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VIOLETlazward 〜辺境伯令嬢シャルロットの奮闘記〜  作者: 和霞


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21/26

1-21.誓い

昨日、投稿予約を間違えてしまいました。

本日もご覧になってくださり、感謝申し上げます。

 お兄様はドレスを優雅にたくし上げ、ふんわりと微笑み、ゆっくりとソファーへ腰を下ろした。

 私も上着の裾を少し跳ね上げ、お兄様を意識してキリリと凛々しく座る。


 お母様からは、ほぉうっと息が漏れ、ブルイはふむっと顎に手をやった。

 グリードは、素早く私の後方に控える。

 メイテアは…その顔は、おやめなさい。直後、ハッとして、お兄様の背後にたたっと移動した。


 並んで座る二人は入れ替わっているが違和感がない。

 見慣れないのは、首筋のチョーカーだけ。

 私はひらひらシャツの襟で半分くらい隠れてしまってはいるけれど。


 細工も繊細で着用しているアルフレッドとシャルロットの姿が華美ではないが美しい。

 いくらでもやりようがある。この品を辺境からの流行りにできると、フランシカは口元が緩む。


 流行を発信し領内を潤すのも女主人の大切な役割なのだ。


「シャルロット、このチョーカーについては、後程しっかり話ましょう。」

 お母様がお兄様に目を向けたので、アルフレッドの様相をしたシャルロットが、はいと少し声を張って答る。

 …ややこしい。


 色々と想定した結果、お兄様と私が入れ替わり会議に参加する事に落ち着いた。


 自分が出席した方が良いのではと、アルフレッドは最後まで言葉を揺らしていたが一同はアルフレッドの心を守る選択をした。


 お兄様は、またまた私に謝ってくれるけれど。

 自分自身をコントロールできず歯痒く一番辛いのはお兄様ご自身でしょ。


 だから、ごめんなんて言わなくていいの。

 それでもね。私達に向けてくれる気持ちがある事に、心のどこかが柔らかくなる。

 

 たとえ会議の出席したのが私だと気付かれたとしても、他の領主達に迷惑をかける事柄ではない。

もしも気付かれてしまったときは、スペルシア家とローイエ家の話をぶちまけて、悲劇のヒロインを演じようと一人算段する。

 

 まあ。私のみの咎で収められるだろう。

 シャルロットは左手を首元へ当てる。

 お兄様も左手を首後ろに当てて目を閉じていた。

 

 長年レッチフィル辺境伯に付き添い会議に出席していた執事のブルイが、今までの動きについて教えてくれる。


「御領主様が国境に行かれる四年程前が最後の開催でございます。

 それまでは、隔年に隣地の六家門の皆様が当領地の迎賓館に集まり、国防と相互協力の意思確認をされておいででした。」


 ブルイが一息付き、アルフレッドとシャルロットの顔を見た。


「ですから隣地であるスペルシア領とローイエ領の裏切りには耳を疑いました。

 しかも恩を忘れ、同時期にアルフレッド様を狙うとは言語道断。

 自分の利益の為、我が領を利用し騙すなど許される行為ではございません。」


「そのせいで我が領地が弱体化したりしたら、次に戦うのは隣地である彼らなのにね。」

 シャルロットは頬を膨らませる。


「先の先を思い描けない方なのでしょう。

 彼らの裏切りは、根幹を揺るがすものでした。

 ご存知の通り、我領民は自らの命をかけ国を守る代わりに、領内戦闘が始り次第、領外に子供を出し他領は無条件で受け入れるという誓約をしております。

 黒狼煙二本が上がると同時に、全辺境の領地から我領地の外壁ドゥゴールウォールに迎えを寄越し子供達を保護するという辺境の誓いです。

 この国創設時よりの誓いであり歴々の領主達の血判もございます。それに従い、長きに渡り、辺境伯はこの国を防衛して参りました。

 …信頼の上での取り決めが破綻し、領民に顔向けできなくなるところでした。」


 レッチフィル領のガートルード、スペルシア領のイリアス、ローイエ領のケルストの父マルカスは、歳も近く子供の頃から優秀で互いに切磋琢磨し高め合っていた。

 辺境の貴族子息達を導いてくれる優秀な三人に、ブルイを初めその世代の者達は皆、慕っていた。


 それに。

 辺境伯家の執事になるきっかけをくれたのは、他ならぬ、この三人のお陰だった。

 幼いあの時、声をかけてもらわなかったら、スペアにもなれぬ自分はどのような人生を歩んでいたか。

 

