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VIOLETlazward 〜辺境伯令嬢シャルロットの奮闘記〜  作者: 和霞


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12/22

1-12.白薔薇

 我が領の防壁が迫ってきた。

 馬車の窓から、できるだけ高く見上げシャルロットはキュッと唇を結んだ。


 馬車は塀内部の通路を進み領地に入る。

 古きからあるこの壁を、お祖父様が頑丈に且つ利便的に再構築した。

 

 賢領主だったお祖父様の名のついた、ドゥゴールウォールが我が領地の砦である。


 お母様は切長の美しい赤い瞳を外に向けていたが、西日が強いので閉めるわねと言い、カーテンがきっちりと閉めた。


 俯いていると、再び静かな時が流れる。


 私はどんな時も、お母様の隣に座る事が多い。

 だから正面からお顔をゆっくりと見る機会があまり無いのよねと、上目遣いに見る。


 お母様は少し顔を伏せていた。バーガンディーの髪が、はらりと一塊、目元に落ちた。

 鼻筋がシュッと通っており、うん、やっぱりかっこいい。


 私が同世代の令嬢より背が高いのは、高身長のお母様に似たからだろう。

 お父様も、スラリとおっきいけれど。


 お母様は辺境卿伯爵家の遠縁にあたるマーナー子爵家出身だ。


 マーナー子爵家は代々騎士の家系であり、親族のほとんどが辺境伯家のレッチフィル騎士団に所属している武闘派一族である。


 マーナー子爵家には四人の子供がおり、お母様は末っ子で唯一の女の子であった。

 そのため三人の兄達からは、めちゃくちゃに可愛がられていた。


 乳飲み子の頃から読み聞かせに始まり、それぞれの兄にもはやエンドレスで、懇切丁寧に剣も武力も知力も鍛え上げられていたらしい。


 お母様のお兄様である叔父様達は、皆、それぞれに違う種類の優秀さと格好良さがあり魅力的であった。


 その為、叔父様方がブレナ学園を卒業する頃には、子爵家でありながらも将来性を買われ、高位貴族家からも縁談が殺到したらしい。


 ついには縁者である辺境伯であるお祖父様が対応し、各家に断りを入れなければならない程に収集がつかず大変だったと聞いている。


 一番上の叔父様は若い頃は王都の部隊に入っていたが、現在は結婚し子爵家の領主となっている。私が行くと、いつもブンブンと振り回して遊んでくれる。

 二番目の叔父様は、現在も王都で近衛隊所属。

 三番目の叔父様も王都におり、警備隊第二部隊の副隊長さん。


 二番目と三番目の叔父様達は武勲を挙げ、それぞれ自力で騎士爵を得ている。

 二人共、王都にいる為なかなか会えなくて寂しい。


 叔父様達は幼少期、お母様を可愛がるあまりに離れがたく、とにかく一緒にできる勉強や鍛錬に各々付き合わせていたそうだ。


 お母様は三人分の学習を、しっかり三周付き合わされていたお陰で、否応なく過分に身についた。


 元々学ぶ事に貪欲だったお母様は苦も無く兄達に付き合い、さらに応用し幅広い知識を身につけていた。


 ご自分の勉強を始める年頃には、家庭教師から即日、勉強も剣術も大人顔負けで、全く何も教える事はないとのお墨付きをいただいたらしい。


 だからこそ、私が知る事に興味を持ったのと同時に、当たり前のようにお兄様と一緒に勉強を受けさせてもらえたのだった。


 お母様は叔父様達と鍛錬したり、騎士達と訓練をしていた為、ドレスでは無く、ほとんど叔父様達のお下がりを着て生活していたようだ。


 以前、その頃の凛々しい姿絵を見せてもらい、危うく初恋の君がお母様になっちゃうところだったのは良い思い出だ。


 騎士でもあったお祖母様のマーナー子爵夫人は、母フランシカに最初こそドレスを勧めていたが、どうせ騎士になるのだろうとズボン姿を容認した。


 辺境地の子供達の交流会等でも、ドレスではなく、叔父様方のキラキラしい衣装を借りてお母様は出席していた。


 叔父様方はお母様が令息達に気に入られて取られないよう、髪型から靴先に至るまで、最高の王子様スタイルに仕立てあげた。


 振る舞いも優雅で心根の優しいお母様は、辺境付近の令嬢達にモテまくり、いつも囲まれてキャワキャワと騒がれていたらしい。


 その最たる人が、その当時、家の都合で辺境の地の母方の実家へ預けられていた、現在のゲラン伯爵夫人だそうだ。


 フランシカの進学先は、マーナー子爵家の親族皆が代々通っており、隣地のオデュッセイ伯爵領にあるブレナ学園に進むと誰しもが思い込んでいた。


