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VIOLETlazward 〜辺境伯令嬢シャルロットの奮闘記〜  作者: 和霞


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15/22

1-15.帰領

 ゲラン伯爵家の執事に出迎えられ庭園へと案内された。


 行先には色とりどりの薔薇が咲き、木々から漏れる光がきらきらと輝いていた。


 目を細めたフランシカはアルフレッドにエスコートされ、庭園へと足を踏み入れる。


 久しぶりに会うゲラン伯爵夫人が駆け寄ってきて、満面の笑顔で向かい入れてくれた。


 アルフレッドと共に、招待いただいた礼をする。

 アルフレッドも、いつもと同じように、しっかり口上を述べており気のせいだったかと細い息を吐いた。 


「お待ち申し上げておりました。お会いしたかったです。フランシカ様。」


 学生時代からの友人であるゲラン夫人はフランシカの腕に自身の腕を絡ませた。

 跳ねた声が嬉しくてたまらない様子を物語っていた。


「相変わらず、辺境伯夫人が大好きなのだな。」


 一学年先輩であったゲラン伯爵は、昔から変わらずの品良く穏やかな微笑みを浮かべていた。


 いつものやり取りをしているうちに、アルフレッドはゲラン伯爵子息のユーリ様と話しをしていた。


 ユーリ様がご一緒ならば大丈夫ね。


 フランシカも庭の中央へ進むと、すぐに人垣ができる。

 

 チラリとアルフレッドに目を向けると、リュシオール王子達と話が弾んでいるようだった。


 しばらく見ていなかったアルフレッドの明るい顔付きに、フランシカの瞳が柔らかくなった。


 それを見ていた御婦人方が、変わらずの王子様スマイルに色めき立つ。

 彼女達も幼少時代からのフランシカの親衛隊である。


 御婦人達は代わる代わるに挨拶を終え、夫に連れられ一人一人と離れて行く。


 一息つきフランシカはウェイターから、よく冷えているフルートグラスを受け取った。

 泡が口の中で弾け汗がスッと引いていくようだった。

 

 空いたグラスをウェイターに渡した時、いつの間にかフランシカの横にいた御令嬢の体がふらりと傾いた。


 咄嗟に支えるも顔を上げずに凭れ掛かってきて今にも倒れそうだった。

 お付きの従者を探すも、それらしい人物が近くにいない。


「お家の方を呼びましょうか。休憩所に移動なさった方がいいわよ。」


 ふるふると震えながら俯く令嬢にフランシカは声をかけた。


「大丈夫です。大丈夫なんです。」


 令嬢は支えてくれているフランシカの腕を、きゅっと掴む。


「でも、震えているし顔色もかなり悪いわ。」


「……リュシオール王子様達に気付かれたくはないのです。

 お願いします。屋敷の休憩室までご一緒してくださらないでしょうか。」


 令嬢は、いっそう掴む手に力を入れ縋る。


 ご縁を探しに来ている令嬢が、体調不良な姿を見せたくない気持ちも分からないでもない。


 貴族にとって他人の前で弱みを見せる事は恥であり、自分自身にとっても許されない行為なのである。


 ご令嬢はますます震え、少しずつフランシカに体重を乗せてきた。


 シャルロットと同い年くらいかしら。

 早く下がらせて座らせてあげたい。

 ここで倒れてしまい注目を浴びてしまったら、この御令嬢の心に傷を負ってしまうかもしれないわ。


 アルフレッドを目で探すと、パラソルの下に座りお菓子に手を伸ばしているところだった。

 グイードも近くで警備体制を取っている。


 この体制の時は我が家紋より下の者が話しかけると不敬となる。

 余程の考えなしでない限り、まず誰も近寄らないでしょう。


 今ならば御令嬢を休憩室へ連れて行き、すぐに戻れば問題なさそうだわ。

 そうと決めたならば一刻も早く連れて行かないと。

 