 それだけに、ブルイはこの事態が悔しくて怒りが収まらなかったのだった。


 シャルロットは辺境伯領皆の、命を守る合言葉を唱える。

 黒狼煙二本上がったら全てを捨ててドゥゴールウォールへ。

 物心つく前から、繰り返し叩き込まれる言葉だ。


 10歳までの子供達、自らが脇目も振らず向かわないと、親や大切な者達が生き残る確率を下げてしまう。

大切な人を守りたいならば、再び会いたいならば、お互いがためらわず、いち早く門をくぐり他領で待つこと。

 何度も言い聞かされて育ち、そして育てる。



「スペルシア領主様は重く受け止めて、あの日の内に我が家に詫び状を出し孫に代替わりしたわね。

 即刻、前領主様ご夫妻と息子夫婦は領地の片隅にある離宮に蟄居されたわ。イリオス様を廃嫡させないようにと手を打ったのは、見逃してあげましょう。

 王家より意外な程早く書類が通過したのは気になるけれど。

 加えて、我が領主より許可が出たので、全ての業務提携は停止。

 長年、我が領地より派遣していた土壌改良と害虫駆除薬剤調整の研究者や文官達も即時引き上げとなります。」

 お母様が奥歯を噛み締め、ゆっくりとスペルシア領方面の空を見る。


「問題はローイエ家です。表面上は代替わりが予告していたよりも早まったという事実だけでございます。

 しかし、商会は跡形もなく潰したので、現在、大きな商会がなく領外からの流通はストップし困窮しているはずです。

 同時に、国王に前辺境伯より脅しと共に直接苦情を入れ、無理めの金額の賠償金請求書も承認させました。

 数年かかるかと思い、追い込む手は考えておりましたが、先日、ローイエ家は騙した金と賠償金を当家に支払いました。

 アルフレッド様。お辛かったでしょうが、かなり当家は潤い、国境へも追加物資を送れそうですよ。」


 ブルイがアルフレッドを優しく見つめる。


 シャルロットの姿をしたアルフレッドは、こくんっと小さく頷いた。

 

「現在、ローイエ家は明らかに資金繰りに困っておりますので、聡い家門の方々は取引を中止している状態です。

今後の動向を把握するため、ローイエの現領主ケルスト様の近くに我が手の者を潜りこませております。」


「ブルイ、引き続きよろしく頼むわね。

 あの家がどうなろうとかまわないけれど、こちらに手を出してくるならば次はないわ。」


 お母様が今にも攻撃するような鋭い目つきになった。


「それで、皆が集まる会は、いつ開催されるの?」


 私も戦闘体制で鼻息荒くふんすふんすと前のめりに聞く。

 ズボンだから動きやすいわ。


「オデュッセイ伯爵に返事をしたら最速で6日後。

 王都側の十一領地の方々が、馬車で迎賓館に到着できる日数ね。」


「国王一家からの介入をさせないため、最短の日程で開催する方向で会場準備をさせていただきます。おそらく王都側の領主達は、この話を耳に入れた直後から、出立の準備をされていると想像いたします。」

 ブルイがドアを開け、ドア外で待機していた従者や侍女達に指示を出す。

 幾つか確認すると、ドアを閉める。


「今回、集まる要因としては、改めて辺境の誓いの再確認をすることが、最重要の要件だと推察されます。代替わりされた方の意思確認も必要でしょうし。

 オデュッセイ伯爵が、友である前領主様の為に一肌脱ぎ、辺境の地を団結させるために集める事にしたのでしょう。」


「そのあとに各領地の問題点のお話しがあるの?」

 シャルロットはメモを取り始める。


「基本的に領主は貴族として弱みを見せる事も、技術や人員を流出させる事もなさいません。

 先のお茶の事を伺いましたが、そもそも領地を越え手助けするようなことは災害時以外にはなかなか無い事でございます。」


「あの日は領地を超えて、技術提供や提案等、破格な取引をしていたわ。

 皆に認められ褒めらるという、あの妙な雰囲気と拍手に自尊心が掻き立てたのかしらね。」

 お母様がゆっくりと述べた。


「お祖父様やお父様は我が家の技術や人手など、他の領地を助けたり援助したりご尽力なされてましたよ。」


「シャルロット、それは我が家が辺境卿であり王家の血筋だからです。

 我領地だけが良いのでなく、助けを求められて手を差し出せるならば助ける努力をしなければならないの。」


 シャルロットは、アルフレッドと目を見合わせ姿勢を正したのだった。

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