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VIOLETlazward 〜辺境伯令嬢シャルロットの奮闘記〜  作者: 和霞


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2/22

1-2.呟やき

 ガタゴトと音をたて、馬車は王宮から比較的近い王都にある辺境伯の屋敷へと向かう。


 整備された道路の両脇には、様々にディスプレイされた店舗が立ち並ぶ華やかな王都。


 街ゆく人々も余裕を持って楽しそうにしている。

 それでいいんだけどね。独り言ちる。


 アルフレッドは窓にうつる景色に目を向けたまま、向かい席に座るグリードへぼそぼそと口を開いた。


「ごめんね。陛下への挨拶もさせずに。ご家族に会うのも久しぶりだし、もっと一緒にいたかったよね。」


「ははっ。ほんっと気遣いさんだなっ。ご存じの通り我が子爵家は入場が早いからね。

 全貴族入場が終わるまで、飽きるくらい両親や兄達と話したよ。」


「楽しそうだったからさ。メイテアにも合わせてあげたかったな。」


「お姉様の話は伝えたよ。良くしてもらっているようでと感謝していたよ。

 王族の方々へは、両親と次期当主の兄が挨拶するから四男の俺の出る幕はないしね。そもそもお前の従者枠で王宮に入っているから関係ないし。

 護衛から外れて悪かったな。家族と話す時間を作ってくれて、ありがとうな。」


 幼馴染にもどって気軽に答えてくれるグリードを、少しほっとしながらアルフレッドは見つめた。


「それより、お前は大丈夫か?陛下にくってかかりそうで見ていてひやひやしたよ。」 


 グリードは自身の体をかかえ、ぶるぶるっとして見せる。

 

 グリードが大袈裟に震える様子がおかしく、アルフレッドは長い足を組んだままククッと笑んだ。

 無意識に、そっと左手親指を頤に当て残りの指で首筋を包み込んだポーズが、伏せた目と相まり艶めかしい。


「こちらは相変わらずだなって思ってね。国境では、隣国ダムール国が虎視眈々と機会を伺っていて油断ならない状態なのにね。」

 

 剣呑な声質に、相当イラついているなと、グリードはちらりとアルフレッドに目を向け話す。


「ラガパ公国の戦力も兵力も年々増してきているし、攻めてくる間隔も短くなっているんだよな。

 最初の頃に殲滅させてくれれば良かったのに。

 何年も何年も防衛に徹しろなんて、王都からの指示は狂っているとしか考えられないよ。」


「グリード、言い過ぎだ。」


「あぁすまない。一番憤っているのは、辺境伯家のお前達だよな。」


「まぁな。最初の段階で叩けていたら、お父様もレッチフィル騎士団も、こんなにも戦い続けることなどなかったはずだ。」


「そうだよな。どれだけこちらの犠牲を払っているのか。

 防衛一択だとガラパの奴らに馬鹿にされているしなっ。

 それに、最近は攻めにきて、すぐに引く。何か大きなことを狙っていそうで嫌な感じがするんだ。」


「私もアイツらが、何かを狙っているように思う。

 そう言えば聞いたか。先程報告があったが、やっとガラパ公国の勢力が強大になった事に気づいた王が、なんで攻めて侵略しないのかって会議中に宣わったらしいよ。

 宰相以下重鎮達が、慌てて失言だと咄嗟にあちこちで叫んでいたらしいけれど。

 呼びつけられていた、レッチフィル騎士団、三番隊長達が斬りつけて良い案件なのではと、震えが止まらなかったと話していたわっ。

 もう、いっそのこと、この国見限るのも一つの方法だよね。」


「こらこら。お前こそ、言い過ぎだ。」

 