 しかも、三人の兄達が、学園に在籍していた延年数も長く、フランシカが行事に参加したり、迎えに行ったりと事ある毎に学園に顔を出し目立っていた。


 その為、外部の人達の中には、フランシカはブレナ学園にすでに通っていると勘違いしている人も多くいたのだった。


 そのような誤解はいざ知らず、お母様は、将来、憧れでもある国の防衛の要、レッチフィル騎士団に入団して女騎士になろうと決めていた。


 学生でいる時間がもったいばかりに、学校へ行く義務のない平民になろうと思ったが、家族皆に反対されてしまった。

 しかたなく、最速一年で卒業できる、王都のフロライト学院を受験する事を決め、知力も武力も鍛えていた。

 

 生徒自身の個人情報を守ってくれるという、学院長の信念も感銘した。


 兄達を紹介してほしいだの、煩わしい事にも関わりたくないと考え、誰にもバレぬように出自と顔を隠して試験に挑んだ。


 驚くほどの高成績で1年生の飛級と2・3年生の単位のほとんどを得て入学が決めだ。


 学院は領地の都合での復学などもあり出自を隠すには丁度良かった。

 顔は長い髪で半分隠し瓶詰め眼鏡をかけ、実技の単位を要する授業がある日だけ学院へ顔を出した。

 

 誰とも自分からは接せず、何故か他の者が近寄ろうとすると、どこからともなく人垣ができ、次の瞬間には居なくなっている。家名しか分からない、いるかいないか分からない令嬢。


 2年生前期の試験の終了後、フランシカは最高学年へ飛び級の推薦を学院長からいただけ、その特別試験日を告げられた。

 3年生の実技の習得できていない単位も、ほんの少しだけだ。

 これで、卒業でき領地へ帰れると気を抜いてしまった。


 一人で着々と努力し続け、黙々と早期卒業の目標に向かって純粋に頑張っていたのだけれども。

 人間の妬みは怖い。


 マーナー家の縁者ではあるが、フランシカだとは思っていない者達が一定数存在していた。


 保護者サインをもらうついでに、王都のレストランでフランシカがお兄様方と食事をしているところを目撃されてしまった。


 嫉妬した何人かのクラスメイトは、何も確かめもせず、結託してお母様を騙した。


 結果、お母様は最高学年に上がるための試験会場へ行けず、試験を受ける事ができなかった。

 学院長へも伝えたが、公平を期する為受け入れてもらえず、1年間での卒業は見送る事となった。


 お母様は自分の甘さに失望し、陰険な周りの態度に嫌気がさし、自分の武器とするものを再認識した。


 夏休み明けの後期初日、ひらひらの真っ白なブラウスに細身の黒いパンツ。

 髪も短く切り、眩しいばかりの王子様スタイルでフランシカは登校したのだった。


 わざわざ行かなくてもいいのにクラスに入り、名乗りを上げ、入学以来、一度も出た事の無いホームルームで不気味に笑顔を振る舞った。


 恐ろしい事に、クラスの皆や騙してきた者達も、全て何事もなかったかのように、一瞬で手のひら返ししてきたそうだ。

 手を下した側は軽いひと時の事象なんだろう。


 大切な事は自身の目で耳で必ず確認する事。

 味方を作る事。自分自身の武器を最大限、惜しみなく活用する事。

 出自だって容姿だって、自分を守ってくれる武器なのだ。

 めんどくさがらず、誠実に実直に人と付き合う事。

 小さい頃から、両親から口酸っぱく言われている事だったのに失念していた。



 一方、フランシカ入学してからずっと、過ごしやすいようにと、協力者と共に陰ながら守ってきた1学年上だったお父様は、突然目立つようになったお母様を見て焦りまくったらしい。


 急いで何度も何度も何度も…アプローチしたり、オウジサマ?と勝負したり、なんやかんやあったのは、話せば長〜くなる。

 

 やっとの事でお母様が了承してくれたので、お父様は誰にも邪魔はさせないとばかりに、婚約、結婚とすごい手腕で円滑に且つ最速に手続きし、今に至ったそうだった。


 お父様、頑張ったね。グッジョブです。


 因みに、今でも社交界の淑女の皆様には、白薔薇の君と呼ばれて根強いファンクラブが存続している。

 剣で黙らせられた紳士の方々からも、一目置かれているそうだ。


 帰ってからの事を考えたくなく、現実逃避してるうちにレッチフィルドの屋敷に着いてしまった。


 隣のグイードは、まだカタカタ震えていた。

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