルイはサイラスに執事としての全てを教わったので、頭が上がらず、会った途端から一歩引いている。
サイラスから、あの者達は、今までの文官達とは違うようですよと報告を受ける。
文官達が半泣きになっていた理由は、王家から辺境伯領に行く機会を作るように執拗に指示されており、機会があれば必ず行くので即刻必ず連絡するようにと厳命されていたからだった。
辺境会議という公式に訪れられる格好のチャンスを見逃したのだ。
それは、泣きたい気持ちにもなるだろう。
ただ、見逃したには理由があった。
スペルシア伯爵領から辺境伯領宛の膨大な書類を、急ぎで処理し承認していたからだという。
本来王都の然るべき課の文官が、即刻精査すべき案件のはずであるが、担当大臣から辺境赴任の文官で処理するようにとの指示があり、膨大な書類が届いたそうだ。
通常であれば左遷されるような人材が辺境の地に派遣されていて、書類をわざと放っておいたり、見なかった事にされ、処理が遅れ承認されるのに時間がかかるのが常であった。
今は、たまたま優秀すぎる者達が揃っていた。
図らずも王家の意向で。
王都の仲間から経緯を聞き、スペルシア領の倫理感に憤ってくれ、早く道理を通そうと書類を整えてくれたそうだ。
そのおかげで短期間で物事が進んだらしい。
ありがとぉっ。
その間にも、くだらない(くだらないって言っちゃった)、王家から訪問許可はいつおりるのかと、伝書鳩がポッポポッポと頻繁に窓をコツコツされたようだ。
国防が最優先だと分かりすぎている文官からすると、身勝手な訪問伺いを何度も辺境伯家にする自分達が嫌すぎた。
膨大な書類仕事を言い訳に、ほんのちょっとの期間、訪問お伺い案件を放置してしまった。
間が悪かったとも言えるが、文官達は辺境会議に気づかず、今に至る。
嘆いてる文官に、大丈夫だよ〜我が家から上手く王家へ連絡するよ〜と王家への伝令を請負う。
我が家からの使者に用意していた手紙を持たせ王都へと向かわせる。
無理せず安全第一で、王宮まで行ってくれたまえと使者によくよく言い聞かせる。
使者は心得たと出立した。
意を汲んで、全部終わった辺りに王都へ着く事になるだろう。しめしめ。
まぁ、その前に、どこかから報告されているだろうけれどね。
逆に全く報告が上がってなかったら怖いわ。
とりあえず、間に合わないだろうから、オッケー。
あの文官達がお叱りを受けたならば、我が家にスカウトして働いてもらう事にしよう。うん。
門内の侍女達は、久しぶりの開催に張りきってくれている。
いつも綺麗にしてくれているが、使ってもらえる事に喜び、殊更美しく準備を整えてくれた。
本当に感謝しかないなぁとシャルロットは、首元の白い意匠のこらしたチョーカーをそっと撫でた。
翌日、シャルロットは細身のパンツにブーツを履き、赤いベストを合わせた姿で、グリードと共に、働く人々や兵士達に声をかけながらウォール内をぐるりと回った。
その際、日頃の感謝を告げたり困り事や何か要望はないかと話しかけながら方々を見ながら歩いた。
そしてウォール入口で騎士達と落ち合い、歩いて行ける距離の農村へと視察へ出る。
稲穂が頭をたれはじめており、感動に絶えない景色だった。
数分足らずで、農村に入口の代官の屋敷に到着した。
代官の屋敷は門の左右にある。
それぞれの家から代官家族が出てきた。
急な訪問であったが、実直そうな家族で、シャルロットは安心する。
二つの家で、この中央付近の農地を管理している。
因みに、他の門も同じシステムだ。
そして、彼らはもう一つの役割がある。
戦乱に陥った際、門の開閉をし領地の子供達を最後まで逃し続けなければならない。
最後なんて分かるはずもない、最後までなのだ。
そして、反面、大人は通す事ができない。
自分も逃げ出したいギリギリの選択の中で、実行し続ける必要がある。
覚悟は相当なものだと思う。
元レッチフィル騎士団に所属していた者が代官を担ってくれているそうだ。
感謝の念が絶ず、自然と頭がさがる。
代官夫婦達は、私の行動に焦っていたが改めて誓ってくれた。
このような領民達が、我が領地にいてくれるのだと誇りに思い、しっかりしないとと自身を奮い立たせた。
毎年、秘密の扉の開閉訓練もしているそうだ。
その際は、必ず訪れよう。
その後、村を案内してもらい視察を終えた。
さぁ、明日は辺境会議だ。