 この行動があの計画のスタートの合図であり、フランシカは、その判断に悔やむことになるとは想像もしていなかった。


 休憩室にご令嬢を連れて行き、庭へ戻ろうとすると執拗に引き留められた。絡みつけた腕を解かない。


 休憩室担当の侍女達も戸惑う程の行動であった。


 具合の悪い令嬢を力任せに解く事もできず、戸惑いながらも理由を何度か問いただすとスペルシア伯爵の縁者だと分かった。


 謀られた。

 先の夜会でアルフレッドに絡んできたのは、スペルシア家の者だと報告を受けている。


 泣き出しながらも離さない令嬢を退け、勢いよくバンッとドアを開けた。


 フランシカはドレスの裾をたくし上げ、鍛え上げられた脚力で廊下を走り庭へと飛び出る。


 遠くからでも分かった。貴族達数名がアルフレッドを囲んでいる。


 フランシカは顔が強張りアルフレッドの元へと駆ける。


 だいぶ後ろから何やら令嬢の泣き喚き追いかける声がするが知るか。

 

 フランシカの無駄のない騎士のような走りに、親衛隊達は我先にと追いかける。

 それに伴い夫や他の貴族達も何事もかとついてきた。


 フランシカが近付くと見物していた者達がサッと除け道をつくる。

 難なくアルフレッドの背後に立つ事ができた。


「メモを取らせていただきます。」

 ほぼ同時に、アルフレッドの凛とした声が発せられた。

 

 皆の動きが止まった。空気がピシリと変わった。


 アルフレッドは証人として周りの貴族達を巻き込み、証文を記入し本人にサインしてもらう手筈を整えた。


 これは正式な公式書類として扱える事を一瞬で理解し、皆、貴族の顔つきになった。


 辺境伯領主代理のアルフレッドの声かけによる要望を受け、貴族の矜持にかけ責任を負う覚悟をした。


 このようにして作成された要望書を見た辺境伯は、スペルシア領から距離を置くだろう。

 経緯を聞いた夫は、きっと許す事はないでしょう。


 フランシカは険しい顔のまま、アルフレッドの背後で騎士然とした立ち姿で睨みを効かせた。



 スペルシア家が退席し一段落ついたところで、ゲラン伯爵夫妻が急ぎ来て謝罪した。


 アルフレッドを連れて退席しようと思ったのだが、すでに多くの人々に囲まれてしまっていた。


 逼迫した切実な願いを伝える近隣領主や縁者の要望も、粛々とアルフレッドはメモを取り続けた。

  

 本来ならばリュシオール王子に直接伝えてもらえればと思うが…

 側から見ても分かるくらい、先程からの無関心な態度を見る限り、要望を伝えても無意味だと皆が判断したのでしょう。


 周りを囲んでいた貴族達誰も、辺境伯代理であるアルフレッドのお手並み拝見とばかりに、興味津々で動向を見守り、誰も立ち去らなかった。

 図らずとも困窮している事項が共有される事となった。

 

 話し合う中、近隣領主同士などの援助で解決される事案が多くあり、解決案が示されるたびに多くの拍手が上がった。


 拍手を受けた領主や家の者が自己顕示欲を満たし、少し誇らしげだったのはご愛嬌だ。


 いろいろとあったが、最終的に穏やかに会がお開きとなった。


 

 たとえ、スペルシア家を我が家の手で断罪しようとしても、王家がまた横槍を入れてくるでしょう。


 今は辺境領の皆の命が最優先。背後から刺されるような事が無ければ、それでいい。


 もしも、我が領地や家族に言いがかりをつけたとしても、この署名入りの文書があれば守ってくれるでしょう。

 多くの耳目もありますしね。


 我が子が、リシュオール皇子と友好的に話をしていた様子を思い出し、フランシカは窓外の遠く離れた王都の方を見る。


 フランシカは現国王と学院で一緒になったことがある。

 何かとちょっかいをかけられ、すごく。いや、ものすごく腹立たしかった。


 飛び級して同学年になったことがそんなに気に食わなかったのか。

 最後の最後まで、本当に嫌な事しかされていない。

 

 自分の思い通りに人が動かないと気がすまない方なのでしょうね。


 少しばかり馬車の速度が遅くなった。


 一度馬車が止まり屋敷の門番と御者が一言二言、言葉を交わした。

 確認のため、フランシカもカーテンを開け軽くうなずく。

  

 屋敷の警備櫓からキラリと望遠鏡のレンズが光った。


 屋敷へのアプローチを馬車が滑らかに進む。

 

 ほっとし、ほんの一瞬だけ全身の力が抜けたのが分かった。


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