「一貴族の力だけじゃ無理な状況だとやっと分かったみたいだけれど、どこまでの人がどれだけ理解してくれているのか分からないよな。

 ただただ押し付けて、そろそろ十年になるんだよ。

 もちろん、どんなことがあろうとも、我がレッチフィル辺境卿騎士団が国境を超えさせるようなことはないよう心血注いでいるし、警戒を怠っていないけれど。

 こう頻繁に来られると疲弊するし、毎回、全員が無傷でいられるわけでもないんだよ。」


「だよな。まるでこちらを休ませないかのようにさ。最前線は心身ともに削られていっている。

 領民や兵士、国境警備隊の命が最優先だからな。」


「本当にね。領地のことを考えたら、あんなに贅をつくした会場にいることはできなかったよ。

 今、必死で戦っている人がいる事を、血が流れている事実を分かろうともしていない。他人事なんだよね。

 今の王家は、戦乱を止めさせるために、自分達で考え動こうとなんて思ってもなさそうだし。

  本当に、虚しくなる。何のために、何を守るために領地の皆が戦っているのか。」


「そうだよな。こんな状況下で、くだらない王命が出るとかさ。領地の皆、誰もが驚愕したよな。

 戦闘中の当主様を舞踏会のためだけに王都に呼び出そうなんて、なんの冗談かと思ったよ。」


 2週間前に王命を受けった時の領地の人々の憤りを思い出し、二人して肩をすくめる。


「本当の状況を、知ろうとしてないんだよ。

 今年は辺境伯が舞踏会に参加します〜なんて、万が一にもラガパ公国に伝わったら、ここぞとばかりに領地が攻めいられたりしてもおかしくないじゃない。 

 王都までの道中だって、襲おうとか攫おうとか、暗殺しちゃおうかなとか。そりゃ、機会があったら狙うよね。」

 

 ボスっ。グリードの思いがけずいいところに、アルフレッドのパンチが入ってしまう。


「ゲホッ。痛いわっ。」

「あっ。ごめん」


「まぁ、実際、先に出発した囮の一行が襲われているわけだし。

 辺境伯爵一家は、皆の精神的支柱だからな。ただ武力云々だけじゃないんだよ。

 万が一にも国境が破られたら、王都や自分達が危険になるって事、本当の意味では理解してないんだろうな。」


「いつも通りの日常が過ごせているから安全だろうって信じてる。すべてが、他人事すぎるんだよ。

 いつも通りなんて、普通の日常なんて、もろくて、すぐに壊れてしまうのに。」


「そうだよな。いつも通りの日常なんて奇跡の連続なのにな。

 大変な時に送り出してくれた部隊の皆に、こんな王都の様子を話せないよ。」


「今年も行くことが叶わないと返事したら、家門から絶対に、最低でも1名参加しろって王命の通達がきたからさっ。

 しかたなく!しょうがなく!!私が王都に行く羽目になったのに。」


「結局、王に対して、辺境伯家は従順で親密なんだというアピールのためだけに、お前は使われただけだったな。」


「要望だって聞かれたけれど、ないです以外はご機嫌斜めになるくせにさ。

 前にさ、穀物の収穫時期にラガパ公国が連続して攻めてきた時、慌てて前線に人員や食料をほとんど送ったじゃない。

 領地の供給が耐えられなくなってさ。

 国に至急の援助を願った時、なかなか返答がなくて、書簡が届いていないんじゃないかとも思ったよね。

 結局、聞きつけた王都のおじいさまが用立てしてくれて事なきを得たけれど。」


「やっと領内の収穫し終わったころに、嫌味と恩着せがましい言葉と共に、少量の物資が届いた時には笑うしか無かったな。」


「どんな品物でも大事なんでね。有難くいただきますけれどね。

 一番腹が立ったのは、お父様の武勲が王都で噂になった時に、王命で国直属の国境警備隊に、いきなり制約がかかったあれだよ。

 辺境領に嫌がらせの域を超えて敗戦させたいのかと思ったわ。」


「アレはマジで許せないが、それのおかげで王都から騎士団員集める道筋や協力者ができたから飲み込もう。」

 

「次から次へと、言ってやりたかった事が。うぅ〜言えないけど〜。

 どうしよう、グリード。愚痴が止まらない〜。」


 グリードは、王宮広間でのキラキラキャラはどこへ行ったんだかねと遠い目になる。


 こぶしを握り締めながら、文句が止まらないアルフレッドに向かって、わざと大きな溜息をついた。


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